彼の日記
もう少し暗くするつもりが、意外としんみりした出来になりました。まあ、よしとします。
私が先輩の日記を見つけたのは、先輩が失踪してから数日後の事でした。
先輩刑事であった彼が、どのような事件に巻き込まれたのか調べ上げるため、私は先輩の日記を読むことにしました。
四月×日
今日、彼女と共に花を見るために遠出をした。少しづつ、春の日差しが強くなってくる中春の花々を二人で見て回った。
デートに花見を選ぶくらいだ、彼女は花が好きらしい。
今度私も何か植えてみようか。
四月×○日
早速、色々な花々の種を買い込んできてみた。
紫色の花を咲かせるらしいペチュニア、黄色のパンジーに、他には白いマーガレット。
一人暮らしのアパートのベランダが少しだけ華やいだ、まだ、種を植えただけのプランターで、こうなのだ、花が咲いたらきっともっと華やかになるに違いない。
五月×日
とうとう最後の一輪の蕾が開いた、ベランダ一面が花開いたかのように爽やかな芳香に包まれている。
今度彼女を招待しよう、きっと喜んでくれるはずだ。
五月×○日
彼女はとても喜んでくれた、今度は夏の花に挑戦してみよう。向日葵とか良いかもしれない。
この小さなベランダに収まるなら…だが。
六月×日
いろいろ悩んだ末、定番の向日葵と朝顔を植えることにした、少し大きめのプランターを買い込んで、向日葵の苗と、春に使ったプランターに朝顔の種を撒く、今から、花が咲くのがとても楽しみだ。
六月×○日
最近の彼女のマイブームは、花を一輪胸ポケットに忍ばせることらしい、今日は小さな白い花を胸ポケットに忍ばせていた。
後から聞いた話だと、あれはローズマリーという花らしい。
七月×日
朝顔の芽が大きくなってきた、向日葵も順調に育っている。
そろそろバラやラベンダーなども綺麗に花を咲かす季節らしい、春と同じように彼女と共に見に行くのもまた一興だろう。
七月×○日
彼女を誘ってみたが、何か用事が有るらしい、断られてしまった。
しかし、諦めたくはない、また誘ってみよう。
向日葵と朝顔が咲いたベランダに誘ってみるのも良いかもしれない。
八月○日
これから彼女と会う、ベランダの朝顔は満開、向日葵も少し小さいが満開だ、彼女は喜んでくれるだろうか…?
八月×○日
彼女がわからない、僕を避けていることは解る……。なぜだ、僕が何をしたのだろう。
彼女の胸ポケットには相変わらず一輪花が忍ばされている。紫色の小さな花、後で調べたアザミという花らしい。
明日、その話題を振ってみよう、彼女は答えてくれるだろうか。
九月○日
話しかけても無視されるようになった。もう、花の話題を降っても彼女は答えてくれない。
僕らは終わってしまったのだろうか。
九月○×日
彼女の胸ポケットに相変わらず、花が一輪忍ばされている。
青い釣鐘型の小さな花だ、家に帰ってからネットで調べてみた。あれはりんどうという花らしい。
十月○日
事件の捜査中、黄色い小さな花を見つけた。最近持ち歩いている植物図鑑と見比べて名前を探す、ツワブキというらしい。
その花を一輪摘み取って、僕は彼女に渡すことにした。
彼女は気がついてくれるだろうか?
―――ここで、先輩の日記は終わっていた。
失踪したのは、この数日後。綺麗さっぱり姿を消した先輩。
日記を彼の机の上に戻し、ベランダを眺めると枯れた向日葵と朝顔の姿が見えました。終わってしまった関係を求めて、先輩は消えてしまったのでしょうか。
私にはわかりません。
私は、最後に部屋をぐるりと見回してから、机の上の先輩の日記をそっとなぞり、部屋を後にしました。
一人の女性刑事が一心不乱に部屋の主の日記を読んでから、部屋を後にした。
彼女が部屋を去って少し経ち、部屋を操作していた鑑識班が、小さな変化に気がつく。
「あれ?こんな花有りましたっけ?」
鑑識班所属の若い刑事の前に合ったのは、日記の上に置かれた小さなピンクの花。
鑑識班所属の壮年の刑事が、たまたま机に上に置かれていた植物図鑑を開く。
「さあな?あったかどうかはわからん……、まあ、花の名前はわかった」
ポケットにでも入っていたのか、少し萎れてしまった花をつまみ上げて、鑑識班の壮年の刑事が興味深そうに植物図鑑と見比べた。
「この花の名前は……ディアスキア、多年草の一種だとよ」
☆ ☆ ☆
花言葉
ペチュニア……………あなたと一緒にいると心から和らぐ、あなたといると心が静まります
パンジー………………私を想ってください、物思い、思想
マーガレット…………恋を占う、予言、真実の愛
向日葵…………………あなたを見つめる、愛慕、あなたは素晴しい
朝顔……………………はかない恋、固い約束、愛着の絆
ローズマリー…………思い出
アザミ…………………触れないで
りんどう………………苦しんでいるときのあなたが好き、正義
ツワブキ………………愛よよみがえれ
ディアスキア…………私を許して
花言葉、色々なジャンルでもよく使われるファクターだと思います。今回はソレを取り入れてみたくてこの作品を書きました。
前短編二作品と違い、あまり捻りのない出来となってしまいました。
まあ、多少方向性は違いますが、書きたいものは書けたので良しとしたいと思います。