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堕ちた魔王の理想郷  作者: 紅峰愁二
第1章:発端
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第11話:魔王国(5)

「――いつまでそこにいるつもりだ」


 いつまでも突き刺さる視線に苛立ちながら魔王は言った。それでも視線の主の動く様子がない。


「話がある。こっちに来い」


 動かぬのなら呼ぶしかない。言って振り返ると、困惑したクリスティーナの顔があった。目が合うと迷うように視線を逸らす。だがすぐに決意した目で魔王を見返し、こちらに歩み寄って来る。


「隣、いい?」

「ああ」


 魔王が許可すると、クリスティーナは隣に腰掛けてくる。

 隣、と言ってもクリスティーナは敢えて少し離れた場所に座った。二人の間には人一人分と少し空いている。片方では手が届かない距離。しかしお互いが伸ばせば届く長さ。近いようで遠い距離。それが今の二人の心の距離でもあった。

 クリスティーナは座ったが良いが、何を言っていいのか解らないのか俯いて黙っている。それに対して魔王は隣に座ったクリスティーナに見向きもせず、空高くにある月を眺める。

 今夜は雲一つ無く、満月がはっきりと映っている。そのお陰で月明かりだけでお互いの姿がよく見える。


「今日は月が綺麗だな」

「・・・・・・そうね」

「月は形こそ光加減で変わるが、その姿は結局は変わらない」

「何が言いたいの・・・・・・?」


 クリスティーナが魔王を怪訝な顔で見る。


「毎日のように見る月は変わらないのに、それに照らされる私たちは日に日に変わっていくなあ、と思ってな」

「・・・・・・っ」


 自分で言ってから、魔王は本当に変わったと改めて思う。

 一年前まではフェルミアや魔王国の魔族たちに囲まれて平和に暮らしていた。しかし今はフェルミアも仲間だった魔族たちもセシリーを除いて全員死んでいる。魔王国も存在しない。

 何より、魔王自身が魔術を扱えない人間になっているのが驚きだ。魔族とて人間と同じように寿命がある。だからフェルミアや他の魔族が亡くなっていても不思議ではない。だが、自分の姿が変わることは普通なら起こりえない。こんな状況を一年前に誰が想像できただろうか。


「さっき・・・・・・エストレイアにあなたの大戦の時の過去を視せてもらった」


 クリスティーナが搾り出すように言う。

 その話は先程、天使に聞かされていた。自分の過去を覗かれるのは嬉しくないが、ある意味効果的ではあるため敢えて口出しはしなかった。魔王自ら語るよりも、当時の出来事を見た方が理解が早い。セシリーが傍にいたから真偽はすぐに確かめれる。


「何というか、うまく言えないけど・・・・・・ごめん」


 小さな子供が叱られたような顔でクリスティーナは魔王に謝罪した。

 顔はしっかりとこちらに向けるも、視線は下に下がっている。声も弱々しく、唇は震えているのが見えた。旅を一緒にしてからも、人間クルスの記憶からも、こんなクリスティーナを見るのは珍しい。


「謝って済む問題じゃないって解ってる。でもわたし、どうしたら良いのか分からなくて・・・・・・」

「確かに謝って済む問題ではない」

「・・・・・・っ」

「だが、クリスティーナが私に謝ることではない」

「え」


 おそらく予想とは違う反応に驚いてクリスティーナが目を見開く。


「あれは戦争だ。クリスティーナ一人のせいではない」

「だけど・・・・・・!」

「もういい。お前は十分に苦しんでいる。それよりも――」

「何でよっ!」


 魔王の言葉を遮ってクリスティーナは立ち上がる。その顔は怒りに染まり、目には涙が浮かんでいる。


「何でそんな冷静なのよっ! さっきのわたしのように――大戦の時みたいに怒鳴り散らせばいいじゃない! どうしてそんなに落ち着いてるのよ。わたしに気を使ってるの? それとも同情? そんなことされても嬉しくないわよっ!」


