神力(2)
ボクの腕が渾身の力で、薙を地面に突き立てた。
うわあ!
こんなことしたら、玉が壊れる!
「ひと!」
ギィーーーーーン!
不可聴領域に達するもの凄い音が、空気を震動させながら響き渡る。
「ふた!」
ギィーーーーーン!
「み!」
ギィーーーーーン!
「よ!」
ギィーーーーーン!
「いつ!」
ギィーーーーーン!
「むゆ!」
ギィーーーーーン!
「なな!」
ギィーーーーーン!
「や!」
ギィーーーーーン!
「ここの!」
ギィーーーーーン!
「たり!」
ギィーーーーーン!
……天地の数歌がボクの口から発せられるごとに、薙を地面に突き立てていた。
そこから発せられる力……ボクごときなんかじゃとうてい及びもつかない、底なしの果てしない力……神力が発せられる。
ようやく薙が動きを止め、あわてて玉を見ると、キズ一つ付いていない。
そうだ、ヒズミは!
「グッグッグウウゥゥ……」
八握乃布留那岐の神力を受け、うめき声を上げながら空間に溶け出している。
負のエネルギーはほとんど感じられなくなっている。
もう心配はない。
それよりとかきを……彼はボクから少し離れたところに倒れていて、今度はボクが彼を回復させる。
「おう……あのバケモンどうなった?」
「もう大丈夫です。とかきがこれを持ってきてくれたおかげで助かりました」
二人ともかなり体力を消耗させたけど、ヒズミのいない今は心配ない。
「おうそうか。まったく……いきなりあんなとんでもねぇヤツ押しつけやがって」
ニヤッと笑いながら頭の後ろを掻いた。
「でも、どうしてとかきがこれを?」
これまでどこに行ったのかさえ知られていなかったものが、タイミングよく出て来るなんて……。
「かいりん様から頼まれたんだ……『す』が危険なことになるかも知れねぇってな。
それで俺も隠れて見ていようかと思っていたんが、途中で長から急いでこれ持っていって渡せって指示が出たんだ」
かいりん様がお忍びで頼んでくれていたなんて……それに長までも。
「そうですか、とかきが持っていたなんて……」
「いや、俺じゃねぇよ。古武術やってる友人の道場に奉られているご神体だ。
見せてもらったことはあったが、借りるのは大変だったんだぜ」
「……でしょうね、この価値を知っている人が見れば、そう簡単に貸せる物じゃないですからね」
「まぁ俺にはよく分かんねぇけどな」
親指を立てて笑うとかき。
「……で、あの倒れてるヤツ、誰だ?」
「え? あ! 岡村君」
うわあ、ヒズミを倒したことに夢中になって、すっかり忘れていた。
「岡村君、岡村君……」
気を送りながら呼びかける。
「う……うう……」
ぼんやりとしながら目を開く。
瞳には、もうあの怨嗟の光はなかった。
「ここは……」
不思議そうに尋ねる。
たぶん今までのことは憶えてないんだろうな。
ひょっとすると、この5年間まるごと憶えていないかも知れない。
「ボクが分かる?」
試しに訊いてみた。
「う、うん……なんとなく分かるよ。ボクは……ヒズミにとり憑かれていて……」
よかった。
少しは憶えているようだ。
「もうアイツはいないんだね?」
「そうだよ。もう浄化されたから安心して」
本当は浄化されてなんかいない。
今はただエネルギーのバランスが釣り合っただけなんだ。
今後、またバランスが崩れるようなことになったら、また現われるに違いない。
それがいつのことになるか分からないけど……。
岡村君の本当のお祓いはこれからだ。
彼の心の中にあるヒズミをとり憑かせた原因を探して、それそのものを彼に自覚させ、なくさないことには何度でも同じことの繰り返しになるだけだ。




