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祟りなんて(2)

 思い切ってエレベーターに乗り込むと、彼はノロノロとボタンを押した。


 でも予想に反して何事もなく到着し、彼は先に歩き始める。


 鍵がかかっていない部屋のドアを、チャイムも鳴らさず、ノックもしないでガチャっと開けると、奥から誰かが急いで出てくる足音が聞こえた。


「お帰りなさいませ、浩邦さん」


 お母さんらしい人で、怯えた目で彼を見ている。

 そしてボクに気づくと、もっと怯えた目になった。


「い、いらっしゃいませ。く、浩邦さんのご友人ですか、ど、どうぞお入り下さい」


 自分の子供と、その友達に対してとは思えない異常な敬語……それも声を震わせながら中へすすめてくれた。

 返事もせずに岡村君が中に入る。


「お、おじゃまします」


 ここまで来るなんて予測していなかった。

 まいったな。呪符や護符なら何枚か持ってるけど、霊力を高めるアイテムなんかは、うちに置いたままにしている。


「コーヒーと紅茶、どちらがよろしいでしょうか」

 ビクビクしながらお母さんがボクに尋ねる。


「ボクのことは構いません。お気遣いなく」


 彼女を安心させるために笑って頭を下げた。


「い、いえそのような。ご無礼があったのでしたら謝ります。なんなりとおっしゃって下さい!」


 ボクの態度を見て逆にパニックになる。それほどまで普段は彼に対して気を遣っているのか。


「……やかましい」

 彼がぼそりと言うと、お母さんは顔面蒼白にしてゴクリと唾を飲み込んで黙った。


 その表情にさっきの沖原君を思い出す……おそらくアレを見たことがあるに違いない。



 岡村君の部屋は隅々までホコリが溜まり、机もなく、カーテンもなく、ガランとしていた。

 彼は、何もない人が暮らす気配が感じられない部屋の真ん中に座ったので、ボクも前に座る。


 何も話さないというより、何を話していいのか分からない。

 彼はなんの目的でここまで招き入れたんだろう。

 沖原君の様子からすると、あの負のエネルギーは離れたところからでも相手に危害を加えられるようだし。


「……キサマ、何者だ」

 目線は下を向いたままだけど、明らかにボクを見ながら岡村君じゃないモノが訊ねる。

 そうか、彼……というか、モノもボクに興味を持ったんだな。


「普通の人間じゃないってことは、お互い分かっているけど?」

「……クックック」


 低く押し殺すような声で笑い、ゆっくりした動作で置いてあったカバンから、無造作に何冊ものスクラップファイルを取り出してボクに突き出した。

 そこには新聞の切り抜き記事が何枚も貼り付けてある。

 共通しているのはすべて死亡記事だ。古いものはまだ小学生くらいのころからの物で、一番新しい物は有力議員の死亡記事だった。


 そして、小さなコラム記事扱いの沖原君の記事がその前に貼ってある。

 これは彼が死なせた人達の記事に間違いない。彼は……いや、彼に憑いているモノは小学生のころからこんなことをさせているのか。


 だけど、こんなものをボクにわざわざ見せるなんて。

 あ、そうか……彼はボクをコレクションの一つに加える気でいるんだ……でも、今襲われることはないだろう。

 ここでボクを殺して記事にはなっても、彼に疑いの目が向けられたり、警察に注目されるのは、望む形じゃないはずだ。


「ボクは世界を保護するために、自然界から創られた存在なんだ。

 その中でも大きな能力を持つ28人の1人……『す』と呼ばれてる」


 大雑把だけど、だいたいの意味は分かるはず。


「……《ツ》の者か」彼が小さくつぶやく。


《ツ》の者? 聞いたことがない。

 ボクら仲間の固有名詞なんてない。

『我々』『ボクら』『私たち』それぞれが好きなように勝手に呼んでいるのに。


「……帰っていい。楽しみにしている」


 ニタリ……と口の筋肉をムリヤリ押し上げたように笑った。

 それだけでも普通の人ならすごい恐怖を感じさせる笑いだった。


「なぜ沖原君を?」立ち上がって改めて尋ねてみる。


「……やつはいい心を持っている」

 そう言って、口の筋肉をますますねじ曲げた。


 そうか。沖原君は人の心を読む能力があった。

 ただ、せっかく読み取った相手の心を、自分自身の解釈でひねくって受け取るところがあったんだ。

 負のエネルギーの彼にとってそれは、波長の合う、いい心に感じられるんだろう。


 部屋を出てドアを閉める直前、あの笑いが聞こえる。


 その声はやけに耳に残った。


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