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祟りなんて(1)

 葬祭会館には大勢の人数が集まっているので、汗臭さと、タンスにしまいっぱなしの礼服に染み付いている防虫剤の匂いもプンプンしている。


 しょうがない。

 集まっている人たちも、この匂いや雰囲気は耐え難いようだし。


 気圧を操る「たつみ」の能力を使って、建物内部の空気の循環をよくすると、ずいぶんマシになる。


 スピーカーから流される読経の声や、セットの水車から耳障りな人工的な水の流れる音。母親らしい人の沖原君の名前を泣き叫ぶ声が響く。


 ボクらにも焼香する順番がまわってきた。


《速やかに清らかに……》仲間が不幸にも次元バランス修正途中に死ぬようなことがあった時に祈る言葉をつぶやく。

 もしボクがそうなったとしたら、仲間には同じことを言ってくれるよう頼んである。


 悲しいのは、死んだから悲しいのじゃなくて、本質そのものに還ってしまうため。

 そう簡単に会えなくなるし、もう会えなくなってしまうかも知れないから寂しくて悲しい。

 それがボクの死の考え方だ。

 だからこそ今生きているうちに、後悔しない生き方をしなければ……そう思っても、なかなか実践できないのが今のボクの現状だな。


 焼香を済せて顔を上げると、沖原君が立っていた。

 もちろん霊の姿として。


 だけど、その姿は尋常じゃない。

 学校の制服を着ているけど、体中ドロドロに崩れて腐った人間の腕がからみついてる。

 腕だけじゃない。

 怨みに満ちた眼光を爛々とさせた、人間とは思えない妖怪たちが、彼の体に噛みつき、引きちぎっている。


 沖原君は、葬儀に集まっている人たちに、必死で助けを求めているけど……ボク以外誰も気づくものはいない。


 気づいているボクでさえ、これほどまでになっている彼を助けることなんてできない……。


 それでも浄化の霊気を高め、彼に向けて送り込むといくつかのモノは弾かれたり、あわてて手を引っ込めてくれた。


 少しだけましになったためだろう、彼はボクに気づいた。


 つかまれている腕を振り払おうとしながら、必死に口をパクパクさせて何かを伝えようとしているけど、声が聞こえない。


 それでも、何か指している方を見ると……岡村君がいた。


 ボクが岡村君に気づいたことを察した沖原君がうなずいた時、彼は顔面蒼白になった。


 いや、違う。これは、岡村君と重なっている、昨日感じた負のエネルギーの塊だ。


 エネルギーは沖原君をじっと……目なんてないけど睨んでいる。


 そのとたん、沖原君の全身に腐ったり、ただれたり、焼け焦げたりしているグロテスクな腕や頭、顔、牙がからみついて、ブチブチ音をたてながらおぞましい場所へと引きずられて行った。



 するとその塊は、ゆっくり、今度はボクに視線を向ける。



 沖原君を睨んだ時より、もっと強い負のエネルギー。



 ボクでなかったら精神が崩壊して気が狂っているだろう。狂おしい怨嗟に満ちた視線だ。

 でも、あえて視線は無視する。こんなところでやり合うわけにはいかない。

 列に戻ると、岡村君も何もなかったように焼香を済ませた。



 そのまま斎場で解散となったので、気づかれていることを承知で岡村君の後をつけることにすると、彼はどこかに立ち寄ることもなく、駅に向かい電車に乗る。


 空いている席に座ると、いつもの格好で電車の揺れに体を預ける。


 その姿からはさっきのエネルギーは感じられない。例えるなら抜け殻のようだ。


 電車を降りて自宅に向かって歩いているんだろうけど、周りを見ることも、顔を上げることもしない。

 よくどこにもぶつからないな。


 やがてマンションに着いた。


 何階かだけでも知りたかったから、構わず後をつけると、エレベーターに乗り込んだ彼が、ボクに視線を向けて、ゆっくりと手招きする。


 さすがに迷うな。あんな狭い空間でやり合うことになったら……まあいいか。それならそれで。


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