ボクの秘密(4)
《どうでした? 『おさ』の答えは》
《それが、どうもよう分からん》
《分からない?》
『おさ』に限って、分からないなんて答えを出されるはずはないんだけど。
《いや、『おさ』のおっしゃるお言葉が分からないんじゃ……次元バランスのことには何も触れられず『目に見えぬ ことを求める 時来たり 己信じて 真実見つけよ』とおっしゃったんじゃ》
《どちらとも受け取れますね……『真実見つけよ』とおっしゃったのなら、次元バランス修正指示と解釈してもいいのでしょうか》
《そうともいえる。あたしも長くお仕えしておるが、『おさ』がこのように謎かけのように答えられたのは初めてのことじゃ》
《あるいはそれも含めて真実を解き明かせとのことでしょうか?》
《そうかも知れぬ。皓介よ心してかかるがよい。あたしも力になろう》
《おばあちゃん……『かいりん』様にそういってもらえれば百人力です》
この話題はそこで終わりにして、意思のまま雑談を続けた。
次の日の朝刊のトップに『心不全』の文字があった。一瞬沖原君のことかと思ったけど、そんなことあるはずないな。
うちは地方紙をとっているから内容も地方くさいものが多い。この記事もこの地方で有力な議員、中央にも多少意見が通じる人物が亡くなったことを報じていた。
ある献金疑惑でいろいろな噂が流れていて、この人を押さえることができれば中央の大臣クラスにまで火の粉が及ぶ鍵を握る人物と囁かれていた矢先のことだった。
急に失神したかと思うと、そのまま病院で死亡。薬物その他の外傷も一切認められず心不全と判断された。
詳しいことを省くとそういうことが書いてある。昨日聞かされた沖原君のパターンとほぼ一致しているじゃないか。
それにこの議員が倒れた場所って、ここからそう遠くないところだし。
岡村君のことが頭をよぎる。だめだ、なんの確証もないのに人を疑うのは。
でもあれほどの負のエネルギーだったら人間なんて簡単に殺すことができる。超強力な呪いの塊のようだったし、もし彼が霊力を持っているとすれば……。
『おさ』のおっしゃるように、真実を求めることになるかな? まあ、ボクの方から何もしなくても縁があることは必ず向こうからやって来る。
どんなに逃げても縁っていうのはどこまでもついて来ることだし。
「おはようございます田端先生。1つ聞きたいんですが、岡村君が以前に住んでいたところってどこなんですか?」
学校に着いて真っ先に職員室を尋ねた。
「おお、おはよう三の関。岡村がどうしたんだ」
「彼、無口で何も話してくれないので。ひょっとして方言を気にしているんじゃないかと思って」
「ああ、確か埼玉だったけど、その前は岩手県……いや、福島県だったかな」
「何度も転校してるんですか?」
「ああ、あまり詳しくはなかったが、両親から聞いた話ではそれらしいことをいっていた」
あまり当てにならないや。だけど、いくつも転校したことは間違いないな。
だったらどこかの地方で、うっかり封じられていた何かにでも感応したのかも知れない。
教室に入ると彼はもう来ていた。
他のクラスの者は、彼を遠巻きにして囁くように会話をしている。
「おはよう、岡村君」
通りがかりにさりげなく挨拶すると、かすかにまぶたが動いただけで反応はない。
本来ならその席には花瓶でも飾ってあるのが普通なんだろうけど、彼のおかげで何も置かれず、代わり教壇に花瓶が置いてある。
今日の教室の中は街を歩いていて少し気になる程度の霊はいるものの、昨日よりはずいぶんとマシになっている。
うちのクラスだけは午後から葬式に出席するために今日は午前中で終わるけど、その分の補習授業ってことを考えると気が滅入るな。
最近完成したばかりの葬祭会館。
五階建の大きなビル型式場までゾロゾロと徒歩で移動した。
式場には……わあ、いるいる。昨日の学校並みに集まっている。
どうせまたすぐに集まって来るだろうけど、先に一度浄化しておこう。
式場とその周囲に浄化の波長を送ると、集まっていたモノ達は、浄化されたり逃げだしたりする。とりあえずこれで足元の心配はしなくていい。
式場内に入るとムッと線香の強い匂いと一緒に焼香と、目一杯飾られた花々から漂う匂いが入り交る独特の匂いが鼻を刺激する。