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ボクの秘密(3)

 岡村君だった。

 彼はなぜか笑っている。そしてスウッと立ち上がって、沖原君の席に向かった。

 全員がぼう然と動きを見守る中、そのまま座る。


「……お、おい、岡村……そこは」

 言葉を詰まらせながら、先生が話しかける。


「……もういないんだろ」


 ボソッとつぶやく言葉に、みんなから悲鳴とも恐怖ともつかない声が漏れる。

 ボクでさえ何か恐ろしいものを感じた。


 その時、ユラ……っと、一瞬だけ岡村君に何かの気配が重なる。

 今の気配は……かなり悪いな。

 でも霊じゃない。妖怪でもない。

 初めて感じる感覚だ。


 いずれにしても、相当のマイナスエネルギーなのは間違いない。

 だけどとにかく今は気にしてもしょうがない。次元バランスを崩すものであれば『おさ』から指示が出るだろうし、それ以外の世界のことには関わるべきじゃないんだ。


 先生から昨日のいきさつが説明され、噂どおり沖原君は亡くなっていた。


 薬物反応はなく死因は心不全。ようするに原因不明ってこと。葬式は明日の2時から、近くの葬祭会館にて執り行われる。


 クラスメートが死んだという不安な雰囲気の上、岡村くんから流れ出る負のエネルギーによって、教室全体の空気がよどみ始めた。


 授業が始まってもその空気は変わることはなく、それに誘われてあちこちからいろいろな霊がどんどん集まって来ている。

 輪っかをカラカラと転がしながら床を走り回る妖怪。

 ズルズルと這いずる真黒な……考えたくもない霊。

 天井から緑色のスライムのようなモノがゆっくり垂れ下がってきて、その中にいくつもの顔が浮かんで消えて行く。

 斜め前の伊東さんの肩には半妖怪化した動物霊が乗っている。

 右端の斉藤君には、血まみれの女の人がおぶさっている。

 教室は霊で埋めつくされた。



 ふう。これじゃ授業に集中できないな。

 この教室を中心に学校が完全に霊的スポットになっている。


 そうだ、この状況で岡村君はどうしてるんだろう。

 好奇心がわいて、彼の方をそっと振り返ると……何もいない?

 彼の周りだけ。正確には彼とボクの周りにだけ、これだけ集まっている霊が近づいていない。


 ボクに近づかないのは分かる。

 世界から預かっている能力によって、粗悪な波長を持つ霊や妖怪とは感応しなくなるばかりか、近づこうとした場合、苦痛を感じるようになるから。

 ボクらが霊感と呼ばれる能力を失うのはそのためだ。

 とすると、岡村君はボクらの仲間なのかな? さっき感じた負のエネルギーからは考えられないけど。

 彼は下を向いたまま、教科書やノートさえ開こうとせず、ただじっとしていた。だけどこのまま放っておくと、みんなに悪い影響が出る。


 霊気を高めて浄化の霊気を学校中にいきわたらせると、吹き溜まりのように集まっていた霊は浄化されたり、必死になって逃げだしていく。


 薄暗かった教室に光が増して、現実に気温も上がって行く。

 だけど、これからが長い一日の始まりだった。途中で何度も何度も浄化を繰り返したけど、少し時間がたつとまた集まってくる霊に、さすがのボクもまいってしまった。


 授業がようやく終わり、最後にもう一度浄化して追い祓っておいたけど、また明日も同じことをするのかと思うと、気分が滅入る。


 こんなことではいけない。滅入ってしまっては、霊につけ込まれてしまう原因になる。

 ガンバって気合いを入れないと。


 明日の葬式も大変だろうな。

 そうだ、岡村君はボクの能力に気づいていたんだろうか?

 途中だとそんな余裕がなくて思いつきもしなかったボクは、改めて彼をさがしてみたけど、もう帰ってしまったのか、どこにも姿は見当たらなかった。




 家に帰って由旬おばあちゃんに今日のことを電話してみることにした。

 仲間どうしだから意思で伝えることはできるけど、ボクもおばあちゃんも必要以上は誰も余計な能力は使わないようにしている。呼び出し音が3回鳴ったところで女の人がでた。


「はい、緒環おだまきです」

 同居している息子夫婦の奥さんだ。


「もしもし、三の関ですが」

「あ、皓介こうすけくん。お義母さんね、待ってて」


 用件をいう前に明るい元気な返事とメロディが流れてきた。この人は少しあわてんぼうのところもあるけど、声の通り明るい元気な人だ。


「皓介か、昨日はご苦労じゃったな」

「おばあちゃん、実は今日……」


 学校であったこと、岡村君から感じた負のエネルギーのことを手短に伝える。


「『おさ』からは何も聞かされておらんが。

 なるほど、その岡村君という子は確かに気になるのう」

 電話口でおばあちゃんが考えている後ろから、孫の孝司くんと菜奈ちゃんの騒ぐ声が聞こえてくる。


「直接長にうかがうことにしよう。後で伝えるから、心を開いておいて待っておるがええ」

「分かりました。お願いします」


 電話を切って、ベッドに座って本を読んでいるところにおばあちゃんから意思が伝わって来た。


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