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化け物(3)


 今の二匹を飼っていた?

 それならこいつはどれほど化け物なんだ?


 どっちもなんとか倒せたけど、ボクが《ツ》の者だから勝てたようなもので、相当な霊能者でもまったく歯が立たない妖怪じゃないか。


「《ツ》のモノならバ、キイているダろう……ワガ名ハ……」

 言葉を止め、またニタリ……と嗤う。


「ヒズミ」



 ……ヒズミ?


 ……歪み……?


 …………!


 全身に鳥肌が出て、口の中が渇く。



 それは仲間の、《ツ》の者の間だけで知られている化け物の名前だ。


 むうの地には、歴史の保護の記録を綴った膨大な量の書物がある。

 誰かが書いている訳じゃなく、世界が自分から書き留めていくように増えて行くんだ。


 12年ごとに一冊ずつ、その数は100万冊とも200万冊ともいわれている。

 誰でも好きなように読むことができるけど実際に全て読んだ者はいない。


 その中でも有名な本があった。


 世界中のあらゆる魑魅魍魎をまとめて記録してある、通称『ヒズミの書』。


 名前の由来は、千何百種も記録してある化け物の中で、最後に出てくる最も恐ろしいと記された化け物。


 世界を形作る根本、火と水を逆さにした名前で、その名の通り世界を歪ませる化け物。



 ドサリ……と岡村君だったモノが倒れた。



 そこにはもう一つのモノが立っている。


 書にあった通りの姿……ムリヤリ人の形を当てはめた、直立したウジのような、タコのようなモノ。


 耳障りなブーンという音と、さっきとは比べものにならない悪臭が立ちこめる。


 強い吐き気を押さえながら、いくら風を吹かせても悪臭はおさまらない。


 もの凄い負のエネルギーが空気の温度を下げ、周囲からの光も激減して闇が強まる。


 これまで感じていた負のエネルギーなんて、まるで子供ダマシだった。



 ヒズミから強い気が手元に伸びて、あわてて手を引いたけど、かすめただけで独呼と壷が粉々に砕け、壷に入っていたテイライは、あっさり消滅した。



 もっと早く気がつくべきだった。


 教室で……葬式で雑霊が彼に近づかなかった理由。


 むうの地では四神様や長に近づけないのと同じだ。



 畏れて近づくことができないんだ。


ヒズミの正体


 歯の根が合わず、足が震えて動けない。


 無謀、だった。


 それでも気力を振り絞って投げつけた護符は、ヒズミに届く前に消滅する。


 それでも金剛合掌印を組む。


「おん ばさら まちいじんば……」


 八つの手印と八つの真言……不動明王に従う八代童子の力を得られる呪法。


 真言を唱えているあいだ、ヒズミは動かずに待っている。

 ムダなあがき……と言いたそうに楽しんでいるように見える。


 力が沸き起こる。

 刀印を結び、力をヒズミに打ち込む。


 雷のような霊波が、周囲を照らしながら直撃した!


 でも、その力はあっさり跳ね返され、駐車してある車を十数台巻き込んで四方に散る。


 燃え上がった車のおかげで少しは明かるさと暖かさが戻り、おかげで少し気力がわいてきた。


 車は弁償できないけど、持ち主の人、ごめんなさい!


 よし!


 だったら三股印を結び軍茶利明王の小呪から、続けて普賢三昧耶印で火界呪を唱え……。


「のうまくさらば たたきゃてい びやく……」

 ヒズミは相変わらず待っている。


 金剛炎の印を組み真言を唱えて、ボクの最大の力!


 一切の魔、一切の煩悩を焼き尽くすといわれる不動明王自身の力を得られる呪法を使う。


 ヘタするとボク自身が焼け死ぬかも知れないけど、これ以外方法はないし、他の術で霊力を無駄使いしたくもない!


 不動明王の力が洪水のように湧き上がり、全身が火のように熱くなる。


 堪えられなくなる限界まで力を溜め、一挙にヒズミに向けて解き放った。


 圧倒的な劫火がヒズミに襲いかかる。


 ヒズミに当たらなかった炎は、葬祭会館の2階部分を一瞬で消し去ったけど、幸い人家にまでは届かない。


 ……それにしても、これだけ派手にやっているのに、誰一人と騒ぐどころか、見にくる様子さえないなんて……。



「……ックックック」


 炭化したヒズミから聞こえた声に、全身からあぶら汗がにじんだ。


 体の表面の焦げた部分を払い落としただけで、何事もなかったかのようにヒズミは再生している。


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