 恋人の死を知った時と同じ真っ直ぐな怒気。

 クリスティーナの思いが怒りと共にまくし立てられ、魔王に向けられる。そのやり場のない怒りを魔王は知っている。だから、教えてあげなければならない。


「同情に近いかもしれない」

「何よ、それ」

「お前が恋人の死を知って、怒り、悲しんだあの姿に私自身を重ねてしまったからだ」

「・・・・・・!?」


 クリスティーナが何とも言えない顔をする。驚いているようにも、悲しんでいるようにも見える。

 魔王はそれでも続ける。


「だからといって、全てを感情移入するつもりはない。人間と魔族わたしたちはお互いにあの大戦でやってはならないことをした。“戦争だから”というのは単なる逃げ口実だ。故に、私たちは王として何らかの責任を取らなければならない」

「王としての、責任・・・・・・?」


 王になるまでにはいくつかの通過点がある。それは礼儀作法だったり、世界情勢の把握だったりと様々だ。国によって異なることもあるが、王族の後継者が成人、或いは現王の引退に合わせて準備を進めていくのが通例である。

 しかし、例外も当然存在する。戴冠たいかん式を前に王が急死した場合だ。

 今回の場合は魔王のシフィア王城急襲によって王も王妃も亡くなっている。唯一の後継者であるクリスティーナは成人になる前に王にならざるおえなかった。更に王と共にそれを支えていた重役たちも魔王によって殺されているため、うまく引き継ぎが行われたとは思えない。

 王としての覚悟も責任も、他の通例の儀式を行った者たちより足りないだろう。一緒に旅をしていて、それがよく解った。個人としては悲しみに耐えていても、一国の王としては考えが足りてないと思える。大方、リブラークなら自分より民を幸せにしてくれると思い込んでいるのかもしれない。民より魔王を優先したところから容易に想像ができる。セシリー曰くの「リブラークなら大丈夫」の心理はクリスティーナにも働いているのだろう。

 だが、それも言い訳だ。望む望まないは関係ない。一度王となった以上、責任は最後まで全うしなければならない。


「私たちは守るべき国を失った。失った者のためにも、大戦の真実を暴かなければならない。二度と、同じことを繰り返させないために。それが私たちに出来る数少ない償いの一つだ」

「大戦の真実って・・・・・・」

「あの戦争は明らかに誰かの策略だ。いくら各国の連合軍で固められていたとはいえ、僅か数日で魔族の軍隊を壊滅さられるわけがない」


 大戦は魔王が魔王国を離れた時に起こった。それもすぐには戻って来れない程離れたところでだ。その間はフェルミアに魔王国を託していたが、これも戦争を仕掛けられる前に夜襲を受けている。魔王国でも信頼の厚いフェルミアの負傷は魔族たちの冷静さを失わせた。怒りや悲しみ、恐怖といった感情が溢れて指揮も乱れた。そのせいであっという間に制圧され、篭城を余儀なくされた。


