鳥人の国へ
出発の日、ゼインが黒い装飾の馬車を二台用意してやって来た。
ゼインの城も真っ黒だったことを思い出す。
私を見てにっこり微笑む。
「さ、脱ごうか」
「えぇ、何で!?」
フランが怒りを発する。
「何言ってんだエロ国王!!
メアリーちゃんを堂々と裸にしようとすんじゃねえよ!!」
「何と無礼なやつだ。」
顎で何かを指す。
「それに着替えさせるだけだ」
そこには黒いワンピースが置かれていた。
以前のワンピースは黒一色だったが、これは白糸で花の刺繍があって可愛らしい。
「こんな物を着て行けばすぐに王女とバレるだろう。
命を狙われるような危険は出来るだけ避けたい」
私の肩を抱きどこかへ連れて行こうとする。
「さ、行こうか。俺が着替えさせてやる」
ミアがさっと出てくる。
「ゼイン様、私がお手伝いするので大丈夫ですよ」
ゼインは渋々諦めた。ミアには弱いようだ。
出発直前、ゼインはトニーたち三人にコートを投げ渡す。
「それを着ろ」
「灰色の……フード付きコート?」
三人は不思議そうに眺めている。
私には丁寧に着るのを手伝ってくれる。
「なんでこれを?」
「鳥人は金の髪が嫌いなんだ。絶対にフードを外すなよ」
フードを被った頭を撫でられる。
「栗色の娘は着なくて大丈夫だ。明るい色ではないからな」
だから馬車も黒い物を用意してくれたのか……と感心する。
馬車は私、ゼイン、ミアとトニーたち三人に分かれ乗ることになった。フランは最後までこっちに乗ると駄々をこねていたが、ゼインにより却下された。
さあ、鳥人の国、コルボ国へ!
ゼインは私の横に座り外を眺めている。
ミアが申し訳なさそうに声を掛ける。
「あの……ゼイン様」
「なんだ」
「幼い頃からメアリー様のことをお慕いしてらしたのに、なぜ小鳥を……」
ゼインは外を向いたまま「ああ、それか」と言い、話しだした。
「俺の父親が小鳥をメアリーに持って行けと言ったんだ。メアリーをひと目見て気に入ったのを気づいていたようだった。
渡した時すごく喜んでもらえて嬉しかった。
それなのにあいつが小鳥の首を切ってこいと……
そうすれば結婚させてやると。」
ふうと息を吐き、続ける。
「少し考えればわかることなのにな。そんな事をすれば嫌われることぐらい。
あの時はわからなかった。父親が正しいと思っていた。
そして暴走が起きた。一瞬の出来事でよくわからなかった。気づいたら身体が燃えていて地べたに倒れていた。その時、母親は泣き叫んでいたが父親は……
笑ってた。死にそうな俺を見て。」
視線を外に向けたまま無表情で話す。
「親が親なら子も子だよな……」
「そんなことないです!!」
ミアが立ち上がる。
馬車の揺れでふらつきながら真剣な顔をしている。
「ゼイン様はお父様とは全然違います!!
メアリー様を命をかけて救おうとしてくださいました!!」
ゼインがフッと笑い囁く。
「お前は良いメイドをもってるな」
ミアを褒めてもらって誇らしい気持ちになる。
ミアは我に返り、頬を赤くしながら椅子に座り直している。
一方、もう一台の馬車では……
アーシュがわざとらしく深い溜め息をつく。
「俺、悩みがあるんだよね……」
「どうした?」
トニーが声を掛ける。
「いやいやトニーさん!!こいつの悩みなんて聞くだけ無駄だって!どうせくだらな……」
フランの言葉を遮り話し始める。
「何で仕事中に女の子とイチャイチャしたら怒られるんだろう……」
トニーは飲んでいた水を吹き出す。
「ほらトニーさん!!時間の無駄でしょ!!」
「いやちゃんと聞いてくれよ!!深刻な悩みなんだから!!」
アーシュはいかにもな深刻な顔をして始める。
「いいか、もし俺が警護中に草むらに隠れてお菓子を食べていたらどうなる?
『こら!』だよな??
ところがだ、草むらに隠れ女の子とイチャイチャしてたら、
『何やってんだお前!!任務中に!殺すぞ!!』
なんだ。」
アーシュはまたまた深い深い溜め息をつく。
「同じ時間サボるのになんで違うんだろう……」
「トニーさん、マジでこいつクビにしよう。そもそもなんでこんな奴が分団長なんだよ……」
「確かに……」
トニーがつぶやく。
「相手が女だからか?いや、男とでも同じだろうな。動物ならいいのか……?」
「ちょっ……トニーさん真面目に相手しちゃダメだって!そして変な方向に行ってるって!!」
アーシュも真剣な顔で答える。
「女とキスならまだ『何してんだ!』なんだよ!
きっと男とキスしててもその位だと想定できる」
「なるほど。相手じゃなく行為自体が怒られるってことだな……」
「そう思うだろう。ところがだ。」
意味ありげに間をもたせるアーシュ。
「一度俺がメアリーのドレスから騎士の服へ着替えてる時に覗かれたことがあって、
そいつは俺が王女に手を出したと思ったみたいなんだけどその時は……」
大きく息を吸うアーシュ。
「『申し訳ありませんでした!!』って慌てて戸を閉めやがった」
トニーの目が丸くなる。
「何だと!?そうか……助けてって言ってたら助けに入るけど、王女が同意してたら怒られない、むしろ邪魔をしたってことになるのか……」
アーシュがトニーの両肩をがっしり掴む。
「ということはだ、俺が実は王子でしたって言ったら……
どこでも何でもやり放題なんだ!!!もう怒られることもない!!」
「お前……!」
トニーが立ち上がる。
「天才じゃないか!!よくここまで答えを導き出したな!!」
「そうだろそうだろ!!」
二人とも満面の笑みで握手をしている。
「ちょっと!!なんでそうなるんだよ!!
お前が色んな女にちょっかい出すせいで他の国の騎士にピンク騎士団ってバカにされんだよ!!」
フランは大層お怒りである。
「え……そんなこと言われてるのか?みんなのことを……」
アーシュは知らなかった様子。
「そうだよ!わかったら反省……」
「じゃ俺、『ピンクアーシュ』って呼ばれるくらい知名度あげるわ!みんなに迷惑かけないように!
騎士団全員がそうだと思われたら嫌だもんな!」
「おう!頑張れ頑張れ!新しい目標が出来たな!」
なぜかトニーも嬉しそうである。
「もうこの騎士団辞めたい……
メアリーちゃんの馬車に行きたい……」
一人嘆くフランであった。




