ゼインとレアン
その夜、クロエの件を聞きつけてレアンが飛んできた。
「そうか……クロエが……」
クロエのヘビの亡骸を土に埋めていた時だった。
レアンはゼインに「ちょっといいか」と言って、離れた場所へ連れ出したので私たちの目からは見えなくなった。
クロエは最後、「あの女に唆された」って言ってた。
あの黒いコートの女が関係しているのだろうか……
だが今となっては確かめようもない。
――――――
ゼインはレアンの後ろを着いて行った。
レアンが、木々が生い茂る湖の岸辺で足を止めたので声をかける。
「今回のメアリーの件、本当に感謝……」
「すまなかった」
ゼインの声を遮りレアンが発した。
背を向けたままだったのでその背を見守る。
レアンがゆっくり振り返り、頭を深く下げた。
「我が国出身の者が申し訳なかった」
「いや、そんな……」
ゼインはレアンのこんな姿を今まで見たことがなかったので動揺を隠せない。
思わず駆け寄り慌てて声をかける。
「頭を上げてください。俺がちゃんと見ていればこんな事には……」
「本当に申し訳ない……」
レアンは暫く頭を上げようとはしなかった。
それからレアンはメアリーの修行内容や魔力の引き出し方をゼインに伝えた。
一通り話し終わるとレアンは大きな溜め息をついた。
「あれが動き出そうとしておるのか……」
「お気づきでしたか……」
「お前たちよりは野生の勘も働くのでな。
それであの娘の魔力の解放を急いだのであろう?」
「はい……」
レアンはゼインの肩に手を置いた。大きな、そして力強い手に力が入るのを感じた。
「何かあった時にはアーサーに向かわせよう。
ワシはもう長くない……」
「そんな……!」
ゼインが顔を見上げると悲しそうに笑う顔が見えた。
「わかるのだ。自らの命の灯火が消えようとしていることが。
人はいずれ誰でも死が訪れる。
仕方ないことだが、悲しいのう。
こんなに年をとっても、まだ生きたいと思ってしまうワシは欲張りなのかもしれんな」
月明かりで照らされた顔は、さっきよりもなお悲しそうに見えた。
ゼインは胸を締め付けられる思いがして、直視することが出来なかった。
―――――
夜、宿屋の部屋にゼインの姿がなかった。
宿屋の中をあちこち探すが見当たらず、もしかしてと思い外へ出てみた。
……いた!
湖の近く、岸辺に腰を下ろしている。
確か、クロエさんのお墓を作った辺り。
月の光でなんとかゼインの姿が確認できる。
近付いて行くと、湖に月が映りゆらゆら揺れているのが見える。やや冷たい風が吹き抜けていく。
歩くたび、枯れ葉のパサパサした音がした。
ゼインが音に気づいたようで後ろを振り返った。
「ああ、お前か。一人で出てきたら危ないじゃないか……」
力ない消えそうな声。ゼインのこんな声初めて聞いた。
ゼインの横に腰を下ろし、そっと背に手をあてる。
「申し訳なかった。お前を守るためにと置いていた騎士があんなことを……」
私は首を横に振る。
「ゼインは何も悪くないよ……」
「俺がもっと……
いや、今さらどうこう言っても同じだな……
すまない……」
「じゃあ、また旅に連れて行ってくれない?」
「……毎回嫌な思いをさせておるから、もう行かないと言うと思っていたが……」
「次こそは楽しい旅を。駄目だったら、またその次こそ楽しい旅を。
……私、諦めないよ」
笑ってみせる。
「そうか……そうだな。次こそ楽しい旅を……」
ゼインはどれほど傷ついたろう。
信頼をしていた部下に裏切られたのだ。
長年そばにいた人がいなくなるツラさはわかる。
痛いほどわかる。
今日はそばにいよう。
一人でいると消えてしまいそうになるから。
自分の存在をちゃんと感じることが出来るように。
そばにいるよ。
ゼインは何も言わず湖を眺めている。
鳥の鳴き声が小さく聞こえてくる。




