ボクの秘密(1)
「あれ? みんなどうしたの?」
教室の様子がおかしい。
いつものにぎやかな様子はなく、暗く、ヒソヒソささやくようにざわめいてる。
「何かあったの?」
「あっ三の関くん。昨日休んでたから知らないんだ。
沖原のやつ、昨日授業中にいきなり失神して、救急車で運ばれたんだけど、ウワサだとそのまま死んじゃったとか」
近くにいた井口さんに尋ねると、思いもかけない答えが返ってきた。
沖原君が死んだ?
確かによくない霊が教室に集まっている。
何かあったのは間違いないけど、昨日は『次元の修正』をしていたから、何が起こったのか分からないな。
次元の修正……それはボクの2つの秘密のうちの1つだ。
世界、この自然、この次元は質量保存の法則に従って存在している。
宇宙のどこかで恒星が爆発しても、新しい生命が生まれても、物事の状態が変化しただけで世界そのものは変化しない。
つまり完全にバランスが保たれた状態を維持しているんだ。
このバランスが乱されることは滅多にないけれど、偶然か意図的に『異次元からの侵入』があった時に乱される。
異次元からの侵入とはこの次元にとって悪性の病原体、ウイルスのようなものに似ていて、病気と同じことが自然世界で起こるんだ。
そこで世界は、生物が免疫を持つように、免疫の役目をする存在を創りだした。
ボクはそのうちの1人。
大きな能力を与えられているはずの28人の中で『す』と呼ばれる役目を持っている。
正直言って“す”なんてカッコ悪いと思った。
でもこの呼び名は、はるか昔からある由緒正しい呼び方なんだそうで、仕方ないと思っているうちに慣れた。
与えられているはずって言うのは、ボクの能力が普通500倍近い能力を与えられている28人、『ふたや』と呼ばれている中でも最低の232倍しかないことだ。
それでも232倍ならいいんじゃないかって思うけど、やっぱり同じふたやとして、能力が弱いと仲間の足を引っ張るんじゃないかと心配になる。
ボクらの仲間の名前は特に決まってない。
『次元均衡者』と呼んでる人もいるけど、仲間の中で、ボクらと言えば通じるし不自由はしない。
というより、そんなの付けなくても無条件で仲間意識が強いっていうのが正しいかな。
たぶん世界から能力が与えられた者どうしはそうなるんだろうと思う。
言っておくけど、もちろん宗教なんかじゃない。教典も教義もないし、お金なんか1円もいらないんだ。
それと、ボクらは外見上見分けがつかないし、普通に社会生活を営んでいる。
遺伝じゃないから両親も知らないし、まだ仲間だって気づいてない人もたくさんいるんだと思う。
必要に迫られて創りだしたボクらに対して、バランス修正中や修正をすることができる者を失うことを極力避けるためなんだろう、自然は目いっぱい奇跡を起こしてくれる。
それこそ何千分の1、何億分の1の偶然が起こることもざらにある。
これまでの次元バランス修正はボクが意識するしないに関わらず、なんとかなってきた。
それはともかく、沖原君だ。
《速やかに清らかに幽界を脱し霊界へと進んで下さい。
できればそこが天の道に添う場所でありますように》
彼の席に向かって手を合わせ、心の中で唱える。
ボクが考えてる肉体の死は、本当の死じゃない。
魂、霊こそが生命の本体だって分かってるから、ボクは死を普通の人とは違う見方をしている。
ボクのもう1つの秘密。
それは、霊能力があることだ。
ボクは次元バランスの仲間の中でも、役割に目覚めると失われるはずの霊力が残った。
それどころか以前より格段に増したと感じている。
だけど、よく言われるようにお化けが見えるとか、お祓いができるとかとはちょっと違う。
そりゃあ、見えたり祓えたりはできるけど、普段は見えない、聞こえない、役に立てない、祓えないに徹している。
現実に生きているボクたちと、現実じゃない場所で生きるもの……俗に言えば幽霊なんかと接するのはバランスが悪いんだ。
ここが現実である以上、ここに生きているボクらが優先。はやく言えばナワバリだ。
勝手にナワバリを破ってやってきたものに遠慮する必要はない。
ただし現実を成り立たせてくれている存在、神様とその使者に対しては、畏れと敬意を持たないといけない。
そこを間違えると大変なことになる。