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第1話 伝説の始まりの始まり

素人ですが、読んでいただけたら幸いです。

 不死鳥が鳴いている。

 というのはただの思い込みだ。そもそも不死鳥という生き物が存在しているのかどうかさえ怪しい。いや、いないだろ。・・・いないな。

 そして朝早くの、こんな春の陽気のいい日に一人でこんなことを考えている俺は、








 ・・・・・・・・・虚しい人間だな〜。


 ・・・主人公なのに。


 作者も考えろよ、主人公(おれ)の扱いを。



 春も終わりに近い空の下、高校への道のりを、青いVネックシャツの上から黒色の学ランを着る、灰黒い髪の男が歩いていた。首にはヘッドホンが掛けられている。

足取りは非常に重そうで一歩一歩が沼にはまった足を力尽くで上げるような雰囲気だ。





 ふあ〜〜!!大きなあくびが出る。いつも通りの風景、なんの変哲もない日常だ。



「おい、そこのお前!」

 不意に後ろから声がかかる。男の声だ。見るとそこには身長190センチぐらいの大柄金髪の男が立っていた。男の耳には10個くらいピアスがつけられている。見るからにヤンキーだ。しかも喧嘩に自信のありそうな。

「お前が《夜咲(やさか)喧嘩狂(けんかきょう)》って呼ばれてる『御子神(みこがみ) (まこと)』だな?」

「御子神は確かに俺だけど、おたくだれすか?」

 右手で持った鞄を肩に担ぎ、左手で頭を軽く掻きながら答える。てか人に名前聞く前に自分が名乗るのが先だろ、フツー。

「俺は丘高(おかこう)の柏崎。噂は聞いてるぜ〜」

「・・噂って?」

「《洞校(どうこう)の処刑人》柳を一撃で倒したとか、元ボクシング部の《撃墜(げきつい)マシーン》碧夫木(あおぶき)が拳出す前に殴り倒したとか、名だたる不良どもを50人以上も病院送りにした《桐ヶ岡(きりがおか)倒即王(ノック・プランナー)北條院(ほうじょういん)を逆に病院送りにしたとかな!それに、」

 まだあんの〜?

口で言うと怒りそうなので、心の中でつぶやく。

「80人以上の大グループ『刃喰覇裏蹴燕(バックハリケーン)』を1人で潰したらしいな」

 どうだったか、覚えてねーな〜。てかヤンキーってみんな渾名があんの!?

「だったら、てめーを倒せば俺は一躍有名人よ!!」

「そらどうも。お疲れ様です。」

 目を半開きにして手を振りながらに言う。その態度に腹をたてたのか、男は声を荒げて殴りかかってきた。

「てめ〜、《喧嘩狂》とか呼ばれて調子乗ってんじゃねえぞー!!!」

 それに対して、御子神は動じることもなく半笑いで息を軽く吐くと、殴ってきた男の拳を頭をずらして難なく避け、顔の横にきた男の腕を空いてる左手で掴む。そして殴ってきた勢いを利用し、男の左足を右足で崩すと、

「ふん!」

 合気道の要領で投げ飛ばした。


 ドカッ!!!!

 男は3メートルほど飛ばされ、近くにあった夜咲公園というこの辺では一番大きいであろう公園のゴミ箱にホールインワンした。ゴミ箱からは男の両足だけが出ている。男の声が聞こえない以上、気絶しているようだ。


「うん!ゴミはゴミ箱に、だよな!!流石は俺。なんたる命中率!」

 やっぱり天才だな、俺は。そんなことを思いながら再び歩き始める。





「や〜っと着いたか」

 心底疲れたかのように溜め息をひとつ吐いて校門を通り、散りかけの桜並木を歩く。下駄箱の前では、生徒会の連中が大きな声で服装に対して注意している。

 結局あれから5人もヤンキーに絡まれた。たくっ!真面目に学校行けよ!暇人どもめ。おかげで学校に着くのに40分かかっちまったじゃねーか!なんとか始業には間に合ったが、もし遅刻してたらあいつら二度と立ち上がれない体にしてやる。


 思えば、高1の春。ちょうど昨年の今頃。道で肩がぶつかったヤンキーが殴りかかってきたのを、不可抗力で逆にボコボコにしてやってからだ、ヤンキーどもに絡まれるようになったのは。そのヤンキーがこの辺りで有名奴だったらしく、噂を聞いて喧嘩を売ってくるヤンキーどもを撃退していくと、いつの間にか《喧嘩狂》などと勝手に呼ばれるようになった。なんだよ《喧嘩狂》って、まるで俺が喧嘩を楽しんでるみたいじゃねーか。

 マジでやめてほしい。俺は平和主義者なのに。



 風が吹いて制服についた桜の花びらを、左手で払う。校門を入ってすぐ正面の校舎を見ると、『祝!剣道部 5年連続全国出場』と書かれた垂れ幕が、さもここは自分の場所だ!とでも言うかのように堂々と貼り出されていた。

 俺の通う『楽院(らくいん)高校』は、東京から新幹線で1時間ちょっとの場所にある導楽(どうらく)市の、ほぼ中央に位置する平凡な市立高校だ。ただ剣道部だけは全国の常連で強豪らしい。

 俺は中学のとき剣道部に所属しており、いちおう剣道の有段者だ。その関係でクラスの奴に誘われたことがあった。

まあ絶対にやりませんけどね!強豪と聞けばなおさらだ。正直いやいや剣道をやっていた部分が大きい。あんな臭くて、しんどくて、ダルいこと頼まれてももうしたくもない。絶対に。



