表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

伊勢にて

1942年3月18日 


内地では未だに雪が舞うところもあるというのに、ここシンガポールは赤道に近いこともあってか夏のようなジメジメとした湿気とうだるように熱い気候であった。

この時期、シンガポールは雨期の真っ只中であった。


作戦会議を終えて『鳥海』の艦内からデッキに出てきた松浦はその特有の湿気と照りつける太陽に思わず顔をしかめる。

内地の・・・特に北海道の気候になれていた彼には結構厳しいものであった。


「全く・・・ここの気候に慣れるには時間がかかりそうだな」


「仕方がありませんよこればかりは・・・」


傍らにいた第二戦隊参謀長の三原正弘大佐が言った。


「そうだな・・・だが、この先半年以上は喪いることになるかも知れなんだでな」


松浦達はラッタルを降りて待っていた内火艇に乗り込んだ。


今年の2月半ばに陥落したシンガポールでは未だ各所に戦災の後が残っていた。

それはここセレター軍港もまた例外ではなく、港内には未だ水没した浮きドックがそのまま放置されていた。一応これは内地から技官や工作船がやってきて引き上げて復旧するつもりのようだが、いまだそれは叶っていない。


(できる限り早く復旧してもらいたいものだな・・・)


松浦は沈んでいるドックを見つめながらそう思った。


やがて、松浦を載せた内火艇は港の端に停泊している1隻の戦艦にたどり着いた。

妙にごつごつしたやぐら式艦橋に前部、中央、後部にそれぞれ背負い式に煙突をはさんでそれぞれ背負い式に配置された6基の連装砲塔、ケースメイト式の副砲群・・・伊勢型戦艦1番艦、『伊勢』であった。

松浦の座乗艦である。


ラッタルを上がると待っていた甲板士官が取次ぎをし、水兵が「ホー・ヒー・ホー」と笛を吹き、司令官である松浦が帰還したことを知らせる。


すると、スルスルとマストに少将が乗艦していることを知らせる少将旗が掲げられた。

マストに翻る旭日旗と少将旗を一瞥した後艦橋に歩き出そうとすると、目の前に男が立っていた


「おかえりなさい。司令」


艦長の武田勇大佐だった。

どうやら松浦達を迎えに来てくれたらしい。


「・・・それで、我々はどういったことをやらされるのでしょうか?」


艦橋への道すがら武田が尋ねた。

松浦が鳥海に向かったのは別に小沢と昔話をするわけではなく、今後の簡単なスケジュールの打ち合わせであった。


「ああ、向こうで話すつもりだが・・・皆、集まっているかね?」


「ええ、全員会議室のほうに」


やがて三人は会議室に入るとそこには第二戦隊の所属艦艇の各艦長と司令部の参謀たちがいた。

松浦と武田が入室するのを確認すると全員が席を立ちあがって敬礼する。


「・・・全員集まったようだな。では、これより作戦会議と行こうか」


松浦は答礼しつつ席に座ってそういった。


「我々は先月、南方作戦の支援を行うべくここシンガポールにやってきた。ここまではいいね?」


松浦の言葉に居並ぶ全員が一様に顔を縦に振った。



「だが、そうも言っておられなくなってしまった。」


松浦はため息をついた。

なんで現状でこんなことをせねばならんのだとでも言わんばかりに。


「・・・と、いいますと?」


「ああ、我々はインド洋方面作戦へ投入されることが決まった」


その言葉に会議室にいた全員がやはり・・・という顔をした。

インド洋作戦への第二戦隊の投入は彼自身もわかっていたことであった。


南方作戦はすでに脅威と目されていた英国極東艦隊を撃破し、オランダの東洋艦隊も壊滅状態である。

あとは、ジャワ海に点在する島々に残っている少数の連合軍を相当するだけであった。

こうなると南方作戦を支援にやってきた第2戦隊であったが、ほとんど何もすることはなかった。

ただ、インド洋のセイロン島に戦艦5隻と3隻の空母などといった強力な戦力が展開しているので、彼らが東南アジア周辺部にやってくることから備える必要があった。

となると、やるべきことは2つに分かれることとなる。


一つは、このままシンガポールに居座って南方の防衛作戦にあたること。

マレー沖海戦の結果、航空機が戦艦を撃沈しうることが証明された今、戦艦の価値は低下していたがそれでもそう簡単に沈まないし、水上戦闘では自分より強い戦艦以外無敵である以上、戦艦というものは一定の脅威を作り出すことができた

つまり、いるだけでも結構怖い存在なのだ。

ましてや現在では少数ながら陸海軍の戦闘機部隊がシンガポールに展開しており、簡単にはやられることはないだろう。


そしてもう一つが、インド洋方面に進出して敵艦隊を撃破することであった。

確かに、インド洋方面の敵を一掃できれば南方資源地帯の安全は十分確保できるだろう。

だが、問題としては敵艦隊戦力はこちらよりもずっと強力なうえに、インドの沿岸部には強力な航空戦力も展開しているのだという。

これではいくら戦艦が3隻もいるといっても、敵には空母部隊がいる他に基地航空隊もインド亜大陸沿岸に配備されており、下手をすれば昨年のマレー沖海戦二の舞になりかねない危険があったため、同方面への進出には十分な護衛艦艇が必要であった。

