最後の偶然(1)
ペッキーに手を差し伸べる。
「……速やかに清らかに幽界を脱し霊界へと進んで下さい。
そしてそこが天の道に添う場所でありますように。
そうして、今度は、ボクと同じ次元にめぐり会えますように」
ボクの、ボクにとって操ることのできる最高の能力で周囲の気圧を一気に高めた。
小さな音と同時に、野球のボールくらいの塊がポトンと地面に落ちる。
とたんに周囲が静かになったけど……涙が止まらないのは、どうやら埃りだけじゃなく花粉も巻き上げてしまったらしい……。
「これに……ハナミズ出てるぞ」
とかきが封印しておくための袋とポケットティッシュを渡してくれて、黙って受け取って塊を入れた。
玉は……まだ少し温かい。
「いくぞ。ヒズミの結界は解けているし、俺達の行動も終わったから、世界が偶然を起こすのをやめる。もうすぐ人が集まって来るぜ」
「そうですね……」
……夜の道をとかきと駆けた。
左手には次元生命体だったモノが入った袋を持っている。
すぐにでも長に届けにいこう。
「あれ? おまえ能力強くなったんじゃねぇか?」
突然、とかきがボクを見ていった。
あ? 本当だ。
これまで感じたことのなかった能力がボクの中に沸き上がっている。
これは……これまでの倍近い、他のふたやと同じくらいの能力だ。
同時に、ボクが持っていた霊力が失われていくのを感じる。
「おまえが霊力を失わなかったのは、今日のためだったのかも知れねぇな」
……そうかも知れない。
ボクは今日のために……今日なんかのために、能力と引替えに霊力を保っていたのかも。
「これは、本当の持ち主にお返ししておいてください」
布に包んだ薙をとかきに差しだした。
「おう。さっきの玉がついたままみたいだったけど、いいのか?」
「いいんです。それが本来の姿ですから。それに霊力をなくしたボクが持っていても意味ありません」
「そうか……じゃあこのまま返しておくぜ」