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ロンドベルの見習い冒険者  作者: きたくま
冒険者学校を目指して
13/15

ママの指導

 2年生になって一週間目、学校から帰宅して昼ごはんを食べた後、ママに裏庭に連れて行かれた。

 昨日の話の後に、ママが僕に剣を教えると約束したので、早速今日から始めてくれるようだ。

 いつものエプロン姿なんだけど、その腰には、黒鞘の刀だと思うけど、長くて細い剣を帯刀している。


「ライル、剣っていうのはね、頭で理解できるものじゃないのよ。ひたすら反復練習して、その型が自分のものになったときに、スキルとして身につくものなの。

 ママはいろいろな剣のスキルを手にしたけど、一番頼りになるのは、一番練習した袈裟斬りよ。」

「袈裟斬り?それってどんなの?」

「相手の肩口から胴体を斜めに斬る技なの。昔の剣士の中には、この技だけで最強の称号を得た人もいたわ。まあ、見たほうが早いわね。」


 家の後ろに積まれた薪の中から、まだ短くカットしていない1mほどの枝を1本持きた。


「最初に型を見せてあげるわ。後で練習用の木刀を買いに行きましょう。」


 ママは僕の3mほど前に両足を肩幅に開いて立つと、右足を少し前に出して、膝を少し沈ませた。

 そのまま僕の頭と同じくらいの場所に、両手で構えた枝の先端を向ける。


「これが基本の構えよ。袈裟斬りは、このまま相手へと踏み込んで、肩口へと剣を振り下ろすだけなの。体を前傾していくと同時に相手の前へ踏み込み、一気に剣を振り下ろすだけ。」


 ママはゆっくりとした動きで、僕の方へと体を傾けてくる。

 動き出すときの動作が僕にはまったく見えないのに、枝はすでに僕の肩の上で止まっていた。


「え?なんで?」


 ママの体が傾いてきたところまでははっきりと見えていたのに、その後が見えなかった。

 体の動作があったはずなのに、気がついたら枝が肩に乗っていたのだ。


「剣士の剣は大きくわけて3つに分かれるわ。大きな剣で相手を圧倒する剛剣を使う騎士タイプに、曲芸のように飛び回って相手を翻弄する軽業タイプ、そしてママのように相手を斬ることに集中する侍タイプ。

 あなたがどのタイプになるかはまだわからないけど、今日からママが教えてあげるのは、全ての基本になる斬り方よ。

 退屈かもしれないけど、これから毎日なにがあっても休まずにやってみて。冒険者になりたいのなら、それだけで大きな助けになるからね。

 最後にそれぞれのタイプの動き方を見せてあげるわ。」


 ママは騎士タイプ、軽業タイプ、侍タイプの型を見せてくれた。


 鋭く強い騎士の型をみせてくれたときは、地面が陥没するほどの踏み込みをしながら、どんどん前に出て行き、基本十字の形で軽い枝で空気を壊すような音を出しながら斬り進んでいく。

 気合の声で、空気が割れるように感じるほどだ。僕の体がその声を聞くたびに倒れそうになってしまう。

 だけど、さっきの袈裟斬りとは違い、動きがなんとか目で追える。


 軽業のときには、ほとんど地面に足先が触れていないように見える。

 独楽のように回転しながら枝を振るい、飛び上がったと思ったら体を横にし、前後の空中を枝で振り払う。

 僕の頭上よりも高く飛び上がったと思えば、4,5m先に着地し、すぐに地面を這うように素早く動き、地面すれすれを枝で斬る。

 一気に前方に飛んで一瞬も止まらずに、周囲全てを切る様は、腕が4本にも8本にも見えるほどだ。


 最後に侍タイプの型を見せてくれたが、他の二つの型に比べて全く動きがない。

 直立した状態から枝をまっすぐに上へと伸ばすと、一気に3mほど前に出た。

 そのときに枝がいつの間にか地面に向けて振り切られていたのだが、やはりその動きを目で見ることは敵わなかった。

 振り切られたと思った瞬間には、右前方へと枝は払われ、今度は右下方から左上方へと枝は移動していた。

 その全てが無音の状態で行われ、僕の頭は混乱する。


 瞬きをするのも忘れ、ママに見とれていると、こっちを向いたママはにっこりと僕に笑いかけた。


「ライル、そんなに大きく口を開けていると、ハエが入っちゃうよ。」


 慌てて口を手で塞ぎ、固まった体をほぐすように、体を動かす。


「ママすごいや。僕のママって、本当にすごい!だってあんなに動いてけろっとしてるし、ただの枝なのに魔物だってママには近づけやしないよ。」

「あはは。ありがと。ライルに褒められちゃったから、最後に抜刀術を見せてあげるね。ちょっとあそこの木を見ててね。」


 枝を僕に手渡し、目の前にある直径20cmほどの木を指差す。

 5mほど離れて鞘に入った刀の鞘に左手、柄に右手をかける。

 目を瞑って腰だめに構えると、ふっと息を吐いた。

 ちん。

 音を出したのは、刀が鞘に戻ったときの音だろうか。僕にはその音しか聞こえなかった。


「あ、やっちゃった。。。」

「え?なにを?」

「久々にやったら、手元が狂っちゃったの。斬りすぎちゃった。」


 直後、狙った木がずれて切断面から下に落ちた。


 その後ろにあった大きな杉の木と一緒に。


『ずどどどん!』


 店舗の屋根に倒れた木の先端がぶつかって、大きな音を立てる。


「リージニア!!」

「あなたごめんなさあああい!」


 ママは店舗の裏口から飛び出てきたパパに叱られている。


 次姉のルイサが去年の暮れに生まれた赤ん坊のシエラを抱っこしながらやってきて、話しかけてきた。


「ライル、あれやったのはお母さん?

