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プロローグ

プロローグ



1942年3月11日 シンガポール


南遣艦隊旗艦「鳥海」の長官公室にて二人の将官が談笑をしていた。


「まさかこんな事になろうとは・・・お互い、人生とはままならない物ですな」


少将の階級をつけた老人が苦笑を浮かべながらいった。


「全くですよ」


向かいに座っていた南遣艦隊司令長官の小沢治三郎中将の言葉に老人は静かにうなずいた。

自身よりも10近くも年上な上に、かつては自身の教官だった人物に対しては如何に部下とは言えど自然と小沢の言葉遣いも丁寧なものとなっていた。

また、彼の仇名の鬼瓦と呼ばれている表情も綻んでいた。

老人の名は松浦伝助。

御歳67歳になる老将であった。

現在、戦艦伊勢、扶桑、山城からなる第二戦隊の司令官を務めている。

日本海海戦で大尉として戦ったこの老人はまるで海軍軍人とは到底思えない、近所で良くいる好々爺のような笑みを浮かべながら久方ぶりに会った小沢との会話を楽しんでいた。

さて、本来ならば当の昔に予備役に入っていてもおかしくないようなこの老人がなぜ旧式とは言え戦艦部隊を率いているのかと言うと、当然ながら訳があった。


それは数ヶ月前に物事は始まる―――





























1942年1月20日 柱島沖 連合艦隊旗艦「長門」会議室


「・・・燃料がないだと?」


「その通りです。現在の燃料の残量から言いまして、もって4ヶ月ほどが限界かと・・・」


連合艦隊先任参謀渡辺少佐の声に主計参謀は申し訳なさそうな顔をしていった。

その言葉に、幕僚達は一様に溜息を付いて頭を抱えた。


去年の12月8日の真珠湾奇襲およびマレー湾上陸以来日本は破竹の快進撃を続けた。

その結果、いまやシンガポールやバリクパパン、ヴァタビアなどの東南アジアの主要地域への攻勢を強めている。

だが、快進撃を続けている裏では補給物資の不足が目立ち始めていた。

特に燃料がそうだった。

元々日本の備蓄燃料は半年程度でしかなかった。

長期不敗の体制を確立するためにも日本は東南アジアの資源地帯に攻勢を掛けたのだ。

だが、肝心のバリクパパンやパレンバンといった油田地帯では多くの油井などの施設が破壊されてしまっていた。

そのため、ソレが復旧する間まで日本は元々の備蓄燃料での対応を余儀なくされていた。


「向こうで燃料が確保できたのではないのか?」


連合艦隊司令長官の山本五十六大将が尋ねる。


「仰るとおり、シンガポールなどでは10万トンの備蓄燃料を確保できました。ですが、未だ南シナ海の航路の安全が確立できない限り、容易に艦隊を引き剥がしたり、現地から油を輸送することは危険と判断いたします。」


「交代予定の艦艇を護衛につけての輸送は?」


「そもそも向こうにいるタンカーの数が不足気味です。」


「シンガポールはつぶしたが、未だ有力な艦隊がインド洋に展開しているからなぁ・・・」


渡辺が溜息をついた。


「幸運なことは、米戦艦部隊が真珠湾で壊滅してくれたことか・・・」


参謀長の宇垣纏少将が溜息混じりに言った。

南雲中将率いる第一航空艦隊による真珠湾奇襲でアメリカ戦艦部隊は文字通り壊滅していた。

だが、付近にいたエンタープライズからの航空攻撃によって蒼竜が撃沈され、翔鶴が中破するという被害とその後の敵吉航空隊からの反撃で合わせて200機あまりの航空機を損失していた。

ちなみに、山口多聞少将・・・いや、大将も蒼竜と命運を共にした。

そのため、これらのことから当面の間第一航空艦隊は再編成を余儀なくされていた。


勿論、南方地域の制圧には現有戦力でも十分対応できるだろう。

だが・・・もしもインド洋などの敵艦隊が攻撃に出てきたら?

その考えが日本海軍内では小さいながらも脅威として写っていた。

インド洋ではイギリス東洋艦隊が存在しており、旧式ながらも戦艦5隻と装甲空母2隻を含むかなり有力な艦隊が存在していた。

それらが大挙して東南アジアに反撃を仕掛けてきたら・・・?

負けはしないだろうがかなり厄介なことになるのは確実であった。

まだ東南アジアは完全に制圧したとは言いがたく、各地でオランダ軍との散発的な戦いが行われていたし、フィリピンでもアメリカ軍がバターン半島やコレヒドール要塞に立てこもって頑張っていた。

また、地球の反対側の同盟国であるドイツからも印度洋方面に艦隊を進出させてアフリカ戦線で戦って入るロンメル率いるドイツ・アフリカ軍団を支援して欲しいとの要請が矢のように日本の海軍省に届けられていた。


取り敢えず、同盟国の要請は放って置いたとしても自己の安全を確立するためにも南方にある程度の戦力を増強、展開させる必要があった。

だが、その戦力はどうする?