特に航空戦力は偵察や防空の面から考えれば絶対であるとすらいえた。


「インド洋方面に進むということはドイツの支援ということになるのでしょうか?」


作戦参謀の橘信吾少佐が尋ねる


「まあ、そうなるな。ついでに言うとこれは陸軍からの支援要請でもあるらしい」


「援蒋ルートの遮断・・・ということですか」


橘が言った。


「ああ、どうも陸さんこの支援ルートを切りたくてしょうがない様だ」


「まあ、あれだけ公然と武器を送り込まれてはね・・・」


情報参謀兼通信参謀を勤めている本庄大尉がため息をついた。

英米との戦端を開いた理由のひとつとして、この援蒋ルートの遮断があったのだ。


「援蒋ルートとなりますと、やはりチッタゴンやダッカのあるベンガル湾方面への進出ということですか?」


航海参謀兼参謀副長の河野忠志中佐が尋ねた。


「いや、ベンガル湾方面には七戦隊と四航戦を中心にした馬来部隊が投入される予定だ」


「ということは、第三戦隊とともに後方支援というわけでしょうか?」


橘の言葉に松浦は溜息を付いたがやがて重苦しそうな感じに口をあけた。


「いや、我々は馬来部隊の出撃に先立ちアラビア海に進出して潜水艦部隊と協力して連合軍のアフリカ、インド方面への通商航路の遮断を行う」


「それでは・・・我々は陽動部隊ということでしょうか?」


「そうなるな」


竹園の質問を松浦は肯定した。


「戦艦を通商破壊に利用すると言うことですか!?」


山城艦長の小畑長左衛門大佐が思わず激高した。

無理もない。

これまで敵主力部隊を撃破するためだけに存在を許されていた戦艦を通商破壊作戦に投入すると言うのだ。しかも、インド洋戦線という日本海軍から見れば優先度の低い戦線にだ。


「そうだ。だがこれはもう決まったことなのだ。」


「・・・」


松浦はぴしゃりと言ってたしなめた。

小畑は不承不承ながらも頷く。




「しかし、現有戦力での通商破壊は厳しいですな。」


武田が言った。

確かに、現在松浦の手元にある戦力は第二戦隊の戦艦伊勢、扶桑、山城の戦艦3隻に護衛の駆逐艦秋風、帆風、沢風の計6隻だけであった。

これではあまりにも少なすぎる。

しかも、秋風などの峯風型駆逐艦はこれまでの駆逐艦よりも凌波性が向上するなど外洋航海能力が著しく強化されたものの、まだまだ満足するレベルに達したとはいえない。

また竣工が1920年と古く、かつては39ノットを出せた俊足ぶりも30ノットそこそこにまで落ちているというのも問題だ。

つまり、いささか荷が重いのだ。


「航空戦力くらいは欲しいところですが・・・」



「増援の予定はあるのでしょうか?」


「・・・来週、シンガポールに進出してくる予定の第二〇一航空戦隊が加わってくれる予定だ」


「二〇一航空戦隊?」


聞き慣れない名前に橘達は首をかしげた。


「ああ、『神威』と『矢風』からなる部隊だ。」


『神威』とは、日本海軍が保有している1万5千トンほどの給油艦であるが、水上機が発進できるカタパルトなどの航空艤装を装備していたことから日中戦争序盤では航空支援にも参加していた。

これを持ち出してきたのだと言う。

だが、艦載機は水上機ばかりでその数も常用補用各6機と少ない。

それでも給油艦としての機能も持ち合わせているため長距離航海においては心強い存在であると言えた。


「本気・・・いや、正気ですか?」


「少なくとも、上はこれ以上の戦力を割く気はないらしい。」


松浦はこれ見よがしに溜息をついた。

司令部要員たちは揃って唖然とした。

第二戦隊に与えられたのは、はっきり言って使えない部隊ばかりだからだ。

つまり、第二戦隊は不要な艦艇を大量に体よく押し付けられてしまったと言うわけだった。


「こんな戦力で英国東洋艦隊とやりあうのか・・・」


河野中佐が言った。

顔色は真っ青に染まっていた。

他の司令部要員たちや艦長たちも顔を青くしたり冷や汗を流していた。

たしかに、戦艦3隻という戦力は強力だがそのほかの戦力が駆逐艦4隻にタンカー改造の水上母艦とは涙が出てくるレベルのことであった。

これでは、イギリス東洋艦隊とであったが最後ボコボコにされることは請け合いであった。


「だが、我々はやらねばならない・・・」

松浦は一通り全員を眺めた後重苦しく言った。


「我々の役割は、命令されたことを可能な限り全うすることだ。・・・わかったね?」


「・・・了解しました。」


武田達は静かにそういった。

当の松浦もまた肩が重くなることを感じた。

たったこれだけの戦力でインド洋を荒らして濃いといわれたのだからその重圧や押して知るべきであろう。


「では、これから我々は如何に作戦行動をとるかが問題となるわけではあるが、コレに対して君たちからの忌憚のない意見を聞きたい・・・。」





かくして、旧式艦艇中心のオンボロ艦隊が編成されてしかも危険が一杯なアラビア海方面への進出が決定したわけではあるが、このちっぽけな艦隊が太平洋戦争をひいては第二次世界大戦に大きな影響を与えることとなると言うことはまだ誰も知らない。





どうも皆様こんばんは

久しぶりに上げてみました。(別に別府造船所が煮詰まって出せないから代わりに出したわけでは断じてありませんよ?(棒))

インド洋方面では大西洋に比べて船団が組まれることはなかったですし、まぁ、楽しく狩りができそうですが、ばれたが最後船団が組まれてしまうことは確実!

おまけに戦艦群が護衛に出張ってくるだろうし激しくピンチになるでしょう。そうなったらUボートさん達の活躍をお祈りするしかありませんね(笑)

戦力は順次増強するつもりですが、出てくる船はみーんなボロ船だったり訳あり物件だったりにするつもりです。

・・・モ●ハンでいうところのクソ装備で縛りプレイする感じと思っていただければ分かりやすいかと思います。(初期装備で老山龍狩りとか・・・)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