運動会
2015年2月21日に、今までの話を改稿してあります。
まだ序盤ですので、復習の意味を込めて読み直しをお勧めします。
入学から2ヶ月経つと、初等学校1年生が初めて参加する『大運動会』がある。
「じゃあ、みんなが出場する種目を今日は決めますよ。」
リモーネ先生が黒板にチョークで種目を書いていく。
全員参加するのは
・60m走
・玉入れ
の2競技だ。
それ以外の競技は一人2種目ずつ出ることになる。
・大玉転がし
・ムカデリレー
・借り物競争
・紅白青黄全学年選抜リレー
の4つだ。
「はい!選抜リレーに出たいです!」
「チオ君、わかってるから、ちょっと待っててね~。選抜リレーは男女3人ずつですよ。出たい人は挙手してみてね。」
リモーネ先生が言うと、ドッコ君をはじめ数人が手を挙げるが、定員をオーバーしてしまう。
「じゃあ立候補した人の中で足が速そうな人を推薦してみて。誰かいるかな?」
何人か声が上がったが、その中に後ろからライルの名前があがった。
「ライル君は毎朝頑張って走ってます。ライル君がいいと思います。」
あ。ラクアちゃんが言っちゃった。
「「「「「ライル君がいいです!」」」」」
あちゃあ・・・しょうがないか。
晴天に恵まれた運動会当日、順調にプログラムは消化されていく。
1年生の60m走は、開会式直後のプログラム1番だ。
8レーンまであって、各クラス2名が1レースに出場する。
1,2レーンは1組、3,4レーンは2組という風になっている。
そして案の定・・・
「おうライル。俺の隣を走るなんて度胸あるじゃねえか。今日は髪を三つ編みにしてないのか?」
にやにやしながらヒュドロが話しかけてくる。
いちいちちょっかいをかけてくるため、ライルも言い返すようになっている。
「いいから前向いて大人しくしてろよ。こっちに顔向けんな。見たくねえんだよ、その虫歯だらけの口とかさ。」
つい口調も悪くなるのはしょうがない。
チオが加勢しようとするのを押しとどめて、ライルは前だけ見るようにしている。
ヒュドロが喚いているが、聞かないことにした。
「お、次だぞライル、頑張ろうな!」
「チオ君ならぶっちぎりだね、置いていかれないようにがんばるよ!」
教頭先生がスタートの合図の破裂玉をスタートライン5mほど前に浮かばせる。
あれがパンっとはじけたらスタートだ。大体5秒くらいで鳴るので、身構える。
「いて!」
隣のヒュドロがライルの肩を突き、チオのほうにライルはよろめいてしまった。
『パン!』
その瞬間、破裂玉が弾け、他のレーンの子は飛び出す。
ライルを支えたチオは、ライルの腕を取り、前に出す。
「いくぞライル、追い越してやる!」
他の子供達の5mくらい後ろだが、チオは1年生とは思えないダッシュをし、追いかけていく。
(くっそ!ヒュドロの奴、絶対追い越してやる!)
