ブッチの願い
ブッチが隣にいた騎士の剣を素早く抜き、私の胸に突き刺した。
私は衝撃で後ろへ倒れる。
だが、前回の庭師のこともあり防弾チョッキのような物をドレス下に身に着けていたので、刺されても全然大丈夫なのだ。
何かおかしい……何かが違う……
目の前にブッチの顔。私の肩に置いている手にぐっと力が入った。
「嬢ちゃん、ごめんな……」
ブッチの目から涙がこぼれ、私の頬に伝う。
何だこの違和感。
数秒でブッチは捕らえられ、その場で殺されるかと思ったが大勢の民衆の前、しかも子供たちも多く集まってきたので一旦牢に入れられることになった。
トニーが即座に私を抱きかかえた。
「大丈夫か?どこを刺された?」と小声で聞いてくる。
そうなのだ。剣が当たった感触がなかったのだ。
その証拠にドレスを確認するが胸辺りには破れ一つない。
トニーも私が防弾チョッキを着ていたことは知っていたので、血が流れないことに関しては疑問を感じていないようだが、どこか気になる様子。
やはり。胸に剣は当たっていない。あの時倒れたのは肩を押されたからである。
私を殺すフリをした?
何のために?釈放されようとしていたのに?
殺せば処刑されることはわかっているのに?
疑問が止まらない。
その夜、ブッチに会いにこっそり牢に行ってみた。ミアはブッチと面識もあるので、理由を聞いて見張り役を買って出てくれた。
「嬢ちゃん!!」
ブッチが私の姿を見て駆け寄ってくる。
「まさか王女だったとはな……」
気まずそうに笑う。
「それより何があったの?私を殺すフリをして……」
「ああ気づいたのか。実は……」
堪忍したように話し出した。
ブッチが街を歩いている時、黒いフード付きコートを着た女が話しかけてきた。フードでよく顔は見えない。
仕事を頼みたいとのこと。ブッチは言われるまま女に着いて行った。
着いた先は見慣れない小屋があり、中に入って驚いた。子分たちが全員縄で縛られているのだ。
そこで取引をもちかけられる。
王女を殺害すること。ただし失敗に終わってもいい。
断ればこの場で全員殺す。仕事を受けるなら子分は解放し、子分たちに褒美を与える。
「何て取引だと思った。王女殺害なんて成功しても失敗に終わっても結局は処刑だ。
取引を受けるということは死ぬということ」
女一人しかいなかったため、女を殺してみんなを解放しようと思ったらしい。
だが、子分たちの様子がおかしい。酷く怯えており、目で抵抗するなと訴えてくる。
「今思えば、あの女が相当なやり手だったのかもしれない……普通は男でもたった一人で俺の子分たちを捕まえるなんて出来ないだろう。それなりに腕は立つやつばかりだから」
溜め息混じりに続ける。
「あいつらにつき合わせてばっかりだったから、最後に少しはあいつらの為になるならと思って引き受けたんだ。
……そう言えば俺が引き受けると言った時、あいつら泣いてたな……」
黒幕は女??
本格的に命を狙われているということがわかる。
計画性すら感じられる。
「最後に嬢ちゃんに頼みがあるんだ」
ブッチが救いを乞うような目で見てくる。
「あいつらが今どうしてるか見て来てくれないか。
あの女がちゃんと約束を守ったか確認してほしい。
迷惑をかけてばっかりで申し訳ないが……」
私は確認することを約束し、その場を離れた。
翌朝、大勢で動くと目立つのでトニーだけに事情を話し二人で教えてもらった小屋に行くことにした。
「見慣れないな……」
トニーがつぶやく。
トニーも見たことがない小屋ということは最近作られたのだろうか。小屋まで作って実行するということは計画的犯行だろう。
小屋に近付くにつれ違和感を覚える。
トニーも気づいたようだ。
戸を開けなくてもわかる。
「血の匂いだ」
トニーが私を後ろに立たせ、剣を手に警戒しながらそっと戸を開ける。
あまりの激臭に吐き気を催す。
口を押さえながらトニーの背中越しに中を覗くと、
あまりにも無残な光景が広がっていた。
惨殺された子分たち。しかも皆縄で縛られたまま殺されている。抵抗することも出来なかっただろう。血の海で本当の床の色すら見えない。
「むごいな……」
トニーはそれだけ言うと口を閉じた。
「これ……死後何日か経ってるよね……」
「ああ、昨日今日じゃないな……」
ということは、ブッチが取引を受けると言った直後に殺された可能性が高い。
「早くブッチに伝えに行かないと……」
ブッチの罪状は重く、いつ処刑されてもおかしくない。急がなければ間に合わない。
私とトニーは無言で足早に城へ向かった。
私の姿を見た途端、心配そうな表情のブッチが近寄ってきた。足の鎖がガシャンと音を立てる。
「どうだった!?」
「元気だったよ」
笑顔で返した。
トニーが顔を変えず横目で私を見た。
「お頭ありがとうって言いながら、みんなでお酒飲んでたよ」
笑顔で答える。
やばい…泣きそうだ。
込み上げてくるものを感じながら歯を食いしばる。
「そうか! それは良かった!!
こんな俺でも最後に少しは役に立てたのかな」
寂しそうにこぼれる言葉。
「立てたさ!!
少なくとも私はあなたのお陰で買い物に行けた!
とても役に立ってたよ!!」
感極まり柵を掴む。
「そうか……ありがとう」
とても安心した優しい笑顔だった。
翌日、処刑は実行された。