 下駄箱で靴をスリッパに履き替えていると横から声がかかった。

「おっすー!ミコト〜!!」

「おはよう!」

 2人だ。左右に並んでいる。同じようにスリッパに履き替え、これから教室に向かうところだろう。その2人に対して返答する。

「なんだお前らか・・」

「おいおい!なんだよその冷めた目は。朝からヤンキーに絡まれてお疲れか?」

「みたいだね〜」

 この2人は学校でよくつるんでる奴らだ。右の、無駄にテンションの高い、オレンジ髪で薄いグラサンをかけてる全身校則違反みたいな男が『赤嶺(あかみね) 緋偉牙(ひいが)』、赤点の常習者だ。左の、制服をちゃんと着込んで真面目そうだが、身長150センチくらいの黒髪のチビが『(とどろき) 義宗(よしむね)』、風紀委員をやっている。なんでこいつらがうまくやっていけてるのか不思議だが、まあ気のいい奴らだ。

「ねえ、失礼なこと思ってない?」

「べつに?」

 義宗の問いに、何気もないように答える。






 今日も長い1日が始まろうとしていた。









 キーンコーンカーンコーン!!!!



 1日の授業全ての終了を知らせるチャイムが鳴り響き、御子神は机に伏せていた顔を上げる。

「く〜!!終わった終わった〜」

 御子神は座ったまま背筋を伸ばして、体をほぐす。

 ただ、ほぐすほど動いてはいないだろうが。


 鞄を卓上に置いて、帰る準備をしているとヒーガがいつものような高テンションで声をかけてきた。

「ミコトもう帰るのか?」

『ミコト』というのはニックネームみたいなものだろう。ミコガミのミコとマコトのコトを合わせた、ようは語呂合わせだ。

「ああ、学校にいてもしゃーないしな。お前は残ってんだろ?義宗は委員だろうし、」

「んあ。俺はこれから愛しの南ちゃんに会ってくるわ!2人っきりでな!羨ましいだろぅ?」

「全然」

 南ちゃんとは英語科の教師でうちのクラスの担任『名津風(なつかぜ) (みなみ)』のことだ。26歳独身の世話好き教師で、美人なことで有名だ。つまり・・・ヒーガはこれから補習授業だ。

「でも放課後の教室に美人の教師と2人っきり。めちゃ興奮しね?ナニがあるかも!?」

「はぁ!?ナニとは?」

「だーかーら〜。英語じゃなくて、もっといいこと教えてあげる♡みたいなさ!」

 ヒーガのアホ妄想に、呆れ態度で返す。

「くだらねーな。放課後の教室といえば、教師よりも・・・・・女子高生、だろ!!」

「いや、そんなドヤ顔で言われても」

「まったくだ!」

 突然2人の会話に割り込んで、前髪をセンター分けにした眼鏡の男が入ってきた。

「「なんだいたのか副会長」」

 2人の声がハモる。

「なんだそのよそよそしさはーー!!!!!?。それに僕の名は『新獺(しんかわ) 卓美(たくみ)』!親しげに『新ちゃん』と呼べと言っているだろ!小学校からの付き合いじゃないか!!」

「なんで親しく呼んでほしいんだよ。気持ちの悪いやつだな〜」

「言ってやるな寂しいんだよ、副会長は」

「う、うるさーい!!!!」

ヒーガと御子神のつぶやきに副会長はまじになる。

「だいたいなんで緋偉牙や義宗は呼び捨てなのに僕はよそよそしく『副会長』なんだー!!」

「「わかったわかった、新獺さん」」

「さ、『さん』付けーーーー!!!??」

 副会長が大声で叫んでいると、その両腕をそれぞれ2人の女子生徒が掴んできた。その左腕には腕章がつけられている。

「見つけましたよ副会長〜?」

「ちゃ〜んと仕事しましょうね〜?」

「げげ!古畑(ふるはた)書記に杏恫(あんどう)会計!!?」

 副会長の台詞を待たずに2人はずるずると副会長を引きずって行く。

「やめろーー!!!僕は、僕は、友達との友情と青春の高校生ライフを送るんだー!」

「はいはい、言い分はちゃ〜んと生徒会室で聞きますからね〜?」

「とりあえず行きましょうか〜?」

「や〜め〜ろ〜!!!!」

 ろ〜〜!

 ろ〜〜〜!

 2人の女子に引きずられながら消えて行った副会長の最後の遠吠えが教室に木霊(こだま)する。俺は木霊が消えるまでの僅かな間、首にかけていたヘッドホンを耳に当てた。

 現実とはかくして残酷だ。




副会長のせいで静寂に包まれた2年C組の教室で、沈黙に耐えきれなくなった御子神が話を戻す。

「まぁこの学校には、それに見合う女子はいないけどな。」

 両手を外開きにして半目で言う。

「いやいや!可愛い娘はいっぱいいるだろ!だいたいミコトの理想が高すぎるだけだって!!」

「それは俺が悪いわけじゃーない。俺の理想について行けない現実が悪いんだよ!」

「その発言は二次元を彷彿とさせるぞ」

「いやいや、それは違うって!俺、三次元じゃないとヌ○ないもん!!」

「「「なんの情報だーーーーーーー!!!!!?」」」

 御子神の笑いながらの唐突なカミングアウトに、ヒーガだけでなく周りの男子生徒もこちらを向いて女子に聞こえない程度につっこんできた。



 場が落ち着いてからヒーガが切り出す。

「でもミコト、中学のとき何人かと付き合ってたじゃん?」

「付き合うのと理想は話が別だ。」

「主人公のくせに発想が最低だぜ」

 ヒーガは普段見せない冷静な分析力で静かにつっこむ。

「そうでもないさ。ようは付き合うだけならオッケーだが、結婚なら理想の人じゃないと未来永劫一緒にいることはできない」

「さっすが、お寺の跡取り様は言うことが違うね〜」

 ヒーガの言う『寺』とは俺の家のことだ。俺の家は『式聖寺(しきしょうじ)』という小さい寺をやっている。と言っても5年前に唯一の身寄りで和尚だったジジ、祖父が死んで以来寺としての機能は失い、ただちょっと広い家みたいな感じになっている。

