トニーの里帰りと初めての夜
あれから数日過ぎ、いつもの日常を取り戻し始めていた。
ぼーっと外を眺めていた。
「暇だな……」
本来は王政の仕事をしなければいけないのだが、まだよくわからないので、アーシュが私の格好になりやってくれている。
買い物に行くにも警護に見張られていてなかなか行けないし……
城内をうろつき回っていると、トニーが目に入った。いつもと違う格好で出掛ける支度をしている。
「何してるの?どこか行くの?」
「ああ、ちょっと家に帰ろうかと思って」
「え?家?行く!!行きたい!!連れてって!!」
トニーにはすっごく嫌な顔をされたが、こうでもしないと外に出れないので無理矢理着いて行くことにした。
私は馬を操作出来ないので、トニーの前に乗せてもらい行くことに。ドレスは邪魔なのでメイド服を貸してもらった。
ミアもあまりいい顔はしなかったが、「トニーさんがいるなら……」と渋々承諾してくれた。
馬を走らせているトニーに聞いてみる。
「どのくらいかかる?」
「朝に出れば昼頃には着くと思う」
馬に乗ると高い所から見渡せるし、風に吹かれて気持ちがいい。でも走る刺激でお尻が痛い。
私も自分で走らせることが出来たらいいのにな。
街を通り過ぎる時、トニーは女たちから手を振られていた。笑顔で返しているのはいつものこと。外面はとてもいい。
そして、その女たちの視線が痛い。必ず睨んでくる。
そうだろうそうだろう、人気者だもんなトニーは。
そうこうしているうちにトニーの家に着いた。
トニーが戸を開けると子供がわんさか出て来た。
「兄ちゃん!」
「お母さん!兄ちゃん帰って来たよ!」
「兄ちゃんお土産は?」
トニーは頭をなでたり、抱っこしたり忙しそうだが嬉しそうだ。
まだ小さい子もいるようだ。その数八人。
父親が亡くなってから、時々城の給金を届けているらしい。
母親らしき人が出て来た。
私を見て少し驚いた様子だったが、中へどうぞと勧めてくれた。
帰ることが伝わっていたのだろう、食卓には食事がたくさん並べてある。
食事を摂ることになり私も便乗して戴くことになった。
「この子が女の子連れて来たの初めてだったからびっくりしちゃった!遠慮なく食べてね」
と、母。
「兄ちゃんこの人とけっこんするのー?」
と、弟。
私は食べている物を引っ掛けそうになるが、トニーは笑顔で「どうだろうな〜」と答えている。
トニーが話し始める。
「俺の父親も騎士団長だったんだ」
「そうそう、この子小さい頃から父さんみたいになるって言ってたのよ」
母親が嬉しそうに言う。
「夢が叶ったのね」
私も嬉しくなる。
いいなこういうの。あったかいな。
夕暮れになったので帰ろうとしていると母親に止められる。
「あら!ダメよ帰ったら!!もう暗くなっているのに!こんな可愛らしいお嬢さん連れてって盗賊や野獣に出くわしたらどうするの!!」
「いや、でも……」
トニーが何か言おうとするがさすがに母親には勝てないようだ。
「はいはい、もう準備してあるから」
と言い二階へ案内される。
案内された部屋は小さくてベッドが一つ。小さな窓もある。椅子や机はないようだ。
とりあえず風呂と着替えを済ませることにした。
トニーは穏やかではいられない。もちろん顔には出さないよう細心の注意を払っている。
え?母さん?一つのベッドにって何考えてんだよ全く!!
あ、そうか。結婚相手連れて来たと思ってるからか。
今更違うって言ったら、じゃあなんで連れてきたのかって聞かれて面倒くさくなる。
着替えを済ませたメアリーがベッドに座って見つめてきた。
え……すごく可愛い!!天使か!!
母さんの寝間着を借りたのかも知れないが、袖の長い白のワンピースが新鮮だし、化粧も落として幼く見える。
「俺はここで寝るからさっさとそこで寝ろよ」
ちょっとカッコつけて言ってみた。
というか、それしか言えない。
「え〜いいよ、こっちで一緒に寝ようよ。
床冷たいし痛いよ?」
え!?いいの!?寝ていいの!?こういう時!?
一つの布団の中に入って理性保つ自信ないのに!?
確かに床には絨毯も敷いてないから痛いし冷たい。確実にここでは寝れん。
仕方ないからベッドで寝るか。仕方ないから。
もう夜も遅いので灯りを消して寝ることにした。
なるだけ近づかないよう、背を向けて布団に入る。
やばいやばい!俺だって男だぞ!?我慢には限界があるって!!しかも風呂上がりのいい匂いが誘惑してくる!!
メアリーはこっちを向いているんだろう。時々手が当たる。
心臓が口から出てきそう。胸の音がメアリーにまで聞こえてそうだ。
俺だって女性経験はそれなりにあるし、そりゃフランやアーシュよりは少ないかもしれんけど。
……フラン?フランって子供の頃からメアリーメアリーって言ってるけど女性経験あるのかな?
でもあいつ、いつもスッキリした顔してるよな。
アーシュに限っては欲求不満になるどころか、欲求溜まる暇すらないもんな……
もういっそのことやってしまおうか。やってみて嫌がられたら止めればよくないか?
ごめんって言ったらきっと、いいよ気にしないでって言うんだろうな。優しいから。
王女だし。……王女だから?いや違う。メアリーだからだこんなに迷うのは。
他の女ならな……もう今頃終わってコーヒーでも飲んでる時間かも。
「トニー……」
「あ、寝れてなかっ……た?」
振り返るとすやすや眠っているメアリー。
なんだ寝言か。
……寝言!?俺の夢!?ボッと顔が赤くなる。
何度か深呼吸をして息を整え、メアリーの顔をまじまじと見る。
小さな寝息、無防備な寝顔。
なんて危機感のない……襲われるとは思わないのだろうか。
メアリーの頬にそっと触れる。
キスだけならいっか……
起こさないよう、そっと唇にキスをした。
翌日、足早に帰って来たトニーをフランがすぐ捕まえる。
「いいご身分ですね、王女連れて朝帰りなんて」
笑顔だが顔が引きつっている。
「変なことしてないですよね!?」
トニーに食いかかりそうな勢いだ。
「手は出してない手は……!!」
一方、メアリーはトニーの気など知らず、
「今度は誰の里帰りに着いて行こうかな〜」
と思うのであった。




