子供の村
「俺たちは親に、大人に捨てられたんだ。
大人は捨てる時に罪悪感を抱くのか?
それがあるなら捨てないだろ?
なら俺たちもそんなもの感じる必要ないだろ。
ただ、やられたことを返してるだけだ。
本人に返せないから他の奴に」
少年は一息ついてまた話し出す。
「ここでは男は殺す。女は売る。それしかない。」
「お金や金品を奪うだけならわざわざ殺さなくていいんじゃ……」
「ダメだ!!」
少年の眼光が鋭くなり、私の目を突き刺すように見てくる。
「金品だけ奪って殺さなかった時、誰にも言わないって言ってたのに、大勢の仲間を連れてきて殺したり奴隷にするために連れて行ったり、女の子は売りに出されたりした。大人は嘘をつく。信用出来ない。
殺す方が安全だ」
過去に酷い経験をしたからこそ今のやり方という事か。
「どうにかしてあげられないのかな」
思わず言葉がこぼれる。
アーシュが静かに応える。
「今すぐは無理だな」
「そんな簡単に……」
「考えてもみろよ、今の俺たちに何が出来るって言うんだよ。この子供たちは子供たちで生活してるんだろ。
ここで盗賊を倒したらこの子供たちは食べ物に困ることになる、だからってここまで食料運ぶのか?」
「それは出来ないけど……」
アーシュの言うことが最もだが、何か助けることは出来ないのだろうか……
「もう行こう。今ここにいても意味がない。
気持ちはわかるけど、目に映るもの全てを救っていくなんて無理なんだよ」
「これからどこに行くの?」
少年と目が合う。
あの手紙を出し地図を見せて説明する。
「ここなんだけど、どんな国かわからなくて……」
少年が目を輝かせて私を見てきた。
「ここ! ここにもうすぐ俺たち全員行くようになってる!」
「え!? 全員?」
「うん! なぜだかわからないけど、この国の人がやって来て、俺たちに食べ物や住む所を用意するって言ってきたんだ。
雪が降る時期になると必ず死ぬ子どもが出てくるからその前に」
「そうなの!? じゃあこの生活を続けなくていいってこと?」
「うん。俺たちも好きでこんなことやってるわけじゃないし。生きていく方法がこれしかないだけで」
「そっか。そうだよね……」
「いい国なんですね、そんなことしてくれるなんて」
小屋の方を見たままミアが呟いた。
トニーが背を向けたまま口を開く。
「そうとも言えんさ。何が目的かわからない以上、言われたことが嘘で売られるかもしれないし、奴隷として扱われるかもしれない」
少年が不安な表情を浮かべトニーの背に目を向けた。
「そんなこと言わな……」
私が全て言う前にアーシュが話し出す。
「トニーは脅したいわけじゃないよ、
そういう可能性もあるから最悪の事態も考えて対策をとらないといけないってこと。
何も準備せずそうなったら逃げることすら出来ないだろ」
トニーは体勢を変えず何も言わない。
アーシュが続ける。
「もしそこが危ないところだったら、俺たちの国に連れて帰るという手もある」
「え!? そんなこと出来るの!?」
「出来ないこともない。でも準備は必要だろうね。
施設みたいにするのか、里子のようにして家庭に託すのか。
何の準備もせず無責任に連れて帰ったりは出来ないから。
これだけの人数連れて帰るとなると馬車や荷台も準備しないといけないし……」
ミアが少年に目を落とす。
「あなたは親を恨んでるでしょうけど、
殺さずここに連れてきたということに意味があると思いますよ。
それに奴隷として売ることも出来ただろうに、そうせずここに置いていったんでしょう?
ここで生きて欲しいという想いがなかったとは思えない」
「ここに連れて来られた子はお前たちで育ててたんだよな?
それならここに育てる人間がいなくなれば、捨てる親も減るかもしれないな」
アーシュが自分に言い聞かせるような言い方をしていた。
少年は私たちの会話を聞き落とすことがないよう一生懸命に耳を傾けている。
そんな少年に声をかけた。
「私たちは行かなければならない所があるから一旦この村を去るけど、帰りにまた寄るから。
その時に食料を渡せたらいいんだけど。
どんな国かわからないから約束は難しいかも……」
少年の目に敵意はないが、不安な表情を浮かべている。
「馬車の中に、何かあった時のために金品を持って来てるからそれを可能な範囲で置いていくね。
盗賊が来たらそれを渡して食料をもらったらいいよ」
少年に目線を合わせる。
「やっぱり大人は信用出来ない?」
目線を逸らされるが話し出す。
「いや、なんかあんたたちは違う感じがする。
信用出来そうな気がする。
さっき教えてもらったとおり、あの国の奴が迎えに来た時もバレないように武器を隠し持っていようと思う。仲間たちにもそうさせる」
「そうだな。何もないに越したことはないけど」
トニーが頷く。
この先の村や街でお金が使えなかった場合、お金の代わりに使うだろう分だけ残し、金品を少年に渡す。
馬車に乗る際に少年と向き合う。
「俺はリオール。また会えると信じてる。
いろいろありがとう」
少年がはにかみながら傷だらけの手を差し出した。
その手には青いミサンガが付けられている。
「綺麗な色のミサンガね」
「捨てられた時、これだけ持ってたんだって」
と恥ずかしそうに笑う。
笑えば普通の子供に見えるのに。
両手で握り返す。
「私はメアリー。あなたたちをここから救い出したい」
手を引っ張り抱き締める。
「ごめんね。すぐに助けてあげられなくて。
でも絶対に戻ってくるからね」
少年の肩が震えているのを感じる。
胸で「ありがとう」と声が聞こえ、胸が苦しくなる。
必ずこの子たちを助けよう。
新しい目標が出来た。
そのためにも無事に帰ってこないと。




