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化け物(2)


 ムッとするような異臭が漂う。


 目の前が真っ暗になって、ヤツの姿も消えた。


 テイライ……ホウエン?

 どこだ!?


 二匹のバケモノと呼ばれたモノの気配は正面から感じる。

 だけどその姿は……。


 顔を上げると、バケモノの目があった。

 見下ろされている。

 真っ暗に見えたのは、そいつの体で視界を覆われていたからだった。


 反射的に、離れようと後ろに向かって地面を蹴った瞬間、巨大な手がつま先をかすめてアスファルトを大きく抉った。


 明日は大騒ぎになるだろうな。


 距離を置いて見るそいつは、まさにバケモノと呼ぶにふさわしい。


 元々の原形は留めてないけど、少なくとも千年は齢を経ている妖怪だ。


 まむしならみずちから龍に成長するくらいの年月を固執し続けたモノ。


 でも物質化してくれたのはありがたい。

 これなら物理的な攻撃が有効だ。


 『たつみ』の能力で巨大なカマイタチを作って隙を与えないくらい連続してぶつける!


 ブシュブシュと音をたてながら、ホウエンは全身からイヤなモノを吹き出して崩れ落ち、さっきの何倍もの悪臭があたりに漂う。


 たまらず強風を吹かせて匂いを追いやったけど、風下の人、ごめんなさい!


 もう一匹は?



 それは正面に漂っていた。


 モワモワと濃淡がついた霞のようなもの。

 ヤツから感じるものとは違う、もの凄い悪想念の塊。


 時々苦しそうな顔が現われては消える。



「……ックックック……ホウエんハたおせテモ、テイライはどうカな」


 霞の中に竜巻をおこしたけど、そいつはグルグルと回転に連れて回るだけでなんの効果もない。

 本当に雲をつかんでいるようだ。


 テイライがじわじわ迫ってくる。


「あぼきゃべえろ しゃのなかも……」


 気を込めて真言を唱えて九字の印を結ぶ。


「臨、兵、闘、者……」


 ポケットから独鈷を取り出し九字を切り……。


「おん きりきり ばさら……」


 金剛四方印を結んで、金剛地結界契印法……思いっきり途中の動作を省いての結界。

 軽々しくやるべきじゃないのは分かっているけど、今はいってられない。


 体中にまとわりつかれると、霞のようなのに粘り気がある。

 急場しのぎの結界じゃとても守り切れない。


「おん となとな またまた……」


 馬頭印を結び、自分自身に護身結界大秘法をかけて抵抗する。

 これまで、どんな急場しのぎで結んでも、これが破られたことはないんだ。


 でもテイライは針の穴を通すように、ジワジワ浸入してくる。

 ちょっとでも触れるとその部分は急激に体温を下げられてしまう。

 マズイ、世界からの波長を浴びせても、離れようとしない。


 こいつはいったい、どれだけの人間の悪念が寄り集まってできたものなんだろうか。


 百人、千人どころじゃない。



……オラがやったんじゃねえ

……それを持って行かれちゃ飢え死にスルしかねえ


……税ヲ払え


……お慈悲を! お慈悲を!


……どうしテわたしがこんなこトニ


……てめえヘタ打ったなぁ


……あいつのせいだ、俺は悪くなイ


……本当はこんナことやりタクなかった


……訴えてやル


……金だカネダかねだ


……おれの後ろにはヤクザがついてル


……クルシイクルシイクルシイ


……シニタクナイ


……コロシテヤル


……タスケテタスケテタスケテタスケ


 何十年何百年に渡る痛み、苦しみ、悲しみ、怨み、エゴ、欲望、嫉妬、狂気の記憶が一気になだれ込んでくる。


 妄執に取り込まれそうになるのを防ぎながら、手製の護符を取り出す。


 普通は身に付けているだけでもたいていの魔物は近づけなくなるんだけど……。


「おん!」


 護符を破裂させながら燃え上がらせ、熱と光のエネルギーをテイライに浴びせる。


 これならかなり効くはずだ。


「ギイィ!」

 わずかにたじろいだところにもう一度……離れた。


「びさふら なつらとみ いあさむなとき……」

 内縛印から魔性封心法を唱え、壷を指す。


「ギョアアァ……」

 悲鳴ともなんともつかない声を残して、テイライが吸い込まれていく。


 なんとか、助かった。



「……ックックック……そうでナケレば、オモしろクナイ」


 ソレがゆっくりと顔を上げた。


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