化け物(4)
「ツノものヨ、ニンゲンにシテは、ヨクやった。
シュウイをフウジテオイタのは、セイカイだったナ。
……このカラダでイルあいだワ、ノんびリこものをシマツして、セカイヲくるわせてイタガ、キサマのアトでは、ソレモきょうザメダ」
顔はなかったけど、ヒズミがニタリと嗤ったように思えた。
そうだったのか……ヒズミが結界を張っていたのか……初めからヤツの手の上でもがいていただけだったのか。
……しかもヤツに、やる気を出させてしまうなんて《ツ》の者失格だな……。
ヒズミはもう、ボクが手を出し尽くしたことを見抜いている。
……最後にもう一つあるけど、もう霊力を使い果たしているし、完全でもない道具であいつを倒せるとは思わない……でも、やるだけはやってみるか……。
ポケットから玉を取り出し、前に突きだす。
「ホウ。ヤツカノノタマか。かんぜんナモノナラともかく、ソレデはドウニモナルマイ……」
そんなこと分かってる。
「おん あぼきゃべえろ しゃのなかも……」
残った霊力と能力を玉に注ぎ込むと、ドクンと玉の鼓動が大きくなり、玉の輝きが増す。
まさか! たったこれだけの霊力で、もの凄い力が蓄えられていく。
ボクの力だけでなく、玉が自分の意思で吸い込むように、周囲からどんどん力を集めている。
これは……これは、さっきの不動明王の力よりもはるかに大きな力だ。
これなら!
集まった莫大な力をヒズミに向けて解き放つ!
……周囲が目も眩む光に溢れて……
「……ックックック」
絶望的な嗤い声が聞こえてた。
「ドウニモならないト、イッタハズだ」
ヒズミが防御の姿勢を解くと、吹き飛ばされた腕や体がザワザワ波立って再生していく。
だめだ。勝てない。
霊力も、気力も、尽きた……。
へたり込んで、やられるのを待つしかない。握り締めた玉からは、もう鼓動は感じられない。
速やかに、清らかに幽界を脱し、霊界へと進めますように。
できればそこが天の道に添う場所でありますように。
死んだものに出会った時、いつも言っている言葉を……自分でつぶやく。
「カンネンシタカ」
ヒズミが腕を上げる。
悔しいけど……相手が悪すぎた。
ゆっくりヒズミの気が伸びて来る。
あれに触れた瞬間、ボクは死ぬんだ。
肉体の死は本当の死じゃなくても、やっぱりイヤだな。
極限のあきらめか、頭は逆に冷静だった。
それとも魂の存在を実感しているからなのかも知れない。
……父さん、母さん、結旬おばあちゃん……みんな。
ヒズミの気が目の前まで来た。
「スコシは、タノシメタぞ……」
かすかに声が聞こえ、目の前がまっ白な輝きに満ちる。
死んだ直後ってこうなのかな?
やがて、周りの景色が見え始めた。
ああ、やっぱり。
亡くなった実のおばあちゃんに聞いた通りだ。
肉体から出たあとは、これまで通り、見たり聞いたりできるって。
あれ?
でも、ヒズミは全身からイソギンチャクの触手みたいなものを出して、苦しそうにグニグニと悶えている。
「大丈夫か『す』!」
誰だろう?
「間に合ってよかったぜ」
声の主がニヤッと笑って親指を立てた。