「人間の軍の襲撃のタイミングがあまりにも良過ぎる。クリスティーナは当時どう聞かされていた?」

「分からない。当時は増援として魔王国へ向かってる途中だったもの。作戦会議なんて参加できる立場じゃなかったし。少しでも腕の立つ兵士は前線へ送り込まれてから」

「何も聞かされていない、か・・・・・・」

「・・・・・・うん」


 クリスティーナを見る限り嘘を付いて様子はない。寧ろ混乱してるようだ。


「ならば、知りたくはないか? どうしてあの戦いが起こったのか」

「知りたい・・・・・・知りたい!」

「それならば、共に探そう。大戦の真実を――私たちの償いを」


 魔王は立ち上がり、手を差し出す。

 滅ぼすのでなく、共に歩み続ける。これが人間に国を、仲間を――妻を奪われた魔王の答えだった。


「あ・・・・・・」

「大戦の真実を暴いたからといって全てが許されるわけではない。だが、その後は今の私でも何をすれば良いのか分からない。だから、共に見つけてほしい」


 戸惑った顔でクリスティーナは差し出された手を見つめている。

 急な申し出による困惑か、恋人の姿をした魔王と一緒に行動することへの拒絶か、まだ自分の中で整理が終わっていないのか。自分の手を胸元でギュッと寄せる。

 やげて、決意した顔で口を開く。


「約束して」

「何をだ?」

「わたしはあなたを裏切らない。だから、あなたも絶対にわたしを裏切らないで」


 両親を殺し、国と恋人を奪われるきっかけを作った魔王。それと共に歩む道は過酷でしかない。しかしクリスティーナは敢えてそれを選ぶ。その誓いの前提を提示する。

 魔王もそれに応える。


「ああ。約束する。私たちは共に生き、共に罪を清算する同志だ。決して裏切らず、どちらかが死ぬことも許されない」

「解ってる。わたしも・・・・・・王としての責任を果たすわ」


 クリスティーナが力強く魔王の手を握る。魔王もその手を握り返す。


「王である以上、一度交わした盟約は死んでも守らなければならない」

「ええ、必ず」


 お互い手を離す。まだ温もりの消えない、約束を誓った手を見る。

 魔族の王として、亡くなった者たちに報いたい。亡くなった者が生き返らない以上、これより犠牲と悲劇を出さないために魔王は立ち上がる。まずは大戦の裏を引いていた者を暴き出し、二度と繰り返させないようにするにはどうするべきか考えなければならない。いつまでも、悲しんでばかりいられない。復讐という現実逃避から魔王は改めて目を覚まし、新しい同志を見る。

 クリスティーナも握っていた手を開いては閉じてを繰り返している。きっとクリスティーナも今後について何らかの決意をしているに違いない。だがその頬が少し赤く、やや落ち着きがないようだ。


「ねぇ、もう一つ確認したいことがあるんだけど・・・・・・いい?」

「何だ?」


 どうしたんだ、と魔王が思っているとクリスティーナが訊ねてくる。


「十秒だけ目閉じて動かないでくれる?」

「構わないが・・・・・・一体何をするんだ?」

「いいから!」


 怪訝に思いながらも言われるがままに魔王は目を閉じる。すぐ近くでクリスティーナが息を呑む感じがする。吐息が掛かり、殆んど密着していると言っていい距離まで詰められる。

 ――何をする気だ?

 未だにクリスティーナの意図が見えない魔王。

 すると、両頬を柔らかい何かが押さえた。それがクリスティーナの両手だと気づいた直後、彼女の方に引き寄せられ、頬に当てられたものとは別の柔らかい感触が唇に伝わる。驚いて目を開けると、眼前に目を閉じたクリスティーナの顔があった。キスされている、とそこで初めて気づく。唇同士が触れただけのキス。それがきっかり十秒続いた。

