祟りなんて(3)
玄関まで来ると、怯えたお母さんが、ボクを送ろうと走って来た。
「す、すみません。何もお構いできなくて」
「いえ、いいんです。それより」
それとなく尋ねてみる。
「彼が……息子さんがああなったのは、小学生のころからですか?」
すると、ビクッとして質問の意味を考えているようだ。
「ええ……三年生のころまでは普通の明るい子だったんですけど、四年生の時に突然人が変わったようになって……」
奥を気にしながら、消えそうな声でつぶやく。
「ひょっとしてお母さんも、アレを見たことがあるんですか?」
そう聞くと、体をガタガタ震わせ何も答えなくなった。
やっぱり見たことがあるんだ。
ボクのお母さんと同い年くらいのはずだけど、ずっと老け込んで見える。苦労しているんだろうな……。
「今度はボクが狙われているようです。
近いうちに彼とやり合うことになるはずですが……もしボクが勝ったら、岡村君は元に戻ると思いますよ」
「え?」
彼女がこれまでとは違う驚きで、顔を上げた。
「かなり強い負のエネルギーに取り込まれています。
それを祓うことができれば元に戻るでしょう」
少しでも安心させるために言ったつもりだったけど、彼女はまた絶望的な表情に戻る。
「これまでに何度も祈祷してもらったんです……高いお金を払って、でも逆に大怪我をしたり、中には亡くなった人も……」
消えそうな語尾と一緒に涙がこぼれ落ちる。
そうか、そうだろうな。あのエネルギーは尋常じゃない。
並大抵の……それもお金を請求する程度の人にはとても手に負えるシロモノじゃない。
ムリもないか。これまで約5年の間に何があったのかなんて、少し想像しただけで分かるし、この人もすっかり諦めている。
それ以前に祓おうとする行為そのものが間違っている。
憑いたら祓う?
そうじゃない。
なぜ憑いたか、憑くためには憑くだけの原因があるんだ。
誰かの呪い?
先祖や水子のタタリ?
キッカケはいろいろあるかも知れないけど、それを引き込む根本的な原因は本人にある。
タタル側とタタられる側の波長が合わないと物理的な影響が出ることはないんだ。
タタリに合うのは自分の中にタタリを引き込む気持ちがないと影響されることはない。
祓うといったのは、分かりやすいからその言葉を使っただけで、普通考えられているお祓いなんてするつもりはない。
「ボクなら大丈夫です。それにお金なんてもらう気はありません」
大丈夫……なんて確信はない。
次元生命体ならともかく、ものすごい負のエネルギー体だ。
ボクの能力を霊力に変えたところで、実際どれだけの効果が期待できるかはやってみないと分からない。
「……あなたは……どういう方ですか?」
初めの時よりも緊張がほぐれてきたように、でもまだ遠慮がちに彼女が尋ねた。
「三の関皓介といいます。クラスメートでまだ高校生ですけど霊能者としては有名なんですよ。
まあ今日はお祓いの前の下調べといったところです」
もちろん有名じゃないし、基本的にお祓いなんてするつもりもないけど、彼をこのまま放って置くのは、誰のためにもよくない。
「そうですか……」
「じゃあ今日のところは帰ります」
ドアを開いて外へ踏み出した時、彼女が深々と頭を下げて『お願いします』と小さくつぶやくのが聞こえた。
「……という訳なんです」
うちに帰って介鱗様に今日のことを電話で話した。