今は祖父が残した遺産でやりくりしている。しかし、祖父が死んだ時は正直驚いた。遺言通り、遺産は全て俺が貰い受けたが、いざ蓋を開けて見るとその量はかなりのもので、俺が就職するぐらいまでは十分食っていけるほどだったのだ。


ヒーガの台詞を無視して話を変える。

「まぁ補習がんばれよ!ヒガチャン♪」

「ヒガチャンって呼ぶなっつの!だいたい現実に戻すなよ〜〜!!」

 俺の一言にヒガチャン((かっこわらい))が吐きそうな顔で見てくる。

「んな顔でこっち見るんじゃねーよ」

 その顔に、冷たい目で返す。

「いいよな〜!ミコトは頭良くてさ〜」

 ヒーガは打って変わり、今度は羨ましそうな顔でこちらを見る。

 そうだ。俺は成績は、かなりいい。自分で言うのも難だが、正直テストでは70点以下をとったことないし、通知表も10段階評価で8以上しかない。


 嘘つけ!とか思った奴、表出ろ〜!!


「まぁ確かに。俺は成績も完璧だな。でもそれはちゃ〜んと勉強してるからさ!」

「うぐ!」

 俺のセリフにヒーガは心に何かが突き刺さったようだ。なので、トドメをさして楽にしてやるために言い放つ。

「でも所詮、こんな中堅高校での話だけどな〜」

「ぐはっ!!!」

 俺のトドメの一撃は、見事にクリーンヒットしたようだ。

 机に倒れ込むほどのダメージをヒーガに与えたことに満足して立ち上がり、鞄を肩にかついで教室を出て行く。

こんな馬鹿話ばかりやっている高校生活は存外暇だ。だからといって無駄に刺激を求めれば、面倒な事になるのは知れている。

俺はそんな面倒な事ごめんだ。



 下駄箱でスリッパを黒いハイカットブーツに履き替えて校門まで真っ直ぐに向かう。この時間になると流石に太陽は沈みかけ、外は若干暗くなってきている。

 今日の夕飯は何にしょう。買い置きはしてあったからスーパーに寄る必要はないからな〜。などと考えながら家への帰り道をヘッドホンで音楽を聴きながら道を歩き出す。

1人のときは至福の時だ。






「暗くなっちまったな〜」

 暇つぶしに商店街をまわっていたら、外はすっかり夜らしい暗さだ。式聖寺近辺は人通りも少なく電灯も多くないので結構な暗さになる。

ちなみにこの辺の地名は夜咲(やさか)といい、昔、夜にも月のように光る桜が咲いていたことからきているらしい。

 ただ、今日はいつもよりも人通りが少ないような気がするが、気のせいだろう。

 俺の心中を察したかのように、春とは思えない冷たい風が顔に染みる。




 夜咲公園の前を立ち寄ったとき、中から複数の声が聞こえてきた。

 こんな時間にえらい騒がしいな。周りが静かすぎるのか?


 公園の中を覗いてみると、そこには3人の不審男たちが何かを囲むように立っていた。なにが不審なのかというと、その男たちは黒い服の上を金属のアーマーで覆い、顔はガスマスクのようなもので隠している。そして両腕には鉤爪的なものが装着されている。

「あきらかに関わっちゃダメなやつだ・・・・」

 御子神は面倒くさそうに小声でつぶやく。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・帰るか」

 歩き始めようと体の向きを公園から道に戻したときだ、前から同じような格好の男が暗闇から現れた。

 ・・・はっ!おいおい!!まじかよ〜

「ん?なんだ貴様は?人払いの結界は張ってたはずだが。まあいい、部外者は始末しろとの命令だ。悪く思うなよ人間!」

 男は鉤爪を構える。まじダルビッシュ。


 シャッ!!!

 男が鉤爪をこちらに向けて走り出す。その走りは非常に静かなものだが、今日ボコったどのヤンキーよりも速く、素早く、一瞬で鉤爪の届く距離まで詰め寄り、鉤爪のついた腕を振るってきた。しかし、その鉤爪が御子神に届くよりも早く、


 ボンッ!!!!!


 という鈍い音と共に男が仰向けに倒れる。男のマスクは砕け、気絶してしまったようだ。

 その音は御子神が男の頭を右足で思いっきり蹴り飛ばした音だった。

「なんなんだ?急に来たから加減もできなかったじゃねーか」



 公園の中にいた男たちは、大きな音を聞いて、公園の前に目をやると仲間の一人が何者かに倒されるところのみが見えた。一瞬動揺したがすぐに男たちは戦闘態勢に入り、3人中2人が仲間を倒した敵に向かい、1人が残るという形で行動した。



 公園の中の男が2人、先程の男のように静かに向かってくるのを見て、御子神も前に出ると、先頭にいた男のみぞおち部分を素早く蹴る。後ろに蹴飛ばされた男は、次に来ていた男を道ズレにしながら仰向け姿で元居た場所に蹴り戻された。

