さあ帰ろう
帰り際、馬車に乗ろうとした時カイトが私のそばにやって来た。
おもむろに自分の羽根を一本掴んで抜き、ひざまずいてそれを差し出す。
「え?何?くれるの?」
隣にいたゼインがフッと笑う。
「鳥人の儀式みたいなもんだ。
『自分を捧げる』つまり、服従します、攻撃しませんのようなものだな。」
カイトの髪をぐしゃぐしゃと撫で意地悪そうな顔で覗き込む。
「もっとも、俺はもらったことないがな」
カイトは気まずそうにゼインから目を逸らす。
「ありがとう……」
受け取ると、ホッとした表情で立ち上がったカイト。
私は自分の髪を一本握りしめ力強く抜いた。痛みがピリッと走る。
ゼインが呆れた顔を向けてくる。
「いやお前は何もしなくていいんだ」
「どうして?カイトが痛い思いをして羽根を抜いてくれたのに私が何も感じないのはズルいよ」
カイトに金の髪一本を差し出す。
「受け取って。でもこれは服従なんて意味じゃない。
『友達』の証。
これからあなたが痛みを感じる時は私も痛みを感じるでしょう」
カイトは大切そうに髪を受け取り両手で握りしめる。
行きと同じく馬車で帰るのだが、今回は全員こちらの馬車に乗ってきた。
もうかなりぎゅうぎゅうである。満員電車みたい。
でも一緒にいるとみんなで国に帰る実感が湧いてくる。嫌な気は全くしない。
ゼインは私とミアの間に座り、他三人は反対側に座った。
気になっていたことがあったので、ポケットからケースに入っている石を取り出してみた。
「ゼインがカイトに殺されそうになった時、私の魔力が発動しなかったのはこの石のせいだったのかな」
発動しなくても不安になる。この先、大切な仲間が危ない時に力を出せないかもしれない。
「あの時、恐怖は感じたか?」
ゼインが私を見下ろす。
「感じてない……かも」
「カイトのことを信じてたんだろう、殺したりしないと。心のどこかで。
だからだろうな。本当に危険と思った時にしか発動出来ないようだから」
「自分が出したい時に自由に出せるようになったらいいんだが……」
自分の事のようにボソッっとつぶやく。
ミアが思い出したように話す。
「カイトさんはどちらの種族にも属しているから子供の頃とか仲間外れにされたりしてなかったのかな……」
あ、そっか。そういうの聞くよね、ハーフの子とかいじめられたり……
「ハハ……全然」
ゼインが口を開き話し出した。
「あいつは俺の国に来た時は、珍しいからと皆が寄って来ていた。
しかも愛嬌が良くてみんなにニコニコしていたから可愛がられていて、あんなに黒い羽なのに『天使』って呼ばれていた。
鳥人の国でもそうだった」
ふうっと溜め息をつく。
「あいつが俺の後ろを歩くと誰も俺のことを見ず、
あいつばかり目立っていた。
……だから嫌いだった」
えっと……まさかこれが仲が悪くなった原因ではないですよね……? 嫉妬だよねこれ……。
怖くて聞けないけど。
「はい! 国王様! 質問があります!!」
アーシュが真っ直ぐ手を挙げる。
「もういいよ、お前はしゃべるなよ」
フランが呆れた顔をしてアーシュに言う。
「何だ、申してみよ」
ゼインがチラッとアーシュに目をやる。
「この前言ってましたよね!
キスをすると魔力がわかるって!
ということは、もっとスキンシップをすれば、もっともっとわかるということでしょうか!?」
「ほら、またくだらん質問」
フランはもう慣れているようだ。
「その通りだ」
ゼインが普通に答える。
「やったー!! 今度女の子口説く時に使おうー!
君の魔力を調べるために……って」
アーシュはご機嫌である。
「では実践をしてやろう」
そう言ってゼインが狭い馬車の中で立ち上がろうとする。トニーとフランが私から離そうと動き出す。
ゼインはアーシュの両肩をがしっと掴み、
「お前でな」とニッコリ微笑んだ。
「え!? お、おれ!?」
アーシュ焦りまくりである。
「い、いや、そういうのはメアリーとお楽しみいただいた方が……!」
普通に私を犠牲にしようとするアーシュ。
「メアリーに手を出そうとすると、そのフワフワ頭がうるさいのだ。もうお前でいい。ほとんど同じ顔だろうが」
そう言って、アーシュの腕をぐいと引っ張る。
「え! やめ……俺まだその領域には達してないんで!! ちょっ……みんなの前で脱がさないでぇ〜〜!!」
アーシュの泣き声が馬車の外まで響き渡る。
みんなの笑い顔を見てふと思った。
この石がもっと早く手に入っていたら、メアリーは自分の世界を終わらせようとは思わなかったのではないか。
この景色はメアリーの物だったのではないか……
馬車が城に着き御者が馬車の中を覗くと全員が熟睡していた。御者達はそっと毛布をかけてやり、メアリー達は半日そのまま起きなかったという。




