親子
「おお、ザイオンではないか! 久しぶりよのう」
レアンが声をかけている。
「父上〜もう年なんだから国王を早く譲ってくださいよ〜」
「ハッハッハ……ワシはまだ現役でな。
どうだ、勝負でもするか? 」
と、自分の力こぶを見せている。
「いえ。それはやめておきます。どちらの結果になっても俺に得がないので」
民衆を見回しながら笑みを浮かべ発言をする。
「だってそうでしょう?
俺が勝てば、可哀想な老いぼれをいじめたと言われ、
負ければ実力がないと言われる」
ザイオンがアーサーに気づいたようで、民衆を押し退けこちらに近付いて来た。背が高いので民衆から頭一つ抜き出ている。
アーサーが咄嗟に私を自分の背後に行かせた。
「なんだお前、いたのか」
「あ、兄上……」
アーサーを見下ろしながら吐き捨てるように言う。
「よくもまああんな老いぼれの所に通えるよな。
お前は王位継承権もないんだから、あいつに取り入ってもなんの得にもならんと教えたではないか」
「私は別に国王になりたくて通ってる訳じゃ……」
話している途中なのに、私の前からアーサーの身体を無理矢理避けさせる。
ザイオンに胸ぐらを掴まれ顔を近づけられる。ザイオンは首の匂いを嗅いだかと思うと、サングラスをずらし私の全身をじっくり眺め始める。
胸ぐらの手は離さないまま、アーサーの方を向いた。
「お前!! なんて面白い物を持ってるんだ!!」
笑顔の瞳が潤んでいる。頬も少し赤らんでおり、興奮している事が見てとれる。
「これ俺にくれ!! これで遊びたい!!」
子供のように言いながら、胸ぐらの手でグラグラ揺らされる。
「お止めください!! 兄上!」
アーサーが無理矢理ザイオンの手を引き離す。
「なんだお前、俺に歯向かうのか。まあ無理矢理にでも貰うけどな」
サングラスをかけ直し、連れて来た騎士たちに合図を送ろうとする。
「やめんか!! 人前で何をしようとしておる!!」
ザイオンの背後からレアンの大きな声が響いた。
ザイオンは、舌打ちしながらアーサーの肩に手を置き、耳元で
「覚えとけよ」と囁いた。
そのまま背を向け、
「そのおもちゃ飽きたら俺の所に持ってこいよ」
と言いながら去って行った。
アーサーはザイオンの姿が見えなくなると、力が抜けたようにその場に座り込んだ。
「さっきの人、お兄さん?」
同じ目線になるようにしゃがみ込む。
「はい、年齢はだいぶ上ですが。
さっきの兄が次の国王候補です」
「アーサーと性格似てなさそうだったね」
「母が違いますし、あまり一緒に暮らした事がないので……」
アーサーが立ち上がり、数回深呼吸をする。
「父上はまだ時間がかかるので、私たちは行きましょうか」
「え? どこへ? 修行する場所?」
「火の女神伝説のある場所です」
ライオンになったアーサーの背に乗り伝説の場所を目指す。走るアーサーに声をかける。
「行ったことあるの?」
「ないです。そのような場所がある事は皆知っていますが、場所は父しか知らないのです。神聖な場所なので人の立ち入りを禁じているそうです。
今回、メアリーさんを案内する為に、だいたいの場所を教えてもらいました」
そんな神聖な場所に、他国の私なんかが行っていいのだろうか……少し不安がよぎる。
着いた所は大きな洞穴だった。雨が降った後なのか草や周辺の土が濡れており、雨の匂いがした。
「確か、壁画があると言っていました……」
アーサーの背に乗ったまま、洞穴の中に入り進んで行くと拓けた場所に辿り着く。
その壁一面を見て二人で息を呑んだ。
言葉すら出て来ない程に驚き、しばらく沈黙が続いた。
「これ……」
やっとの事で声を絞り出す。
ライオンアーサーも同じようにゆっくり言葉を発す。
「まるで今のあなたですね……」
壁一面に描いてあった絵は、
ライオンに乗った、美しい女神だった。
手から炎を出し人々を守る様子が描かれている。
私と同じ力を持った女性がいたのだろうか?
それとも昔話のように昔の人が作った話?
……真相はわからないか。
でもこれを見ると力が湧いてくる。
何でも出来そうな気がする。
だからレアンはこれを私に見せたかったのだろうか。
満足するまで壁画を見て、二人で街まで戻って来た。もう日が暮れ始めている。