「いってーー!!!な、なんだ!?あのアーマーめっちゃ()てー!!」

 御子神は蹴った方の足をさすりながら、若干涙目で叫んだ。

 だが、それ以上に叫んだのは残っていた男の方だ。

「な!!?いったいどうした?なにをされた??」

「いちち!蹴っただけだよ!」

 男の疑問に足をさすりながら御子神が答える。

「く!おのれ!!」

 男はこちら目掛けて走り出す。それに対し御子神は、持っていた鞄を地面に置いて、さっきと同様に走り出すが、今度は相手が鉤爪を振るったのを、男の足元まで体をかがめて避け、下からアッパーをお見舞いする。結果3人の男が仰向けで気絶している状態となった。

「ふう。なんだったんだこいつら?」

 アッパーした方の手を軽く回して、動きを確認しながら男たちの方を見る。

「おい!」

「ん?」

 突然声をかけられた。前からだ。しかし前には誰もいない。

「あれ??」

「ここじゃここ!!」

「ん??」

 声のする方へ目線を下げると、そこには斑模様の小さい二毛猫のような生き物がいた。しゃべる猫が、だ!!!


「・・・猫が喋った!!!??」

「だれが猫じゃー!!儂は『犬神(いぬがみ)』という神様じゃぞ!!!!」

「・・・はあ?」

 喋る猫が意味のわからんことを言い出した。

 何言ってんだ?この猫

「え〜っと。どゆこと???」

「ええい!今は説明してる暇はない!早く逃げるんじゃ!!やつが帰ってくる!!!」

 やつ?犬神と名乗る猫は随分焦っているようだ。意味がわからん・・・


「ああん?どうなってんだ、これは?」

 すると公園の入口から野太い男の声が聞こえた。そこには赤い髪で黒主体の服を着込み、銀製の指輪をつけた長身の男がいた。

「どういうことなんだこれは?俺がちょっと上に報告に行ってた間によ。なにがあったんだ?」

「ま、まずいぞ!早く逃げなければ!!」

「いや〜?多分逃がしてくれないだろ」

 焦る犬神に、御子神は驚くほど冷静に答える。

「な、なんかエラく冷静ではないか?この状況で」

「ああ。まあ焦ったところで何ともならんしな。」

「確かにそうじゃが・・・」

「それに、」

「?」

 御子神が区切った言葉に、犬神が不思議そうに見つめる。

「おもしろそうな展開だしな」

 御子神の口の右端が釣り上がり、顔が不気味な笑顔になる。とても善人には見えない顔に。それを見た犬神は体に蛇が絡みついたような気味の悪さを感じた。


「た、隊長。そいつです。そこの男に、」

 倒れていた男の一人がなんとか意識を取り戻し、赤毛の男に言う。しかし、まだ朦朧としているようだ。

「・・・そうか」

 赤毛の男が一瞬こちらを見て近づいてくる。隣で犬神が警戒して、力を入れるのがわかった。

 すると赤毛の男が右手を上げ、指を鳴らすと、

 ボウン!!!!!

 という大きな音を上げ、後ろにいた鉤爪の男たちが突然燃え出した。


 肉の焼ける匂いが立ち込める。

今まで匂ったこともないような不快な匂い。

これは、人が焼ける匂いだ。

 夜の公園に炎の光と肉の臭さが蔓延する。


 ・・・俺の犬並みの素晴らしい嗅覚が馬鹿になりそうだ。


「な!?隊長、なぜ??」

 男の一人が燃えながらなんとか言葉を絞り出すが、赤毛の男は聞こえていないかのように平然と歩いている。

「なんという男じゃ。自分の仲間を、、、」

 唖然とする犬神の横で御子神がゆっくり動き、

「わ〜汚い花火〜!!!!」

 御子神は開けた右手を口に近ずけ、不謹慎な一言を言い放つ。すごく演技くさく。まるでどこかの戦闘民族の有名?なひと言を告げているかのように。

「なんじゃその仕草は!!!!??おまけにこのタイミングで言うことではないじゃろ!!!」

「言ってみたかったんだよこれ〜」

「し、しし、知るかぁぁぁぁーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」

 御子神のふざけた態度に、全力で食いつく犬神のお大声が公演中に響き渡る。


 コツ。

 赤毛の男は目の前まで来て、こちらの様子を伺っていたが、口を開いた。

「まさか人間ごときにやられるとは、ザコは使えないな。それとも、『人間』じゃあないのか?まあどっちでもいいがな」

告げると赤毛の男は右手から篝火のような炎を出し、右手を払うようにして炎を御子神に向かって投げつけてきた。


「は!?」

突然起こったことに動揺を隠しきれない御子神だったが、その炎をなんとか左に避け、男の方を見て

「いきなり何しやがんだ、この赤頭!!危うく焼け死ぬところだったわ!」

「ほう、俺の一撃を避けるとはなかなかやるな。だったら、」

赤毛の男はさらに大きな炎を右手に纏うと、炎が見る見るうちに丸くなっていき、ボーリング玉くらいの炎球ができあがる。

「これでどうだ!!?」

その炎球を再度御子神に向かって投げるが、御子神は難なくかわす。しかし、御子神がかわして炎球が地面に当たった瞬間、炎球は爆弾のごとく破裂し、そばにいた御子神はその爆風で5、6メートルほど吹き飛ばされ近くにあったジャングルジムに思い切りぶつかった。

