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アラビア海

1942年3月24日 アラビア海

アラビア海はインド南端のコモリン岬とアフリカ大陸のアシール岬の間にある海域のことを言う。

紅海やペルシャ湾、オマーン湾などとつながっており、古くはローマの時代より海上交易ルートの通る海域として知られており、古来より多くの船が行き交う交易の海であった。

それは1942年になっても変わることがないどころか、第二次大戦の勃発によってアフリカで枢軸軍と連合軍が衝突を繰り広げていることで、アフリカへの連合軍の補給やドイツ軍とソ連軍が戦っている遠くロシアはバクーへの補給物資を運ぶために多数の商船が大量の軍需物資を積み込んで往来するなどその重要性はますます高まっていた。


このイギリス船籍の貨物船「ランナウェイ号」もまたそんな船の一隻であった。

船倉にはアフリカで戦う英国第5軍向けの物資が山積みされていた。

アメリカのニューヨークで積み込まれたものだった。

ブリッジで船長のウォリス・ジェファーソンはカップに入っているコーヒーを啜り一息つくとしみじみと言った。


「ようやくここまで来たか・・・」


彼の視線の先にあった海図には鉛筆で1本の線が引かれていた。

それはアメリカのニューヨークからソマリア沖合いにまで引かれていた。


先月の半ばにニューヨークを出発してアフリカ沿岸沖合を通って喜望峰回りで3週間ちかくをかけてここまでやってきたのだった。

だが、ここまでくるのに苦難の連続だった。


というのも、途中の南大西洋海域は北大西洋航路ほどではなかったがUボートが進出する海域だった。

で、何隻かの船がここで消息を絶っている。

たぶん、事故か潜水艦などにやられたのだろうとジェファーソンはあたりをつけていた。

それを護衛なしの独航状態でここまでやってきたのである。

だが、逆に言えばここから先は完全な安全地帯である。

たしかに、最近インド洋に出没し始めたドイツや日本の潜水艦は脅威だが・・・まだそこまで被害は出ていない。

というか、数隻の潜水艦をこのクソ広いインド洋にばらまいたところで効果は微々たるものだろう。

通商破壊艦や有力な枢軸の艦隊は確認されてもいない。


「ここから最短航路をとれば・・・数日中には紅海に入るだろうし5日もすればアレクサンドリアに入れますね」


同じく海図を見ていた航海士のポールがそういった。


「ああ・・・なんとか今回の航海も無事におわりそうだ」


そういっていると、不意に船員がブリッジに上がってきた。


「どうした?」


「いや、どうも飛行機を発見しまして」


「飛行機?」


「あれです・・・」


と船員が指をさす方向に目を向けると確かに空の上に一つの黒い点が飛び回っているのが見えた。

双眼鏡を使ってみてみるとそれはフロートをつけた単発の小型機のようだった。


「対潜哨戒にやってきたイギリス軍の哨戒機じゃないのか?」


「かもしれませんが・・・」


ジェファーソンも気にはなったがそこまで深くは考えていなかった。

ここはイギリス海軍が支配する海なのだから、イギリス軍機じゃないのかと考えたのだ。

しかし、20分たっても飛行機はランナウェイ号から離れようとはしなかった。

むしろ、ずっとこの船を追いかけているようにすら思えた。


さすがのジェファーソンも妙だなぁ・・・と、思い始めたころ

見張り員から2時方向からマスト!という声が聞こえた。


双眼鏡をのぞくと、たしかに遠くのほうに黒い点が見えた。

すこしずつ近づいてい来るのがわかった。


「あれは・・・軍艦か?」


そう思ったとき、その点からチカッと光が放たれた。

だいぶ遅れてドーンという音も聞こえた。

瞬間、ジェファーソンはそれが砲撃であることを理解してしまった。

と同時に気が付くと「面舵!面舵一杯急げ!」

と叫んでいた。

どうやら考える前に頭が勝手に判断したらしい。


操舵手が慌てて舵輪を回す。

しかしその最中、ランナウェイ号の周囲に何本ものマストを軽く超える巨大な水柱が立ち上った。

同時に跳ね上げられるような衝撃がランナウェイ号と乗員を襲い、ジェファーソンたちを床に引き倒した。



「ああ!おい無線室、救難信号を送れ!敵からの砲撃を受けているとな!」


よろめくように床から立ち上がりながらジェファーソンがそう叫ぼうとしたとき、再び、今度は今まで経験したことのないような轟音と衝撃が襲いかかってきた・・・



















