記憶(2)
小学校三年の時だった。
霊にはすっかり慣れて、道端で漂っているものにも気にしなくなっていたころ、河原に霊とは違うモノがいることに気がついた。
そばまで行くと、見たことのない変な生き物がいて、どうやらケガをしているらしい。
川の水を飲ませようとしたが、どこにも口が見当たらない。
しょうがなかったので、霊光治療することにした。
その日は充分治すことはできなかったが、何日もかけて治療を続けるうちに、だんだん回復して行った。
当時、皓介の住んでいたマンションではペットは禁止されていたので、連れて帰ることはできなかったが、ソレはそのまま河原に棲み付いた。
皓介はそれをペッキーと呼んだが、不思議なことに彼以外は見ることができなかった。
やがて、その生き物はコトバを憶え始めた。
皓介は夢中になってコトバを教え、話をするようになっていた。
一年が過ぎたころ、その生き物がだんだんと衰弱し始めた。
いくら霊光治療しても一向に良くなる気配がない。
そのころから近所でペットのネコやイヌがいなくなる事件が相次ぎ始めた。
「どうすればいいの? どうすれば治るの?」
「この、世界……いる、つらい。この世界……留まるは、この世界のモノ……融合しない、と」
「ゆうごう?」
「あるい、は……コースケの能力、で回復した……それ近、もの食べれ、ば」
「近いもの?」
結局分からないまま、その日は別れたものの、事件は次の日起こっていた。
小学生が3人、中学生1人が同時に行方不明になっていた。
ネコやイヌがいなくなる事件にからみ、子供にも注意を呼びかけていた中でのことで、小学生のうちの1人は皓介の友達だった。
学校側は、午前で授業を打ちきり、児童を保護者同伴で集団下校させ、家の外に出ないよう注意をうながした。
それでも皓介はペッキーのことが気になり、母親の目を盗んで河原に向かった。
そこには、昨日よりもふた周りは大きくなったペッキーが寝ころんでいた。
「ペッキーぐあいはどう?」
「少し、まし……なた。近いも、食べおかげ……でも、それでも完全には、治らな……いよ」
ペッキーが体を起こす。
しばらく皓介には理解できなかった。少し変だなと思っただけだった。
気づくまで1、2分かかった。
ペッキーの腹の中に蠢いているもの。
……行方不明の友達の顔の残骸がそこにあった。
よく見るとそれ以外に何人かの手足が見える。
「……な……んで。ど、どうして……」
「この、世界……かたちづくる、もの……それ、形つくる。コースケと、お、なじカタチもので我、かたちつくた、少し……まし」
半分消化された友達の口から、ボコボコと泡が溢れる。
あまりのことに、その場に座り込む。
思考力が低下し、逃げ出すことも忘れていた。
「でも……少し、まし、なただけ。コースケと、融合すれ……大丈夫、はず」
「ゆう……ごう……?」
「我、コースケと……一つ、なる……そうす、れば……もうからだ、維持する……楽」
ペッキーがゆっくり皓介に近づくと、友達だったモノの顔が彼の目の前に突き出される。
「う、うわああああああ……!」
叫び声を上げながら、飛び起きて家に向かって走りだした。
失禁していることにさえ気がついていない。
だが子供の足ではすぐに追い付かれ、追い詰められた。
「コースケ……なで? 逃げる……我、心配ないか?」
「くるな! くるな! くるな!……」
目を見開いて、両手が虚しく宙をさまよう。
「コースケ……」
「くるな! くるな! くるな! くるな! くるな! くるな! くるな! くるなあぁ!!」
その時に皓介は、無意識に能力を目覚めさせる。
『たつみ』の能力、ペッキーの頭部近くの気圧が一瞬にしてなくなり、流れ込む空気の圧力で頭を引きちぎった。
「コ、コオオォスケェェ……」