 十秒後にクリスティーナが唇を離し、目を開ける。吐息が漏れる。キスする前と違って頬も元の色に戻り、落ち着いている様子だ。


「ちゃんと目閉じてて言ったでしょ」

「あ、ああ・・・・・・いや、そうではない。何だ今のは!?」


 魔王が取り乱すのに反してクリスティーナはこちらに笑いかける余裕がある。


「確認したいことがあるって言ったじゃない」

「だから、何だそれは」

「あなたはクルスじゃない」


 クリスティーナの言ったことに魔王は思考が止まる。


「おへその下にグッと来るものがない。心が躍らない。胸が苦しくない」

「服のサイズは合っている筈だから胸は苦しくならないと思うが・・・・・・?」

「何でよ!」


 的確な突っ込みにクリスティーナの非難を浴びる。わけがわからない、と魔王は首を傾げる。


「何がしたかったんだ」

「クルスは本当に死んだんだなぁって思っただけよ」

「・・・・・・どういうことだ?」

「好きな人とキスすると何かこう、幸せ! って感じするじゃない。それが今なかった。それだけよ!」


 ――好きな人とキスすると幸せ、か。

 これは魔王にも解る。確かに想い人以外としてもその感情は生まれまい。


「いきなりしちゃったけど・・・・・・もしかして、怒ってる?」

「いや、別に。ただいきなりあんなことをやられるとこちらとしては身が持たない。・・・・・・色々と疎いんだ」

「確かに。わたしの胸チラッと見ただけで鼻血噴く程だもん。そういうところ子供よね」

「からかうな」

「こどもー」

「うるさい! そっちの方が子供だろう!」


 魔王とクリスティーナは笑う。

 敵だった二人がこうして笑い合える。だからきっとこれから何とかなる。具体的な理屈はないが、魔王はそう思う。そう、信じられる。


「――奥様、見ましたか。あの二人もうデキちまってますぜ」

「ええ。予想を上回る展開にわたくしも喜びを隠し切れません」


 不意に、二人の聞き覚えのある声が耳に入る。魔王とクリスティーナがほぼ同時に声の方へ振り向く。

 そこにはニタニタ笑いのエストレイアと満面の笑みを浮かべたセシリーが茂みからこちらを窺っていた。更にその後ろには力天使一体と権天使数十体が詰め寄せている。力天使は相変わらずの無表情だが、権天使たちは何やらヒソヒソと話しながら盛り上がってのが見えた。


「な、何故そんなところにお前たちが!?」

「い、一体いつから!?」


 慌てふためく魔王とクリスティーナ。

 エストレイアとセシリー、力天使の三人が茂みから出てくる。権天使たちは茂みからは出てこないものの、興味津々と見守っている。


「いつからと言われると・・・・・・魔王くんがクリスちゃんに『今日は月が綺麗だな』ってロマンチックにささやいた時からだね」

「ロマンチックに囁いてなどいない!」

「魔王様。とても素敵でした。わたくしも思わず魅入ってしまいました」

「そんな感想も求めていない!」

「・・・・・・ていうか最初の方からじゃない。逆上せて寝てた筈なのにわたしと別れてから付けてたの?」


 クリスティーナの問いにエストレイアは首を軽く横に振る。


「ううん。監視役の権天使の一人から『これから面白くなりそうです! 絶対見所ですっ!』って言われてから、こりゃー寝てる場合じゃねえ! って飛び起きて駆けつけたのさ」

「その権天使連れて来なさい。しばくわ!」


 拳を握るクリスティーナにエストレイアは、まあまあ、と押さえる。


「それよりも二人が仲直りしてくれて良かったよ」

「仲直りも何も・・・・・・」

「仲直りだよ。二人は本当なら仲良しなんだからさ。・・・・・・それで、これからどうするの?」


 話を盗み聞きしていた筈なのにエストレイアは敢えて確認する。その答えを魔王とクリスティーナは迷わず口にする。


「これからも旅を続ける」

「二人・・・・・・いいえ、三人で」


 クリスティーナがセシリーの方を見ると、微笑み返してくる。答えは、聞くまでもない。

 それを聞いたエストレイアが、そっかそっか、と満足気に呟く。


「それならこれを上げよう」


 エストレイアが何やら用紙を力天使から受け取り、魔王とクリスティーナに差し出す。


「何だこれは?」

「入国許可書。今のきみたちは国籍がない状態なんだよ? それなのにどうやって入国するのさ。ルーニスとは違うんだよ」


 呆れた声でエストレイアが魔王を見る。

 エストレイアの言う通り、ルーニスのように大陸全土の国があっさり国内を通過できるわけではない。国境沿いに入国チェックを行う国も当然存在する。その際に必要なのが、国籍などの個人情報が書かれた入国許可書だ。本来ならしっかりとした施設で申請して作成もらうものだ。

 魔王が使っている身体の主やクリスティーナは国籍としてはシフィアだ。しかし現在シフィアはリブラークに奪われたため国籍がそのままでは通用しない恐れがある。占領後に残った民にはそれなりの措置をした筈だろうが、魔王たちにはそれがない。

 そういった場合は、有力者や名のある組織の紹介状があれば国籍が不明でも通用する。魔王たちのように戦争で国を追われた者や、大陸中を旅して回る商人たちなどに対する処置だ。