ジェファーソンが目を覚ました時、そこはボートの上であった。


「気が付きましたか」


航海士のポールが嬉しそうに言った。


「ランナウェイは・・・?」


「・・・あれです。」

気まずそうにポールがある方向に指を指した。

起き上がってみると中央部から真っ二つに割れて沈もうとしているランナウェイ号の姿があった。

1万トンの大型貨物船だったものはゆっくりと海に沈んでいた。


「・・・なんてこった」


ジェファーソンは思わず頭を抱えた。

アメリカからUボートの恐怖を乗り越えてここまでやってきた彼らの努力は全くの無駄になったのだ。

アメリカ製のリバティ船だったが、ジェファーソンにとっては大切な船だった。


「・・・」


ボートに乗っていた全員が暗い表情でこの船が沈んでいく様子を眺めていた。

彼らはこれから漂流することになるのか?

それとも救助されるのだろうか?

だとしたらそれは敵か見方か?

敵だったらどうなるのだろう・・・?

そんな不安が彼らの頭の中を支配していた。




やがて、遠くのほうから一隻の軍艦が近づいてくるのが分かった。

その船のマストには白地に赤い丸と線が組み合わされた旗が翻っていた・・・。






「秋風より入電、溺者の救助を完了したとのことです。」


松浦が三原からその報告を受けたのはそろそろ夕方になろうかということであった。

松浦は「そうか」とだけ言うと水筒に入っていた水を飲んだ。

伊勢を始めとする第二戦隊がこのインド洋に入ってから一週間、第二戦隊はひたすらこの海域を航行する貨物船やタンカーを撃沈ないしは拿捕しており、もう11隻目になっていた。

もっとも、戦艦を3隻も用意したと言うのにこの戦果では少ないと言わざるを得ないが、仕方がないとも言える。

インド洋はUボートや通商破壊艦が出没する北大西洋と違い、マレー沿岸以外は枢軸国の手が未だ伸びてない海洋であると連合国から考えられており、そのために船団を組まれることはまずなく独航する船が中心であった。

独航ならば船団よりも安全性こそ落ちるが速度に制限がないため経済的ではあったが・・・襲う方からすればせめて数隻で船団を組んで欲しいといえた。


「しかし、アレだな。いい砲撃訓練にはなるんだが、3隻も戦艦をそろえて寄って集って叩くと言うのは・・・」


「弱い者いじめ・・・の様にしか見えませんな」


ハッハッと三原が苦笑混じりに言う。


「全くだ・・・我々の役割は当にそれだがな。しかし、できるだけ救助はしたいね」


「了解しております」


「だが、これで11隻か・・・そろそろ何か仕掛けてくるかも知れんな」


「ええ・・・無電などは打たれていませんが」


「そろそろ・・・気が付く頃でしょうな。」


橘が不安そうに言った。


「我々は果たして対抗できるのでしょうか?」



「どうだろうか?・・・今の航空兵力では厳しいものがあるからな」


「ビスマルクの二の舞にならなければ良いのですが・・・」


武田の言葉に松浦は無言で頷いた。


先年の3月、ドイツ海軍の戦艦ビスマルクは敵戦艦との交戦や航空機からの攻撃で速度を低下させたところを低速なネルソン級戦艦などによって捕捉されてしまい、蛸殴りになって撃沈されたのである。

いくら第二戦隊が戦艦を3隻もそろえていて、それらがイギリス海軍が展開しているR級戦艦群よりも優速だからとはいえ、イギリス艦隊には空母が確認されているだけで3隻ある。

防空戦力が貧弱な日本艦隊には非常な強敵なのだ。


「せめて、商船改造空母でもかまわないから1~2隻は回して欲しいんだがなぁ・・・」


「上はアメリカ艦隊の来寇に備えることで手一杯ですからね、当面は無理でしょう」


両手を上げた三原の言葉に松浦は溜息を付いた。


「当面は神威の航空隊に頑張ってもらうしかないということか・・・」




そういうと松浦は不安そうに空を見上げた。

青色からオレンジ色に変わり始めた空には一機の九五式水上偵察機が旋回を続けていた。



今回は第二戦隊商船を沈めるお話でした。

改めて考えると俺なんでこんな少ない戦力にしたんだろう?

と自問自答してしまいました(^^;

次当りからイギリス東洋艦隊の話が出てきます。


え?こんなん書く暇があったらさっさと別府造船かけ?

・・・もうちょっと、もうちょっと待ってください。

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