ゼインの役目
轟々と燃える炎、右手で腕を抑えるが気休めにもならない。部屋全体もどんどん暑くなってくる。
火の勢いが衰える気配がない。
うるさいほどの轟音。どうしようと動揺するほどひどくなる。腕まで熱くなって焦り出す。
ゼインのことなど頭にもなくなる。この火を早く消さなくては。
どうしようどうしよう苦しい痛い……
フランがいてくれたら……
そうか!フランがしてくれたように目を瞑って……
「違う」
顔のすぐそばで声がした。
見るといつの間にかゼインが背後にいて、すぐ近くに顔があった。
真っ直ぐ赤い瞳で見つめられる。
「目を開け。見るんだちゃんと」
今までと違う落ち着いた、優しい声。
「でも……火が……!!」
「大丈夫だ。安心しろ。ここはお前のために作った部屋だ。その服も火が燃えないように作られている」
「どういうこと……?」
「話は後だ。俺が支えるから全部力を出してみろ」
後ろから抱き締めるように腕を回し、両手で左手を支えてくれる。
だがゼインの腕に火が燃え広がり始めた。
「腕が……!!」
「これぐらい気にするな。自分に集中しろ」
集中して炎を全部出し切れるように力を入れる。
すると、手に穴が開いているような感覚になる。
力を入れた分、炎は強く太くなり轟音もさらに大きくなる。辺りも炎と煙に包まれ始める。
「わかったか。その感覚で炎を小さく細くするようイメージするんだ。怖がって逃げてはダメだ」
言われたとおり手に集中しやってみると、ゆっくりだが細くなっていく。
火が完全に消えた時、左手を支えてくれていたゼインの手がすっと離れ背後でドサッと音がした。
仰向けに倒れているゼイン。
ハアハアと荒い呼吸をしている。
「ゼイン様!!」
全身熱傷がひどい。この呼吸、気道熱傷か……?
そうだとしたらこの人はもう……
苦痛を浮かべながらも微笑むゼイン。
「やっと名前……呼んでくれた。」
息を整えながら続ける。
「俺はもう……ダメだろう。
最後に話をしよう……」
メアリーの父親に命を救われたことがあり、何か礼をしたいと言ったところ、いざという時に魔力の使い方をメアリーに教えて欲しいと頼まれたという。
ゼインの王族は自分の病などを魔力を使い治すらしい。
その魔力のコントロールが難しいのだが、ゼインが得意だったため頼まれたとのこと。
自分の命が無くなるかもしれないくらい危険なことも知っていたと。
私のために命を賭けて……
「だから……自分を責めるなよ。
お前は悪くない……こうなることは想定済み……だ。
こうしたかった。……俺が……望んだ……ことだ」
何と言ったらいいのか言葉が見つからない。
「手荒な……ことばかり、申し訳なかっ……た。
あの鳥や猫も、かわいそうなことを……した。
どうすれば……魔力が発動するか、調べる……必要があった」
休み休み続ける。
目頭が熱くなってくる。この人に今私が出来ることはあるのだろうか。
「でも、好きだと……言ったのは……本当だ。
子供の頃から……」
ふと思い出した。
「瞳をえぐりたいと言ったのも……?」
「ハハ……あれは言い過ぎたな……
お前の髪……も瞳……もお前の中にあるからこそ
輝くんだ」
力なく笑う。
「お前の……周りのやつは……いいな。
これからも……ずっと……そばにいられる」
ますます呼吸が荒くなる。
「俺が死ん……だら、この国を……頼む。
俺より……お前がふさわしい……」
ゼインの赤い瞳に涙がにじむ。
「生まれ……変わったら……妃になって……くれないか……」
「はい……」
頷きながらゼインの手を取る。
大きく温かい。むしろ熱いくらいだ。炎で焼けたせいだろうか。
ゼインの瞳から一筋の涙がこぼれた。
「最後に口づけを……してはもらえない……だろうか」
私はゆっくり頷きながら、身体を前のめりにしてそっと唇を重ね合わせる。
涙がゼインの頬に流れ落ちた。
「……ありがとう。もう悔いはない」
悲しみが入り混じる優しい笑顔。
もう一度手を握り締めた。
残り火がパチパチと音を立てていて小さな拍手のように思えた。