「が、はあ!」

御子神がジャングルジムにぶつかって足から崩れるのを確認し、赤毛の男は犬神の方を見る。

「『神』が関係のない人間を巻き込むのは、どうかと思うが?」

「その関係のない人間を平然と殺すお前さんらに言われたくないわい」

「仕方がないだろう?邪魔するものは容赦無く()せ、というのが『閣下』の御命令だ」



聞いてもいないのにペラペラと自己紹介をした御子神に、犬神はおろか赤毛の男もとい、ディーガという名の男も茫然と立ち尽くす。


「ゴホン!!そ、それで、単刀直入に聞くが、お前は本当に人間か?」

「その質問に答えるとしたら、もちろんイエスだ。俺は正真正銘の人間だ!」


咳払いをして自分を落ち着かせたディーガの質問に、ピースをしながら挑発するように返す。

 後ろにいる自称犬神の猫もどきが「言い方を考えんか!」とか言ってるが、正直どうでもいい。


「普通の人間というのは、こういう場合。泣き叫ぶものだと思うのだが?そもそも人払いの結界を張っていたのに入れること自体が妙だ」

 ディーガは心底不思議そうだ。

「人払い?のほうはよくわからねーけど、確かに普通の人間はここで泣き叫ぶんだろーなー。まあ俺は主人公だから?普通の人間じゃあないけどな!!!けど泣き叫んだら逃がしてくれたのか?」

「いや。むしろ耳障りだから、すぐに殺しただろうな。その点、少し寿命が延びたな。ほんの少しだが」

「そら嬉しいね!!死ぬのは嫌だからな。それで?そっちこそ何なんだ??」

「何だ、とは?」

 ディーガは額に皺をよせて、こちらを見つめる。それに答えるように続ける。

「あんたは俺に対して『人間』と言った。でもおかしくないか?わざわざ『人間』呼ばわりするってさ。それは、つ・ま・り。俺と同じように人間にしか見えないあんたらが、実は人間じゃないって言ってんのと同じだぜ〜?」

「ほうぅ・・・。」

 御子神のからかうような問いに、ディーガは興味深そうにつぶやく。

「ふん、賢い人間のようだな。なかなか面白い。だが俺のことを『人間』扱いしてほしくはないな。それに、お前だってウチの部下たちを倒すぐらいだ、ただの人間と思えないが?」

 ディーガの疑問に犬神も心中では同意する。

(確かにそうじゃ。いくら強くても、ただの『人間』じゃ『怪人』を倒せるわけがない!!それもプロの戦闘集団じゃぞ!?刃物に対しても臆することもなく向かっていくし。まるで慣れてるかのようじゃ。戦いに。どういうことじゃ!!?)


「まあいい。どうせお前はここで死ぬ」

 そう言いながら、ディーガは右手を出し、その手から赤い炎が現れる。嫌な予感しかしない。

「まずい!やつは『PoWER使い(パワーズ)』じゃ!!」

「ぱわ〜ず〜〜???」

 犬神が聞き慣れない言葉を叫ぶと同時に、ディーガは右手をこちらに向ける。炎を放つ予備動作だろう。

 こらまずいな。ここは・・・

「ちょっと待ったーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」

 御子神が大声で叫ぶ。その声に驚いたように、ディーガは右手を下ろす。

「どうせ死ぬんなら、いろいろと教えてくれよ!!こんなに疑問が残ったままじゃ気になって死んでも死に切れねー。冥土の土産ってことで、なっ??」

 それを聞いた犬神は完全に呆れたように口を全開に開ける。一方のディーガも一瞬動きが止まるが、口を開く。

「ふ!ははははは!!!本当に面白いやつだな。はは、、いいだろう。その肝のすわりように免じて教えてやろう。」

 御子神の口が、してやったという風に歪む。

「聞きてーことは二つだ!一つ目は、あんたらは人間じゃあないとして、結局なんなのかってことだ。そんで二つ目は、その手から出てた火のことだ!」

「ふん!二つか。そうだな、まず察しての通り。俺たちは『人間(ヒューマン)』じゃあない、『怪人(デューマン)』だ。」

「でゅーまん?」

「お前らのいる、正しくこの世界とは違う世界から来た」

違う世界?異世界的なやつだろうか?

「そして、」

 ディーガは再び右手から炎を出し、御子神に見せるように前に出す。

「俺が出したこの炎は『PoWER(パワー)』だ!・・まあ怪人の持つ固有能力みたいなものだ。正確には『能力』とは違うがな」

「なるほど、それがパワーか。能力ねえ。・・・」

 ディーガの説明に御子神は、犬神の方をチラッと見てから、なにか考えるようにつぶやく。

「ちなみに俺のPoWERは『仔炎弾(リロボロス)』。炎を操る、単純だが威力絶大の火属性のPoWERだ」

 ディーガは親指から出した炎を回しながら、自慢するかのように説明する。自分の力をわざわざネタバレするのは、人間ごときじゃ自分は倒されない、という自身の表れだろう。

「やっぱ火、か。じゃあつまり、あいつらもあんたがやったんだな?」

 御子神は振り返らずに、後ろで炭のように黒々くなって倒れた男たちを親指で指す。男たちは原型をとどめず、もはや誰が誰か分からない。・・・もともとマスクしてたから分からんけど。

 御子神の指した方を見て、ディーガはしょうもなさそうに答える。

「そこの消し炭どものことか?ああ!俺がやった。というよりも仕込んでいた、だな。元々、任務を失敗した時に始末できるように仕込んでたんだよ。まあ本人たちは気づいてなかっただろうが。」

「俺がやっといて難だが、少しやりすぎじゃないか?」

 若干引き気味の御子神の問いに、ディーガは、さも当然のように言い放つ。

「使えない部下(ゴミ)を始末しただけだ。上司としてな」

「・・・・・・・まあ外道☆」

ディーガの無表情の台詞に、同じように無表情で返す。



 ディーガが切り出す。

「さて、二つ終わったぞ?そろそろ冥土の土産も十分だろう?こちらも仕事があるしな」

「そうだな。おかげで疑問はちっっと晴れたよ!」


 御子神の返答に、ディーガは右拳を握り、これまで以上に大きな炎を纏う。その炎は球型に変わり、ディーガの右手に風船くらいの炎球が作られる。

 それを見ていた犬神は背筋を震わせる。

(や、やばい!今度こそ本気じゃ。EG(エネルギー)が上がっておる!!)

