サンタの息子
「父上!! また女を連れ込んだのですか!?」
また!?
しょっちゅう連れ込んでるんだろうな……
元気そうだもんなこのサンタさん。
そして父上ってことは息子??
確かに髪や瞳も同じ色だ。
「ただの女じゃない、異国の王女ぞ」
「は!? これが……!?」
その青年は疑いが詰まった視線で私を睨む。
「これ」って……そうよね、ビックリするよね。
服も髪もボロボロだし化粧すら出来てないし。
自分でもビックリよ。こんなボロボロになるなんて。
「し……しかも人間ではないですか!?」
驚きと怯えの表情が現れる。
「そうか……お前は人間を見るのが初めてだったな。
見ておけ、なかなか見れんから」
レアンは今狩ってきたであろううさぎを捌き始める。
青年が恐る恐る近づいてくる。
そっと髪に触れたかと思えばクンクン匂いを嗅いでくる。頭から足までゆっくりと嗅いでいき、突然パッと身体を離す。
「もっ、申し訳ありません!! つい動物の本能で匂いを……! こ、こんなにも獣の匂いがしないのは初めてだったので……!」
顔を赤らめている姿が愛らしい。
レアンの笑い声が聞こえた。
「人間とはそういうものだ。半獣半人のワシらとは似ているようで全然違う」
レアンが青年に近づいて来て頭をぐしゃぐしゃ撫でる。
「ほれ、ちゃんと挨拶せんか」
はっとした表情をし、即座にひざまずく青年。
「申し遅れました、アーサーと申します」
「こいつはワシの13番目の子よ。こいつだけがワシの元によく通ってくる」
すごい子沢山……
あれ? ということはレアンもライオンに……?
捌いたばかりの肉をアーサーに見せている。
「お前も食べて行くか?」
「あ……えっと……はい」
想定していなかったのか、しどろもどろで答えている。
レアンは慣れた手つきで肉を串に刺し、火で炙り出す。すぐに煙が上がり肉の焼けた匂いが洞窟の中に充満する。
アーサーが火を見つめたまま私に話しかけてくる。
「あの……変な匂いがします」
「え……!? 私!? 汗臭いとか!?」
驚いてアーサーの顔を見る。一瞬こちらを見たが、また揺らめく炎に目を戻す。
言いにくいことだから目を合わせづらいのかな……
「いえ。そういうのではなく、大きな力がくすぶっている匂いと、近寄ると怖い匂いの二つが混ざっている感じがします……」
「ほう、お前もわかるか」
レアンが嬉しそうに微笑む。
「一つは火の魔力で、もう一つは懐に隠している物だな」
魔力封じの石か! 持ってることすら忘れていた。
「これ?」
胸元に入れていた石を取り出して見せる。
「そうです! 触ってもいいですか!?」
アーサーが興味を示して近付いて来た。
アーサーに手渡すと、上に掲げたり角度を変えて見たり匂いを嗅いだりしている。
「すごい……これを触ると力が抜ける感じがします。少し怖い感じもしますね。
これに触れている間は動物の姿になれないと思います」
もしかして、これに対して唸り声をあげていたのかも……
「こんな物が何の役に立つのですか?
魔力がなくなるなんて恐怖以外何もないと思うのですが。
あなたはこんな物を身につけていて怖くないのですか?」
私の手のひらに石を返しながら不思議な顔を見せる。
「私はあまり魔力を感じなくて……だからこれを持っていても怖いという感じがしないんです」
「凄いですね……私は怖くて仕方ないのに……」
何を思ったのか、アーサーが勢いよく立ち上がった。
「父上!! 私はここに残りたいです!!」
炎の向こう側にいるレアンに声を発す。
「ほう……なぜじゃ?今まで女がいても見向きもしなかったというのに」
クククと意地悪そうに笑う。
「その……この方に、人間に興味があります!
そして! 父上はすぐ女性に手を出すのでそれを防ぐ為でもあります!!」
言い終わると思い出したように私を振り向き、恐る恐る言われる。
「もう……手を出されました……?」
「いえいえ!! 全く!!」
「ああ、良かった……」
と、ホッとした顔で頭に手をやっている。
レアンは、顎髭を触りながらしばらく考えていたが、「まあいいか。いい経験になるやもしれん」と呟いていた。
肉を食べ終わるとレアンは私たちを残してどこかへ出て行った。
「ワシが手を出すのを防ぐためとか言って、自分が手を出すんじゃなかろうな〜。まあ出しても怒らんから好きにせい」
と言わなくてもいい事をわざわざ笑いながら言い残して行った。
私たちは洞窟の入口で夜空を眺めることにした。
昼より冷たい風が吹き抜けていく。湖が見えるが静か過ぎて怖い感じもする。
「レアン王はどこへ行ったの?」
ふと気になったので聞いてみた。
「たぶん、見廻りだと思います」
「見廻り?」
「火山ガスの影響で我を失う野性がいて危ないので」
「国王自ら!?」
「はい……私たち子供や騎士が、父の代わりにここに住むというのに聞かないのです。自分の仕事だと言って。もう何十年も」
溜め息混じりに教えてくれる。
「そして処分した動物の肉を食べるのです。仕方なく殺めてしまった命を。父上は、食べる為だけに動物を殺したりはしない」
責任感が強く、民や動物を大切にする気持ちが大きい人なんだろうな。こんな人に守られる民は幸せだろう。
「素敵なお父様ね」
「……はい」
恥ずかしそうに下を向くアーサー。