そこで日本海軍はすっかり悩んでいた。

そんな時、一人の参謀が声を上げた。

主席参謀の黒島亀人中佐だった。


「・・・ならばいっそのこと、油のあるところに艦隊を回航すると言うのはいかがでしょう?」


「何?」


宇垣のほか何人かの参謀が目をむいたが黒島は続けた。


「どうせ、米艦隊は当面出て来れません。ならばいっそのこと大食らいの戦艦を南方に回すことで南方作戦の支援を行わせると言うのはいかがでしょう。」


確かに、東南アジアやシンガポールにはまだ石油が残っている。

少なくとも、内地よりは石油事情はいいはずだ。

軍艦は別に動いていなくても石油を浪費する。

艦内を発電したりする必要があるからだ。

そして、大きな艦艇であればあるほど消費量は上がるのだ。


また、戦艦はマレー沖海戦や真珠湾奇襲の結果その存在価値を大幅に低下させていた。

だが、戦艦は水上戦闘艦艇の頂点に位置するものである。

そう簡単に重要とは言え二線級の戦場に展開させるわけにはいかないのだ。


「だが、戦艦はいざと言う時の切り札だ。そう簡単に動かすと言うのは・・・」



宇垣が言いかけたのを黒島はそれを制した。


「将来的に脅威となりうる存在よりも今ある脅威のほうが怖いです。ならば対抗できる戦力の配置をするべきです。それに、向こうに行けば存分に訓練も可能でしょう・・・如何でしょうか?長官」


「ふむ・・・」


黒島の言葉に山本は少し考えた後、パンッと膝を打った。


「よろしい、戦艦部隊を送ることとしよう。ただし、第一戦隊は駄目だ。米艦隊の来寇に備える必要もあるし、内外の士気にもかかわるからな。現在第三戦隊第一分隊(金剛、比叡)がいるがそこに加えて第二戦隊も投入し、印度洋の敵に対抗する。」


「長官!それでは半数以上の戦艦が南方に展開することになります。それでは・・・」


「このまま柱島沖で燻っていても訓練不足になるだけだ。ならば、腹いっぱいに出来て思いっきり訓練できるところの方がいいだろう?」


「・・・分かりました。」


山本の言葉に宇垣はやや不満げであったが従った。


そういう訳で第一艦隊司令官の高須四郎中将以下第二戦隊の戦艦伊勢、日向、扶桑、山城の四戦艦がシンガポールはセレター軍港に向かうこととなった。

しかし、その前日に日向が第五番砲塔を吹き飛ばすと言う事故を発生させてしまった。

その上、視察に訪れていた高須中将もコレによって右足の骨を折ると言う大怪我を負ってしまった。また、その他数名の参謀も負傷したため、死者こそ出なかったものの第一艦隊司令部はこれによって事実上壊滅し、艦隊の指揮を取れなくなってしまった。


このため、慌てて新たな司令部を創設する必要が発生し、方々から暇をしていた将校をかき集めたのだが、そこで司令官としての白羽の矢が立ったのが、当時稚内で港湾司令官を務めていた松浦であった。

当時いい加減に予備役に編入されるのだろうと考えていた松浦はソレに驚いて辞退しようとしたのだが、人事の関係でそれは許されず、第二戦隊の司令官に任命されることとなったのだった。


そして、松浦は結局日向をのぞく三隻の戦艦と駆逐艦四隻からなる小さな艦隊を率いて柱島を出発して馬公、リンガをへて昨日シンガポールに入港した。

シンガポールで補給を受けた後、改めて南方作戦の支援などを行う予定であった。



そして、ちらりと腕時計を見るとすでに午後の二時をさしていた。


「それでは、そろそろお暇させていただきます。」


松浦はゆっくりと立ち上がった。


「また、お会いできる日を楽しみにしております。」


小沢はそういって扉を開けた。

松浦はその言葉にうんと傾いて扉に向かって歩いていった。


「・・・では、又会おう。小沢生徒」


去り際、松浦はかつての呼び名で小沢を呼んだ。


「御武運をお祈りいたします。教官」


小沢も立ち上がって彼に向かって兵学校の士官候補生であった時のように直立不動で敬礼した。




どうも、となりの山田と申します。

「進め!別府造船所(仮)」と言う小説を書いているものなのですが、ソレを書いている途中に今回の構想を思いつきまして、思い切って書いてみました。

昔、ネットで「シヴァの葬送」という架空戦記を読みまして、それの影響を受けて今回書いてみました。

別府造船所を書いている関係上、かなり途切れ途切れのペースになりますが、一応完結させるつもりですのでよろしくお願いします。

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