「お、おい!!逃げるんじゃ!!いくらお前さんが強くてもPoWER使いには勝てん!!!」

「まぁ、確かに。炎が操れるとかやばいな。俺は『逃げ』には自信があるし、本気で逃げれば逃げ切れるカモしれない」

 犬神のセリフに御子神は自慢げに答える。

「だが。」

「だが、なんじゃ?」

 犬神は、御子神の答えを待つ。一瞬の沈黙に、ディーガの纏う炎がメラメラと音をたてるのがよく聞こえる。

 そして御子神は不吉な笑顔を浮かべながら言う。ありのままの気持ちを。冗談のように。

「パワー?デューマン??ふふふ、あははははは!!!いいじゃねーか。・・・おもしろい。サイッコーにおもしろい!!!こんなおもろいこと、逃がすわけにはいかねーだろ!!!平凡な日常のちょっとした非、日常?いや!これも日常だ!!この俺の!この俺様の日常(リアル)だ!!!楽しいことは程々に楽しむのが俺の数ある信条のひとつだ!!だったら、、楽しむしかねーだろ!!!!程々に。な!」

「めちゃめちゃ楽しそうじゃーーー!!!!!!全ッッッ然程々じゃあない!!!」

 満面の悪人笑顔でテンションを急上昇させた御子神の台詞に、犬神が見たままをつっこむ。


 ボウン!!!

 2人の会話に終止符を打つように、ディーガは右手に纏っていた炎球を御子神に向かって投げつけた。


 ゴォォォォ!!!という音で迫る炎球を走って躱す。

 それを見たディーガは今度は左手に炎球を纏って投げ、さらに右手にも再び纏い投げる。まるで野球ボールを投げるかのように次々と炎球を御子神向かって投げつける。



「どわー!!のわー!!うおー!!!」

 しかし御子神は悲鳴を上げながらも、その炎球を紙一重で避ける。その表情は炎球に対する恐怖ではなく、明らかに楽しいという感情を浮かべている。一歩間違えば殺されるかもしれない状況で、心の底から、楽しんでいるのだ。ただし、その顔は子供の笑顔というにはあまりにも邪気に溢れ、不良というにはあまりにも不気味過ぎる。

善人ではなく殺人を楽しむ極悪人のような表情だ。



「くっそー!全然近づけね、えぇ〜〜!!」

 御子神のセリフを遮るように炎球が顔のすれすれを通り過ぎる。


 御子神が炎球を避け、逃げ回る姿を見て。ひとつ息を吐き、

「ふん!往生際が悪いな」

 ディーガは笑いながら、突如炎球を投げていた手を止めた。


「???どうした?もう終わりか??」

 半笑いで御子神はディーガの方を見る。周りには炎球が破裂したあとの火の粉が舞っている。

温度が急上昇しているのか、汗が流れる。

「いや、もう詰みだ。」

「なに?」

 ディーガは目を閉じて答える。

「俺のPoWERは炎を操ると言ったが、ひとえに操るといってもその種類は様々だ。とくに俺は爆発性の炎を操る。と、いうよりも作ることができる。ほんのわずかな火からも」

「なにっ?」

 御子神はなにかに気づくが、動かなかった。それを見た犬神には、あえて走り出すのをやめたかのようだった。

(なにか考えがあるのか?)


「つまり・・・」

 ディーガが狡猾な笑みを浮かべながら、右手を前に出し、

「たとえ小さな火の粉であろうと、俺にとっては小型爆弾と同じだ!」

 指を鳴らすと同時に、御子神の周りに舞っていた火の粉が爆発する。


「な、なに!?」

 犬神は目の前の光景に驚きを隠せなかった。

 すでに公園の半分は爆煙が立ち込め、そこに立っている人影は視認できず、だれの声も聞こえなかった。




「やっと邪魔者がいなくなった。あいつが一体何者だったのかは分からなかったがな」

「そんな!」

(儂のせいで巻き込んでしまった。くそっ!・・・)

 犬神が顔を下に向けてブルーな気持ちになっていると、ディーガがこちらを向く。



「さて、お前のせいで人間が一人死んだ。神も形無しだな・・・そろそろ観念して、俺と来てもらおうか。我らが王のもとに、な。それとも、ここで死ぬか?」

 ディーガは笑って、右手に火を纏う。

「神は殺せんぞ。」

 犬神は苦肉の表情で返答する。すると、犬神の言葉にディーガはさらに笑い、皮肉っぽく吐き捨てる。

「確かに。神を殺せるのは神殺しの力を持った『神を殺せし者(ゴッドキラー)』だけだ、というのはよく知っている。だけど今や儀式次第では神を殺すことだって可能だ。まぁどの道ここでは無理だから、一緒に来てもらうことになるな」

 犬神は一歩後ずさりする。


 すると強めの風が吹き、公園を覆っていた爆煙が晴れて見渡せるようになったときだ。

 ふとディーガは疑問を感じた。根拠はなかったが妙だと思った。死体の匂いが足りない。別にディーガ自身、燃えた死体の匂いを判別できるほど嗅覚が鋭いわけでもなかったが、これまで数え切れない程の焼死体を作り、匂いを嗅いできたディーガはただ純粋な経験と知識から、燃やしたはずの死体の匂いが足りないのではないかと直感したのだ。そこで、あり得ないが念のために死体の確認をしようと爆煙が晴れた方を見ると、

 そこには、あるはずの死体が・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なかった。

 代わりに、燃えた服のようなものがあった。恐らく学ランだろう。・・・なら、あの男はどこだ?

