まつりの意味(3)
うちに帰って、まっ先に仏壇にお参りした。
ひょっとすると明日から仲間入りすることになるかも知れない。
その時はよろしくお願いします。
……仏壇のある部屋の押入れから《ツ》の者として自覚する前に集まっていた道具を納めてあるダンボールを引っ張り出す。
ボクに霊能力。不思議な力があることに最初に気づいたのはお父さんだった。
もともと父方には神社に仕える親戚もいて、『あっち側』の話はネタに困らないほどあるそうで、人に見えないものが見えたり、聞こえない声が聞こえるくらいのことは日常茶飯事らしい。
ボクがその血筋をひいていると分ったお父さんは「少しめんどくさいが、慣れれば大したことはない。
まあ、手に負えない時は相談しろ」と笑ってすませた。
その後、ボクの周りには色々ないわくつきのものが集まり始めた。
偶然、道ばたに置いてあったり。
偶然、近所の人が持ってきたり。
偶然、人づてに預かったり。
偶然、偶然、偶然……。
今でこそ偶然はあり得ず、あるべきものは、あるべき所に引き寄せられるというのを理解しているけれど、あの当時はぞくぞくと集まるものをどうしていいのやら困ったものだった。
そしてそれらは「偶然」お祓いや安置してくれる場所が見つかったり、いつの間にか縁起の良い日になくなったりして数を減らしていった。
この箱の中のものは、それでもうちに居座り続けていたいわくつきのものたちだ。
……まさか、これを必要とすることになるなんて。
一つ一つ大事にしまっていたものをひも解いていく。
誰が使っていたかは分からないけど、いまだ確かに強い法力を宿す独鈷。
鬼……つまり古代中国でいう霊魂を封じ込めるとされ、ボクが手に入れた時も実際に一体入っていた小さな鉄製の壷……害はなかったからその場で浄化させて今は空になってるもの。
出どころは不明だけど間違いなく山の民の手甲。
それ以外にもたくさんあるけど、あの負のエネルギーに対向できる物は少ない。
中でもボクにとって最後の切り札ともいえるのが……これだ。
少し紫がかった水晶に似た玉。
お父さんと行った古道具市で、他の水晶玉と一緒に無造作に並べられていたのは信じられなかった。
ボクにせがまれたお父さんが、売っていた人になにげなく尋ねると、没落した旧家の財産の中で、値打ちの物を処分した後の売れ残り品だと教えてくれた。
なんでもない顔をしてそれを買ってもらった時は、心臓が早鐘のように波打っていたのを今でも思いだす。
ケースの中でも特に大事にしまってあるもの……。
八握乃布留那岐の玉。
この地方に伝えられる神話の中に今でもその名前は残っているはずだけど、もうどれだけの人が憶えているかは分からない。
矩懼拉という大男が魔物を鎮める話で、たぶん、かつての《ツ》の者の行動を神話の形で残したのだと思う。
直径3センチにも満たない玉からは、今でも鼓動のような波長が伝わる。
正統継承者じゃないから完全には力を引き出すことはできないけど、それでも相当の力を宿している。
これに薙があれば本来の力を引き出せるんだけど、それはどこに行ってしまったのか、ウワサすら聞いたことはない。
大切に玉を布に包んでポケットにしまう。
夜になるまではまだかなり早いし、両親も仕事から帰って来るまでしばらく時間があるけど、うちを出ることにする。
心残りになることを残しておくために……きっと戻って来られるように、ボクはジンクスとしていつも書き置きもしないでおく。
今夜……といっても彼は時間を指定しなかった。
まあ気にしない。
たぶん時間を潰している間に、ふと行く気になった時がその時だろう。