フェアリーの木
記憶喪失になったのに城内で迷わなかったので、とても記憶力がいいのだと周りに思われていた。
でも実は違う。病院に当てはめて覚えていただけである。
大きな病院は時に地図を渡され、それを見ながら行くほど複雑なもの。だが、働いている職員は当然場所を把握しているので地図などいらない。
例えば、アーシュの部屋はレントゲン室、使用人部屋は検査室、亡くなった王様たちが使っていた部屋は手術室など。
そして私の部屋は!
病院の中で一番大きなトイレの場所だった。
いいんだ。いいんだ。よくそこのトイレ使ってたし。
ちょっとショックだけど。
今日も私はトイレへ戻って行く。
「さあ、まずは何から始めよう」
一人になったので色々考えてみることにした。
最初の目標はあの病舎と呼ばれる所に行くことだ。
だいたい何なんだ「病舎」って。
牛舎とかと同じ扱いってことか?
名前からしても大切には扱われてなさそうだし、中の環境が心配だ。
……手袋とか防護服欲しいな。使い捨てのやつ。
病院で一回一回捨てていたのに。あんなに簡単に手に入ったのが信じられない。
何の感染症が流行ってるんだろう。
感染症病棟にいた時は二類感染症の患者までは扱ったことがある。
時代が時代だからな……一類もあり得るかも。
空気感染対策をすれば大丈夫だろうか。
「何うんうん唸ってんの?」
この可愛らしい声は……!
「ルナ!!」
わー!やっぱりいつ見ても可愛い!たまらんこのサイズ感!
私の顔の前をフワフワ飛んでいる。
「最近何してたの?会いたかったのにー!」
「べ、別に遊んでたわけじゃないからね!」
会いたかったって言われてちょっと照れているのがわかる。かわいいやつめ。
「この間、力を使い過ぎてたからフェアリーの木に魔力を補給に行ってたの。」
「そっか……私のせいで……ごめんね」
「いや別にメアリーのせいとは思ってないし!あたしの魔力が弱いだけだから!」
ツンデレも可愛いなあ……魔力か……
「ねえ!ルナって怪我だけじゃなく病気も治せたりしない!?」
「え?出来るわよ」
「え!?本当!?治してもらいたい人たちがいるんだけど!!」
「あーー無理無理。主しか治せないから」
「私のこと?私しか無理ってこと?」
ルナが詳しく説明してくれた。
フェアリーは、森の中にあるフェアリーの木に実る卵から産まれる。それはいつ産まれるかわかっておらず、毎年だったり数年に一回だったり予測不能。
卵だけ実っても中が空っぽのこともある。
産まれたフェアリーは主になる者を探す。その相手は、赤子であったり老人であったりと様々だそうだ。
そして主の病や怪我を治して共に生きていく。
主が死んだ時にフェアリーも死に、また卵となって木に実るらしい。
「でも全部治せるわけでもないのよ。
生命に関わる位の重症だったら、苦痛を和らげることは出来ても治すのは難しいと思う。」
「そうなんだ……」
「フェアリーの卵って不思議な力が宿ってるって言われてて、剣とか盾とかにも使えるし、食べたら寿命が延びるとも言われてるの。
だから、盗賊とか他の国の奴が奪いに来たりもするんだ」
その時、ドンドンとドアを叩く音とアーシュの声がした。
「メアリー!!そこにルナはいるか!?」
戸を開けると呼吸が乱れ慌てているアーシュ。
「ルナ!!フェアリーの木が襲われてる!!
木まで案内してくれ!!俺達だけじゃこの霧ではたどり着けない!!」
思わず声を上げる。
「私も行く!!!」
「ダメだお前は!足手まといにしかならん!!」
ひっど。言い方言い方。
あれ?ルナ?
ルナは動こうとしない。
「ルナ!!早く!!火もつけられてるらしいから急ぐぞ!!」
「……やだ。行かなくていい」
「なんで?ルナの大切なフェアリーの木でしょ?」
「あれがあるから争いが起きるんだもん。
無くなればいい。フェアリーが産まれくなっても、別に人間に影響はないよ」
「ダメだよ……だって……」
「お母さんでしょ!?」
「母ちゃんだろ!!」
思わずアーシュと声が合う。
「ルナはあの木から産まれて来たんだよね?
じゃあ、あの木がお母さんでしょ?」
「母ちゃん助けに行こう」
アーシュが手を差し出すと、ルナは指にしっかり捕まった。涙を我慢しながら頷いている。
「行ってくる」
「気を付けて!」
手を振り騎士団を見送る。
変なとこでアーシュと合うんだよな〜
さすが双子。通じ合う所があるんだろうな。
騎士団が到着した時、盗賊たちが実を切り離している途中だった。全員を即座に捕らえ、木の消火活動を急ぐ。騎士団の水属性者が手から水を出し火を次々と消していく。
全て終わった時、木は二割ほど燃え、卵は割れて散らばっていた。
呆然と辺りを見るアーシュとルナ。
ルナが木の上の方を指差した。
「あそこ!!」
そこには小さな卵がぶら下がっている。
「小さすぎて盗賊たちは気づかなかったんだね」
ホッとした様子のルナ。
「この一つを大切に守って行こうな」