「まさか、死んでないのか?」

ディーガが自分の疑問を声にだしたときだ





「誰が死んだって?」


「「!!!!!!!!!!」」

 突然背後から聞こえた声の方に振り返ると同時に、顔を殴られ近くにあった遊具のところまで吹き飛び、ぶつかる。

「たく!!よくもやってくれたな!あの学ラン、いくらしたと思ってんだ!!!」

「第一声がそれかいっ!!!!!!というか生きておったのか!?」

「ああ。」

 犬神の怒声に近い叫びに、青い半袖Vネックシャツ姿で全身ボロボロの御子神はケロッ!とした態度で言う。その右手首にはさっきまでは制服で隠れていた鈍い金色の数珠がはめられていた。

「制服を身代わりにしたのか?」

「そうだ。まぁ正確には、爆発で燃えた学ランを身体に火が燃え移る前に脱いで、後ろにあった滑り台の後ろに隠れてたんだよね〜。まぁそのあとは遊具とかに隠れながら後ろに回ったんだぜ!我ながらうまくいった」

 御子神は左手でピースをしながら笑顔で言う。

「気づいておったな?爆発すること。」

「ああ!」

 清々しく親指を上げる。

「なんでその時逃げなかったんじゃ!!?」

「そら〜もちのロンで死んだと思わせて油断させるためさ!『兵は詭道なり』って言うだろ?」

 その答えに犬神は驚く。

(そんな早くからそこまで考えておったのか!)

「お前さん、結構頭いいな・・」

「当たり前だろ。俺は天才だぞ??」

「自分で言うか!!?・・・その一言で一気にすごみが落ちたな・・・」

「そんなことよりも!」

 犬神の言葉を無視して御子神が遊具の方を見ると、

 ディーガが遊具から立ち上がって顔を伏せながら佇んでいた。殴られたにも関わらず、ほとんど跡もなくピンピンしており、その身体は全身から炎が吹き出ているかのようだった。

「この俺が、、人間に、遅れをとった、だと?ありえん。ありえん!ありえん。!!!」

 ディーガが怒りを露わにした声を吐きながら顔を上げる。その顔には怒りと憎悪が見るからに浮かび上がっていた。

「あ〜。こりゃ相当、お怒りだな。・・・にしても全然効いてないな」

「当然じゃろう。」

「まあいいさ。だったら今度は全力で殴ればいい。来い!決着つけてやるよ!」


 御子神の言葉がすでに耳に入らない状態のディーガは右手にさっきまでよりも遥かに巨大な炎球を纏って、それを叫びながら投げつけてきた。

「え!!?」

 御子神は驚いたように唖然とする。



「死ねーーー!!!!!!!」



 ゴォォン!!!という轟音で巨大な火の玉が飛んでくる。


「のわーーーー!!!!」

 両手で頭を抑えながら、御子神は火の玉を避け、前のめりに倒れる。

「どうしたんじゃさっきの勢いは!!!?」

「うるせーな!!いきなり巨大化とか反則だろ!!!」

 上半身のみ上げて叫んだあと、素早く立ち上がって、今にも2発目を放とうとしているディーガを見据える。



「・・・・よし!これだな・・・」

 何かを思いついたように自身の敵に対して御子神は真っ直ぐ向く。



「ハア!!!!!」

 2発目の炎球が放たれたと同時に、御子神は両手を地面につけ、カエルのように体を地面と平行にした超低姿勢となる。それによって炎球がギリギリ自分の上を通過したのを合図であるかのように、その状態のまま一気にディーガとの距離を突風のようなスピードで詰め寄る。


 自分の攻撃が直撃したと思っていた敵が、いきなり視線の下側に現れ、動揺したディーガは次の一撃を放つ余裕もなかった。

 その反応を見ながら、御子神はディーガの腹の部分を肘で打つ。

「がはっ!!!」

 ディーガは口から血を吐き、ダメージがあることを証明した。

「通ったーー!!!!!」

 御子神は先程と違う、確かな手応えを感じて歓喜の笑みをこぼす。

 そして右足を踏ん張って体制を立て直し、目と鼻の先に血を吐く敵を見据えると、今度こそ本気の拳が敵の頬に当たる。殴られたディーガは数メートル先まで飛んで行き、公園の入口付近で仰向けに倒れる。