前を見ると、先頭はヒュドロのようだが、すでにチオが並びそうな勢いだ。
「ライルー!なにやってんの!さっさとおいこせええ!」
姉のリンダが生徒会席で応援しているが、ライルには聞こえていないようだ。
50mを過ぎたところで、完全にチオはヒュドロを追い越し、ライルはその後ろを必死で追いかけている。
一応、ライルもジョギングの成果が出ているのか、序盤のハンデをものともせず、現在は4位まで上がっている。
チオが1位でゴールした後、ライルを含めた3人が団子のようにゴールに入った。
「ヒュドロ!なに邪魔してんだ!先生、ヒュドロを失格にしてください!」
チオがゴールのところにいた先生に抗議し、スタートを見ていた先生も、ヒュドロを叱っている。
結局、叱られただけで、ヒュドロは失格にはならなかったが、僅差で3組の生徒が2位、ライルは3位、ヒュドロは4位になっていた。
ライルはヒュドロに勝てたのでもう気にしていなかったのだが、そうじゃなかった子が一人いる。
男子の前に走っていた女子達の中から、銀髪を光らせながらラクアがやってきた。
「ヒュドロ君。ライル君にやったこと、しっかり見てましたよ。今のことをきちんと謝りなさい。
そして今後、あなたはライル君に近づいたり、話しかけたりしないでください。わかりましたね?」
「ライル君ごめんなさい。これからは近づいたり話しかけません。」
立ち上がってこちらに頭を下げた後、ヒュドロは離れていった。
「ラクアちゃん、力を使ったらだめだってお父さんに言われてるのに、だめだよ。」
「ライル君ごめん、でも、頭にきたんだもん。」
顔を赤くして涙目になっているラクアをライルはなんとかなだめ、自分の場所に帰らせる。
まわりのみんなは、ライルとラクアが話していても、今では関心を寄せなくなっている。
ライルもみんなが気づいていないような態度をとることに、この頃では慣れてしまった。
もちろん、ラクアの支配により、みんなから注目を浴びないようにしているだけだ。
「ヒュドロが謝るなんて初めてみたな。どうしたんだろ?」
チオにとっては、ヒュドロが一人で謝っていたようにみえたのだろう。
ライルはため息をついて、チオ達と待機場所へと戻っていった。
ライルは玉入れと大玉転がしを無難に乗り切り、最後の組別対抗全学年リレーとなった。
白組の1年生は、ライル、ドッコ、チオ、エムル、シエーラ、ラクアが出場する。
1年生から、4年生まで全学年で参加するこのリレーは、運動会の最後を飾る、一番盛り上がる競技だ。
ただし、1年生はほとんど戦況に影響を与えないため、気軽に走れる。
「ドッコ、ライル、俺達で他のクラスに一周差をつけようぜ。」
それでもチオにとっては活躍の場なので、張り切っている。
「チオ、4組にカモシカの獣人がいま・・・いるぞ。たしかムースだっけ?あいつは早いぞ?」
ドッコが言うムースは、先祖返りが強く出ている獣人で、関節も人間とは逆になっている。
ちなみに生徒の大半は人化が進んで、関節も人とおなじになっていることが多い。
「それでも俺のほうが早い!がんばろうぜ!」
結局、チオの頑張りで、ほぼ一周差をつけた白組が一位を取り、総合優勝に輝くことができた。
「今日のライル君、格好良かったよ!」
いつも通り右腕にぶら下がっているリリアンがライルに満面の笑みを向ける。
「リリアンも頑張っていたね!60m走で1位だったもんね。」
「あ!見ていてくれたの?ライル君が見てるかなって思って、頑張ったんだよ!」
左手をつないでいるパックは逆に沈んでいる。
「・・・やっぱ運動なんか嫌いだ・・・」
「ま、まあ来年また頑張ろうよ。一緒に走り続ければ少しは早くなるさ!」
大玉に弾き飛ばされ、ムカデの先頭では顔をすりむくほど転んでしまったパックは、意気消沈している。
リリアンがそんなパックに追い討ちをかけているのをやめさせながら、ライルは勝利を喜んでいた。
その日の夜は、親が奮発して、ステーキを焼いてくれた。
白組に勝ちを奪われた赤組のリリアンはぶつくさ言いながらも、肉を次々に食べている。
「まあリンダは頑張ったよ。負けたけど、女子の中ではリンダが一番可愛かったしな!」
応援に来ていたラギョースキが、見当違いの方向でリンダを慰めているが、まったくリンダは聞いていないようだった。
「もう、最後の運動会だったのに!なんでうちの男子は足が遅いのよ!明日から休み時間はずっと走らせてやるんだから!」
それはやめてあげて・・・とライルは心の中でだけ、姉を止めるのであった。
あ、読み直すほどの作品ではなかったです。
ごめんなさあああああい!