 魔王が手渡された入国許可書には紹介者の欄にエストレイアの名前がある。


「これで通用するのか?」

「通じる通じる。ヴァナディス専用だけどね」

「ヴァナディスに知り合いがいるのか?」

「いるよー。一番偉い人に渡してって門番の人に伝えてね。きっと無視は出来ない筈だからさ」

「ああ。わかった」


 入国許可書をリュックの中に大切にしまい、空を見上げる。

 いつの間にか月明かりでなはなく、昇り始めた太陽で周囲が明るくなっていた。朝日の光が眩しく見える。


「結局朝になっちゃったわね」

「ああ。今から出発すれば夕方にはヴァナディスに着けるだろう」

「徹夜したのにハードだなぁ」

「我慢しろ」

「分かってるわよ」


 文句を言いながらもクリスティーナは旅の準備を始める。魔王もリュックを整理しようとする。そこで没収されていた筈の剣がリュックの横に置かれているのに気づく。エストレイアをチラリと見ると、とぼけた顔をする。魔王は呆れながらも敢えて訊ねず、いつも通り腰に差す。

 クリスティーナも剣を背中に背負い、旅の準備を終える。


「一旦お別れだね。色々迷惑かけて悪かったよ」

「そうだな。だが、一応世話になったと言っておこう」

「素直じゃないねー。まー今回はあてにも非があるから人のこと言えないんだけどね」


 エストレイアは苦笑いで言う。


「一旦って言ったけど、次はいつ会えるの?」

「んーわかんない。一応仕事があるからね。なに? 寂しくなっちゃった?」

「違うわよ! また今回みたいな登場されると心臓に悪いからよ」

「なら次はもっと驚く登場にしないとねー。期待して構えてて」

「そこは“待ってて”でしょ! 構えさせないでよ!」


 朝から元気だな、と思いつつ魔王はエストレイアに背を向ける。


「いつまでもこうしているわけにはいかない。私たちは行くぞ」

「うん。呼び止めるつもりはないよ。また会えるしねー」

「ああ。またな」

「またね、エストレイア」

「失礼します。またお会いしましょう」

「うん。またねー」


 そう言ってエストレイアと別れる。

 魔王とクリスティーナは軽く手を振り、セシリーは一礼してヴァナディスの方角へと歩き出す。エストレイアの方は腕を子供のように大きく振って魔王たちを見送った。

 一柱の神と出会い、魔王とクリスティーナは解り合えた。仇敵同士が手を取り合ったことの意味。本来なら成し得ないこの行動は、始めにして大きな一歩になるだろう。魔王はそう信じる。

 ――いつか、きっと・・・・・・。

 魔王は旅の一歩を踏み出す。今になって最初の一歩を。

 目指すは、ヴァナディス神殿国。




 魔王たちが見えなくなるまでエストレイアは手を振っていた。

 見えなくなり、腕を下ろす。それを待っていたかのように力天使が近づいてくる。


「いかがでしたか。今世こんせいの魔王は」

「うん。予想以上だよ」


 エストレイアは満足気に頷く。

 エストレイアは“魔王”について個人的に調べていた。

 『ディオ・リナ』には誕生する生物が決まっている。存在する生物から変種に成る可能性を含め、『ウィルフレド・イマ』では全て把握している。『ディオ・リナ』の管理業務を行う神だからこその知識だ。

 しかし、その知識の中に“魔王”はない。

 魔王を名乗る魔族や人間の存在は予測されてる。だが、“魔王”という存在は認知されていても把握はされていない。神でさえも全く正体不明の存在なのだ。

 だから、エストレイアは知りたいと思った。会って、理解したいと思った。

 そして得たのは、


「楽しいなー」


 エストレイアは本当に楽しそうに呟く。それは子供が誕生日にプレゼントを貰った時に見せるような笑顔。


「『ディオ・リナ』の規格外の存在――魔王」


 エストレイアは見えなくなった魔王の背中を見る。


「次は一体何を見せてくれるのかな。魔王くん」


 『ウィルフレド・イマ』の神はいつまでもその背を見続けた。

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