 御子神の勝利が確かなものになったと同時に、春らしい暖かい風が御子神の顔に当たり髪を揺らした。





「ふ〜!やっと終わったな」

 ボロボロの格好で御子神が一息つく。その首には、無駄にキレイなヘッドホンがかけられている。

「・・・まさか本当に倒してしまうとは・・・。おまけに、あれだけ走り回っとったのに何で息一つ乱しておらんのじゃ?お前さん一体何者なんじゃ!?」

「言ったろう?平和主義者で主人公の超善良な一高校だよ。」

「絶対違うじゃろ!!!」

 御子神の芝居がかった口調に、犬神がつっこむ。

「なんだよ?失礼なやつだな〜マジだよ?」

「それはないじゃろ」

「それよりも。こんだけデカイ音でドンパチしてんのに誰も気づかないな。これが人払いの結界ってやつの効果か??」

「む!?その通りじゃ!よくわかったの!」

「まあなんとなく察しはつくよな」

 御子神は半笑いで答えながら、ゆっくり立ち上がる。

「あーあ〜!!学ラン燃えちまったし、明日学校から借りれるかな〜」

 さっそく明日の心配を顔に出す。

「そうえば、なんでお前狙われてたんだ?珍しい生き物だからか?」

「違う!!儂は神じゃぞ?まぁちょっとした事情での。それに彼奴等のいた世界では喋る動物もそこまで珍しくもないぞ?」

「どんなクレイジーな世界だよ!」

 犬神のセリフに呆れ驚いたように御子神が反応した。

「そっちこそなんで助けてくれたんじゃ?」

「ま〜〜俺は、愛と勇気と正義の味方だからな!」

「お前さんはどこの子供向けヒーローじゃ」

鼻高々に言った御子神の台詞に、犬神はどうでもよさそうに反応する。


「まぁいいや。俺は帰るからな。」

 公園入口に置きっぱなしの鞄の方を見据える。

「う、うむ?随分あっさりしとるのぅ。儂らのことを聞いたりせんのか?」

「ああ。ぶっちゃけ興味ないし」

「さっきまでのテンションの上がりようは、なんだったんじゃ!!」

 半笑いで右手を上げる御子神に、犬神は落胆したかのようにつっこむ。

「じゃあ名前だけでも聞いとくわ!犬神さんよ!」

「先に言うな!!・・・ゴホンッ!!儂は、神界が統馣神宮邱(とうあんじんぐうきゅう)三大神(さんだいしん)祿聖瞑湟霆(ろくせいめいこうてい)犬神じゃ!」

「無駄に長い名前だな。まあいいけど。そんじゃあな、猫神さんよ!」

「だれが猫神じゃ!!わざとじゃろ絶対!!・・・・・まあだが、感謝する。・・・そういえば、お前さんの名前もちゃんと聞いてなかったの、なんて言うんじゃ?」

「ん?ああ!!俺の名前は御子神命、気軽にミコトって呼んでいいゼ〜♫。ただし気安く呼ぶな!!!」

「どっちなんじゃ!!!・・・・ミコト、のぅ。・・・『御子神』か・・」

 犬神は少しがっかりしたような感じだった。

「なんだなんだ?その感じは?帰りたくても気になるじゃねーか!」

「うむ。実は人を探してての。・・・・一応聞くがお前さん、『式聖寺』という名に心当たりはないか?」

 犬神の出した名に御子神は驚くが、同時にイヤな予感がした。

「式聖寺なら俺の家だぜ?」

「なに!!?ほんとか?」

「ああ。」

 犬神は突然顔を上げて耳を思いっきり立て、短い尻尾をフルフルと振り出す。

「ちょ!ちょっとまて!まさかとは思うが、お前さんの祖父の名は何というんじゃ???」

 犬神の唐突な質問に、御子神の動きが、時間が止まったかのように完全に静止すると震度7ぐらいの地震が起きたかのように震え出した。

「ど、どうした?」

「へ!?な、ななななんでもももなないぜ?え?え?え??」

「確実に何かあるじゃろっ!!!!!」

 明らかに普通じゃない御子神の反応に、犬神が大声で叫ぶ。

「アレだよ、アレ!!武者震い武者震い!」

「どんな言い訳じゃ!!!?苦しいわ!!」


「ごほん!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺の祖父の名前は『式聖寺(しきしょうじ) 雲海(うんかい)』だ」


「!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 その答えに、犬神は目を皿のように大開きにして驚きを表す。

「まさか、お前さんがあやつの孫、じゃと?だとすればお前さんは、、、だから結界も・・・・」

「???」

犬神がごにょごにょ言っているのに、御子神は首を傾げる。

「その祖父は今どこにおるんじゃ?」

 犬神の焦るような質問に、御子神はどこを見てるか分からない目の無表情で返した。

「死んだよ。5年前にな」


「なっ!!!??なんじゃとーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」

 犬神は大声で叫ぶ。その表情からはこれまで以上の驚きが見て取れる。

「そ、そんなまさか。あやつがのう・・」

「ちょっとまてよ!ジジィのことを知ってんのか?」

「うぬ(今なにげにジジィって言った!?)」

 犬神は突然四つん這いになって、真剣な顔つきでこちらを見る。

「なんだよ?」

「まさかこんなことになるとは思っていなかったが、お前さんとココであったのも、あやつが死んでしまったのも運命というやつじゃろう」

「は??」

 いまだ理解ができておらず、御子神は口をポカァっと開ける。

 すると、犬神が御子神顔の高さまでジャンプし、光り出す。

「なんだなんだ!!!??」

 御子神が全身で大袈裟に驚きを表現すると、犬神はさらに光り、


「ハァァァァァァ!!!!!!!!!!!」

「なんだーー!!!!!???」

 叫んだ犬神の声に御子神のふざけた悲鳴が重なる。








 カァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!と膨大な光を放ち、








 ヒュン!!!





 一瞬でその光は消え、夜の公園には倒れた5人の男たちと燃えて炭になった学ラン、そして公園入口に鞄だけが残った。





ここまでお付き合いいただきありがとうございます。

次回もよければ、ぜひお楽しみください。

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