遭遇
帰国し数週間すると、すっかりいつもの生活に戻っていた。
今日はいつも行く街ではなく遠出をすることになった。トニーやアーシュも一緒に買い物に行ってくれることになり、ますますテンションが上がる。
国の端の方にあるこの街には来たことがなかったので、どんな物が売られているかワクワクが止まらない。
市場に着き品物に驚いた。
「ミア!見て!こんな果物見たことない!」
「本当ですね!お店の方にどんな風に食べたら美味しいか聞いてみましょう!」
ミアも楽しんでいる様子。
アクセサリーも王都とは違う物が売られている。
色の付いた石のネックレスがあった。
「透明の石のアクセサリーしかないと思ってたのに……」
ミアが店主に質問した。
「どうやってこの石を手に入れたのですか?
王都近くの街では見たことがありませんでした」
高齢の優しそうな店主。
「おや、わざわざ王都からここまで来たのかい?
そりゃ珍しいだろうな〜王都では出回ってないからな。
ここらへんでは色の付いた石の方が多いんだよ、他の国の連中が売りに来るから」
ミアがすごく興味を持っていたので、ミアには黄色、ルナにピンクの石を買うことにした。石さえ買えば後はどこかでアクセサリーにしてもらう事が出来る。
果物屋を見つけたので、みんなに外で休憩してもらうことにして私だけ中へ入った。
トニーとアーシュは木陰に腰を下ろした。
「良かったな、思い切って遠出して」
トニーが水を飲みながら話し掛ける。
「うん、喜んでくれて良かった。意外とミアも楽しんでるしね」
アーシュがミアに目をやる。
「はい、こんな素敵な街があったなんて知りませんでした」
嬉しそうに立ったまま黄色の石を眺めている。
と、その時ミアが石を落とした。
アーシュが拾い上げミアに渡そうと顔を上げる。
「うそ……」
口に手をあててつぶやいている。
ミアは少し離れた場所を見ているようだ。
「ミア?」
アーシュがミアの視線の先に目をやると、
そこにはフランの姿が。
モネと一緒に仲良さそうに笑顔で花を見ている。
恋人のような結婚したての夫婦のような雰囲気。
モネの籠には果物が入っており買い物をしていたことがひと目でわかった。
アーシュがハッとしてトニーを見た時、もうすでにフランの方へ走り出していた。
トニーが近づいている事に気づいたフランは手を止めこちらを見ている。
逃げる素振りはない。
トニーはフランの頬を思いっきり殴る。
フランは地べたにザザッと倒れ込んだ。
モネがフランに駆け寄ったが、
「お前は先に帰れ」とフランが言ったためすぐに姿が見えなくなった。
「お前何やってんだよ!!」
トニーの怒りを帯びた大声が響く。
フランはゆっくり起き上がる。
「俺がそばにいるとメアリーに危険が及ぶんだよ!!
それくらいわかれよ……」
「だからって他の女と……!
メアリーがどれだけ傷ついたかわからないのか!?」
フランは溜め息をつきながら片足を立て冷たい目でトニーを睨み上げる。
「何? 俺がメアリー抱いたから嫉妬してんの?」
トニーがカッとなりもう一度フランを殴ろうと構えた時、背後からドサッと音がした。
メアリーが呆然と立っており、買ったばかりの果物を落としている。足元にコロコロと転がっているが拾う様子もない。
――――――
フランだ……
あれから思い出さない日は一日だってなかった。
何その格好。城にいた時は綺麗な服着てたのに。
汚れた服にモネと同じ黒いコートなんて。
モネに染まっているのが丸わかりじゃない……
気持ち悪い。こんなフラン見たくない。
……こういう時どうするんだっけ。
殴る?泣く?
……ああそうか、背を向けて走ればいいんだ。
そしたら仲間が追いかけてくれて慰めてくれる。
……よくあるやつ。
フランに背を向ける。
……いや違うな。私がしたい事はこれじゃない。
踵を翻しフランに向かう。少しずつ速くなり駆け足になる。アーシュが何か言っているが聞こえない。
近づくとフランは観念したのか殴られていいよう目を硬く閉じた。
私は走る勢いそのままでフランの胸に飛び込んだ。
服にしがみつく。私の大好きな匂い。服装が変わってもこの匂いは変わらないんだと思った。
話したいことがたくさんある。
魔力コントロール出来るようになったよ、
たくさん修行したよ。
でも今一番言いたいのは……
「良かった……無事だったんだね」
ずっと会いたかった。目に映したかった。触れたかった。
そのフランが目の前にいて触れる事が、瞳に映すことが出来ている。
嬉しい。会えた。やっと会えたんだ。
顔を上げるとフランは戸惑った表情を浮かべていた。
そっと頬に触れる。
「少し痩せたんじゃない?」
フランは頭を垂れ視線を落とす。
「殴れよ……恨み言でも言えよ……」
私だってお人好しの馬鹿じゃない。
頭にきてるし、苦しいし、悔しいし、悲しい……
でも一番伝えたいのは……
「会えて嬉しい」
作り笑顔じゃない、自然と笑みがこぼれる。
フランが驚いて顔を上げた。
そして、目を手で覆い隠す。
「やめてくれよ……自分がどんどんみじめになってくる」
「……泣いてるの?」
フランへ手を伸ばそうとするが、その手を振り払われる。
「本当にごめん……」
そう言ったかと思うと背を向け走って行く。
トニーが呟いた。
「あれは殴られるより効くな……」
アーシュが近付いて来て私の横にしゃがみ込んだ。
「ちゃんと種を植え付けたな」
「何?種って」
「なかなか抜きにくそうな花になりそうだな〜」
「だから何の話よ〜」
「おいで」
アーシュが微笑んで腕を広げる。
言われるがままアーシュの胸に頭をつけた。
アーシュの腕が私の背を包み込む。
「よく頑張った、よく頑張ったな」
背中をさする優しい手。
その一言で堰を切ったように涙が溢れてきた。
フランがいなくなって声を上げて泣いたのはこれが最初で最後だった。




