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イベント・春

今日のおやつはなんだろう?

作者: 雪陽炎
掲載日:2026/04/30




「今日の夜勤はトラブルあったから疲れたな」

 父親はそう言うと家の前でネクタイを緩める。

「電話番で昼までいたは久しぶりだ。さて――」

「おとーさんおかえりなさーい」

 軽く伸びをしていた父親に玄関の扉が開く。

「ああただいま。帰ってきてたんだね」

「うん。少し前に。お父さんお疲れ?」

「大丈夫だよありがとう。そうかもうこんな時間か」

 小学校に上がったばかりの子の頭を父親はなでる。

「待ってろ。すぐにおやつ作るからな」

 父親はそう言うと軽く一息きキッチンに向かった。


     ☆     ☆    ☆


「社会で働くって大変なのね。お母さんも寝てるし」

「大丈夫かなお父さん。帰ってきたばかりだし」

「心配してるのはお父さん?それともおやつ?」

「両方。父さん寝ぼけると変なのになるし」

「変というか面白いというか……」

「おいしいのがたべたい」

 ダイニングと廊下をつなぐ柱から出る頭が3つ。

 それぞれの視線は料理中の父親に向いていた。

 

「なに作るのかな?」

「ベランダからイチゴ採取してたよ」

 長女の問いに長男が答える。

「イチゴってこないだナメクジいて薬()いたやつ」

 少し震えた声で長女が話す。


「夜に水やるとわくんだって。朝にやればーー」

「待って。誰がイチゴに水やってるの?」

「当番制だったのに母さんの仕事になってるよね」

 最初みんなで朝に水を撒くと決めていたはず。

「だって朝忙しいし」

「寝てたいし」

「イチゴたべる!おうちのイチゴ!」

 理由をつぶやく長女と長男の目は泳いでいた。


「イチゴだけかな?父さん買い物行ってたよね」

「んとねかいもののときとうにゅうかってた」

 雰囲気を変えたい長男の言葉に末っ子が答える。

「豆乳ってどんなの?」

「とうふもできるって。あとシュガーペースト」

 末っ子の言葉で長女は推理する。

 

「豆乳のイチゴケーキでも作るのかな?」

「スポンジ作ってすぐ焼くの?」

「なんか問題あるの?」

「一晩寝かせるって習ったわ。切りやすくなるの」

「おねえちゃんものしりー」

 長女の言葉に末っ子が反応する。

 それを見た長男も話を続けていく。


「豆乳1パック使うとイソフラボン取りすぎかな」

「そうなの?家庭科でやったの?」

「ん?社会。大豆の輸入の話から先生の雑談で」

 長女の質問に長男が答える。

 その二人を末っ子はキラキラした目で見ていた。

「しょうがっこうってどんなざつだんするのー?」

 末っ子が興味津々な様子で長女と長男に聞く。

 

「そうねー最近だとねー」

「僕の授業だとねー」

 父親のおやつの推理に飽きたのだろう。

 末っ子の質問皮切りに長女と長男は話題を変える。

 小学校という社会で学びを末っ子に伝え始めた。


     ☆     ☆    ★


「氷水で冷やして冷蔵庫で2時間……よし完成!」

「今日はなに作ったの?」

「イチゴ葛豆腐(くずどうふ)と八重桜の花細工さ」

 正方形に切り出されたピンク色の豆腐に桜が咲く。

「和モダンな感じのおやつね……」

「ピンクいろのおとーふとさくらのはにゃ!」

 興奮した様子で末っ子がさけぶ。

 その声でペットのハムスターがゲージで走りだす。

 

「豆乳のイチゴムースとかかなって思ってた」

「春を和菓子とか和スイーツで再現してみたよ」

 驚いた顔の長女に父親は優しく伝える。

「前に遊んだレトロゲームにあった気が……」

 長男が不思議そうにピンク色の葛豆腐を見つめた。


「イチゴ豆腐かな?あれをアレンジした葛豆腐さ」

「葛っておじいちゃんが送ってきた加工葛?」

「そうだよ。葛の根から澱粉(でんぷん)だけを取り出して」

 父親は人数分の葛豆腐とヒマワリの種を手に取る。

「じゃがいもやさつまいもをまぜたものだよね」

「そう。ところで奈良県の場所はわかるかい?」

「え?えーと……」

「近畿地方よねたしか。京都の隣?」

 戸惑う長男に代わり長女が答える。

「惜しい。京都の南で三重の西だよ」

「えーっと、京都の隣が滋賀と兵庫で……」

「京都を基準にしてもいいし大阪や和歌山もいいよ」

 父親は優しい目して覚え方のヒントを出す。

「社会の勉強しっかりね」


     ☆     ★    ★


「おかえりなさい。おいしかったわよイチゴ屑豆腐」

 父親が洗い物をしていると母親が声をかけてきた。

「ただいま。ありがとう作ったかいがあったよ」

「いろんな花言葉使ってたわね」

「ああ。あの子たちのためにね」

 リビングで眠っている三人を父親は見る。

「『必ず来る幸せ』が大豆の花言葉でしょ?」

「イチゴは『私はあなたを喜ばせる』だね」

「『幸福な家庭』もあるわね」

「八重桜は『豊かな教養』で」

「葛の『努力』にジャガイモの『情け深い』よね」

 夫婦は交互に花言葉を口にしあう。

「それとサツマイモは『幸運』だね」

 母親はにこやかな表情で笑みを返して歩く。


     ★     ★    ★


「あの子たちが社会に出たときのために?」

 そして父親の隣で足を止めまた笑みを浮かべる。

「そう」

 短く父親は答えた。

「わかるわ。どれも大切だもの」

「うんわかってる。花を花言葉だけで見るのもね」

視野狭窄(しやきょうさく)よね」

「花はどれもきれいだからね」

「ええ、そうね。桜梅桃李よね」

 

 母親は父親にそう返し一緒に洗いものを始めた。


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― 新着の感想 ―
なるほど、手作りスイーツが何になるかの推理ですか。 これはとっても微笑ましくてハートフルな推理ジャンルですね。 余談ですが私は、豆乳とイチゴを使う事から台湾スイーツの豆花を連想致しました。
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