火事と記念式典
深夜、騎士団の兵士が慌てふためいて報告にやって来た。
あまりの慌てようなので私もメイド服に着替えこっそり着いて行く。
そこには信じられない光景が広がっていた。
あの病舎が全焼し、建物が跡形もなく崩れ落ちている。辺りは焦げ臭い匂いと煙が充満している。
なんだこれ……
あまりの変わりように現実だと受け止めるまでに時間がかかった。
その後、66名全員の死亡が確認された。この国始まって以来の大惨事となった。
原因はいくつかあるだろう。
皆亡くなる寸前の者ばかりで自分で動けなかったこと。それを世話する人間もいなかったこと。
仕切りのない部屋だったのですぐに火が燃え広がったであろうと予測出来た。そして、ゴミが散乱しておりそれも燃え広がりの原因の一つだろう。
放火なのか、中の人間が火をつけたのかはわからない。ただ、施設内には火をつける手段はなかった。
病舎は「死」の象徴であり、恐怖の存在でもあった。病舎がなくなったことで一気に病が消えたと安堵する者さえいた。
私はすぐに病舎を作るよう命じた。
でも、名称は「病院」にすることにした。
医療器具はない。だが環境を整えることは出来るのだ。
一人ひとりの間隔がとれるよう部屋を作り、同じ様な症状の者を集めることができるようにする。
また、屋上を作り隔離が必要な患者も外に出ることが出来るようにした。
ゴミが散乱しないように大きなゴミ箱を設置。そこに入れればすぐに外のゴミ捨て場に落ちていく。
そして、患者を世話する者を配置することにした。
危険を冒すため給料は多めに設定。
男女問わず募集したのだが、女性が子供の世話をすることが中心らしく、赤子の下の世話をしたことがある女性の方が積極的だった。
なので男性には徐々に慣れてもらうため、掃除や食事の準備など周りのことから始めてもらう。
革の手袋と革を使って作ったエプロン、頭にはスカーフにマスクを装着させる。マスクは布と紐でなんとか作る事が出来た。
さらにアルコール消毒。強い酒を準備し、それで代用。手や感染した者が触ったものなど拭くのに使う。
そして驚いたことに石鹸が存在していた。汚れを落とすための物で高級品らしい。なかなか手に入らないのでこの石鹸を作る者や設備を増やしたい。
新しく建てる場所は、街の中心部にした。今回消火が遅れたのは、街の外れにあり発見が遅れたことと……
病舎が無くなればいいと思っている市民が、火事を報告しなかったことが一因にあると睨んだ。
ここにあれば何かあった時に城内からもすぐわかるだろう。
だだ市民の一部からは反対も出ている。それも承知だ。そんな人たちにも納得してもらえる場所にしなくては。
あっという間に完成し、記念式典が行われることとなった。
アーシュが代わりに出ると言ったが、私が仕切ってやってきたことだ、今回は自分の目で見たい。
私は病院の前に設置された階段の上、少し高い位置の椅子に座らされみんなを見下ろす。人々が集まり始めている。
その時、騎士団たちが男を捕らえてやってきた。
あーーブッチじゃないか。何してんだよ、もう。
「怪しい男を捕まえました」と、階段下でトニーに報告している。
そうだったトニーも面識ないんだった。
仕方ない。助けてやるか。いなくなられては買い物の時不便だし。
私はドレスの裾を掴み足早に階段を駆け下りる。皆は何事かと私に注目している。
この時思ったんだ。「あ、シンデレラみたい」って。赤い絨毯だし。
少し機嫌よくなりながら階段下へ到着。
「危険なのでお下がりください」
と、トニーに制止される。
さすがトニーよね、皆の前ではちゃんと騎士団長を演じてる。さすがに「何やってんだお前!」とは言えないか。
だが、こういうのも気持ちいい。
その言葉を無視し、ブッチの前に立ちはだかる。
トニーが「何やってんだ」と言いたそうな顔で睨んできた。
「この者は私を助けてくれました。縄を解いてはもらえないか」
ブッチを捕らえている騎士団の二人に話し掛ける。
二人はどうしたらいいかわからず、お互い目で相談している。
「で、ですが、この者は大罪人で、大勢の人間を殺したくさんの金品を盗んできました」
な、何だと!?
こないだどんな悪いことしてきたか聞いた時、盗みをちょっとって言ったじゃねーか!
ブッチを睨みつける。すると、ブッチもようやく私に気づいたようで苦笑いを浮かべる。
「皆、大なり小なり罪は犯すでしょう。
大切なのは過去ではなく未来ではないでしょうか」
どこかで何回でも聞いたセリフを言ってみた。
どうだ?この二人に響くか?
「わかりました……王女様の願いとあらば……」
騎士団の一人が縄を解いてくれた。
二人とも感動しているようだ。ラッキー。
集まった人々からわっと大歓声が起こる。
何とも気持ちいい。私の好感度爆上がりである。
だが、その大歓声が突如として悲鳴に変わった。