 やっぱりお母さんに剣を教えてもらうことにしたのね?冒険者になりたいって本気だったのね。」

「なんかママを見てたら自信なくしちゃったな。でも、やるって決めたからには頑張るよ。」

「まあ好きにしたらいいけど、危ない仕事よ。しっかり鍛えてもらいなさい。」

「はーい。」


 シエラのほっぺをぷにぷに突っつきながら、ママがパパに叱られ終わるのを待った。



 ◇◆◇


「さ、準備できたわよ。」


 僕と同じくらいの高さの木を2本、50cmほど離して、しっかりと下部を埋めて地面に立たせた。

 そこの間に使い古したTシャツを結びつけると、ママは『やったわ!』という顔でこっちを見る。


「これからあなたは、毎日1時間以上、このTシャツをその木刀で斬りつけるのよ。

 このTシャツが斬れるまでは、他のことは教えても意味がないの。一生懸命やれば、卒業までにはできるかな?」


 僕のうんざりした顔を見たママは、僕の頭をがしゃがしゃと掻き、両手でほっぺをはさみこんできた。


「始める前から変な顔をしないの!騙されたと思ってしっかり頑張りなさい。それから、Tシャツはいくらでもあるから、ママが時々交換しておいてあげるわ。」


 そういうと、立ち位置と木刀の握り方、振り方を教えてくれた。

 まあ、ママの姿に見とれたのは確かだし、強くなりたい気持ちだって嘘じゃない。

 食肉担当のポークロックさんが、腕を組んでにやにやこっちを見ているのが気になるけど、やってみるか。


 確かママは前傾姿勢から腕を上げて一気に振り下ろすと同時に移動していたはずだ。

 僕も振り上げた木刀の勢いを借りて、ぴんと張られたTシャツにむかって行く。


「たあ!」


 振り下ろす瞬間に目を瞑ってしまう。


『がぎん!』


 あら?


「あっはっは!ぼっちゃん、ちょいとTシャツと違うものを叩いたようだぞ!それから、『たあ!』ってのはやめたほうがいいなあ。」


 木刀の先端が叩いたのは、Tシャツの手前の地面だった。それから声は勝手に出ちゃったんだからしょうがないじゃないか!


「目は開けてなさいねライル。相手を見ないと大変なことになるわよ。

 それから、呼吸を乱さないで斬ることを意識しなさい。掛け声はいらないわ。」


 ママは全く笑っていない。てか、怖いんだけど。

 一度ママを見て頷き、もう一度構えてみる。


(ふっふっ、はっはっ)


 走っているときの呼吸を思い出し、横に張ったTシャツをしっかり見る。

 前傾していき、勝手に足が前に出るのを感じながら、木刀を振り下ろした。


『ばちん!!!』


「んきゃああああああ!!!」


「おおおおお!すごいぞライルぼっちゃん!!信じられん!!」


 Tシャツをしっかりと捕らえた木刀は、思った以上の威力が出たらしい。

 20cmほどTシャツをたわませた木刀は、そのままの力で僕の額に向かって跳ね上がってきた。



 僕とTシャツの最初の戦いは、僕の額に大きなたんこぶを作ったTシャツの勝ちだった。


 ◆◇◆


 翌日のジョギングのとき、軟膏を塗ったガーゼを貼って走っていたら、ラクアちゃんに心配されてしまった。


「ちょ、ちょっとライル君!?それどうしたの?あれ?手まで包帯してるの?なにがあったの?」


 いや、ラクアちゃん、近いってば!顔を抑えないで!目の前に唇がアップで見えるとどきどきしちゃうから離れて!


「落ち着いてラクアちゃん!大丈夫だから、ちょっと木が頭にあたっただけだってば!」


 ラクアちゃんの手をどうにか顔から離して、落ち着かせる。


「ちょっとね、剣の練習を始めようと思ったら、ちょっとした事故があってさ。」

「事故!?危ないことしたらだめよ。ライル君になにかあったら、ラクア泣いちゃうよ?」


 てか、もう泣いてるよね?

 しょうがないから、頭を撫でてあげると、ちょっと安心したのか、赤くなった顔で僕を見てやっと笑顔を見せてくれた。


「大丈夫、失敗したのは最初だけだから。後はちゃんとTシャツを殴れたから。」

「Tシャツ?え?剣の練習?」

「あ、・・・えっと、うん。剣の練習で、木刀を使ってTシャツを斬るって練習なんだけど、最初はTシャツに負けて、木刀を弾かれちゃってさ。今はちゃんと振り切ることができるようになったから、もう大丈夫。」

「木刀でTシャツを斬る?なんで怪我しちゃったか理解できないけど、気をつけてね。」

「うん、もう2度と自分の頭を殴りたくないからね。気をつけるよ。」



 同じ話をデガン先生やみんなの前で披露すると、全員に大笑いされた。

 ママ、本当に大丈夫なのかな、あの練習・・・

 手のひらに出来た血豆を見ながら、僕はため息をついた。



注意


ごめんなさい!

作者は柔道以外の武道は経験したことがありませんので、正直嘘八百を並べ立てております。

異世界での練習法はうさんくせえ!と鼻で笑ってやってください!

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