再・隣国からの招待、そして対面
部屋でミアに髪のセットをしてもらっていると、
いつもの三人が話しながら入って来た。
私の方には目もくれず勝手にソファに座っている。
何かが起きたことはわかる。三人とも険しい顔をしているからだ。
支度が終わり三人のいる場所へ着席する。
「で?今回は何?」
よほど言いたくない話なのか誰も何も言わず、重い空気が流れる。
「実は……」
こういう時に先陣を切ってくれるのはいつも決まってトニーだ。
「ドミナー王国のゼイン王子から連絡が来た。」
ゼインって言うんだ、王子の名前。
「また王国に来いと」
「え!?」
思わず立ち上がったので椅子が倒れる。
その椅子を起こしながらトニーが言う。
「わざわざ手紙に、今度はドラゴンが出ないよう森の警備を強化するって書いてあった」
先日の魔力暴走での出来事が鮮明に蘇る。
もし今回も罠だったら……
また同じ事が起こり魔力が暴走したら……?
またフランが抑えてくれるんだろうか?
フランに目をやると、全て察したようで笑顔でうなずき、発言する。
「でも無理しなくていいんだよ」
「このあいだのことがあったばかりですし、今回はそれを理由に見送ってもいい気はしますが……」
「そうだな……まあ俺が代わりに行ってもいいし」
「じゃあ今回は断るってことで……」
トニーがその場をまとめようとする。
「待って!」
反射的にに言ってしまった。
「もし、今回断ったとしてもまた来いって言われる気がする。この件は私が行くまで終わらないと思う。」
皆が一斉に口をつぐむ。
「このまま断り続ければ、それを口実に戦争をしかけられるかもしれない。
今断っても一時しのぎにしかならないと思う」
この国を守るためにどう動くべきか。
民を守りたい。国の平和を保ちたい。
それはみんな同じ気持ちのはず。
「メアリーがそれでいいなら……」
トニーが諦めたように言う。
皆、静かに頷ずき始めた。
ドミナー王国までの道中、馬車の中は静かだった。
特に森に差し掛かった時は緊張が高まり、誰もが窓から外の様子を伺っていた。
それを何事もなく抜けた時はホッとしたが、
城を見てまた心拍が上がる。
馬車から降りようとした時にアーシュに腕を掴まれた。
「言おうかどうか迷ったんだけど、言っておいた方がいいかなって……」
何だろう、すごく不安そうな顔をしてる。
「子供の頃、お前の手の上で小鳥を殺したのは……
ゼイン王子だ」
「!!」
だからか。最初の招待の時からみんなが行かせたくない様子だったのは。
王子を知っているような素振りだったこともうなずける。
ますます心拍が上がるのを感じ手に汗がにじむ。
城は黒を基調とされており、自分の城より大きく感じる。黒色だからか余計恐怖を煽られた。
案内された部屋は、地下だった。
明かりを照らし薄暗い廊下を歩いて行くと大広間に出た。
大広間も地下のため光が入らず等間隔で明かりが置いてある。中には兵士が数十人、壁に沿って配置されている。
これだけの人数……
抵抗すれば殺されるのだろうか。そのための配置だろうか。
背中を伝う汗を感じながら前へ進む。
途中でミアを含め四人は、兵士にそれ以上先に行かないように制止させられた。
それからまた少し進んだ先に階段があり、その上の椅子に人影が見える。
四人が気になり振り返ると、柱二本分ほど離れているのがわかった。
これでは何かあった時に私の元にすぐ来ることは出来ないだろう。
王子にも手出し出来ないようにということか。
「メアリー王女か」
頭上から冷たい声が聞こえた。
見上げると黒い髪に赤い瞳の王子がそこにいた。
冷たい視線に心の中まで見透かされているような気がする。
「はい。お会いできて光栄です。ゼイン王子」
失礼のないようなるだけ丁寧にお辞儀。少し声が震えてしまう。
「あ?」
明らかに機嫌が悪くなったことがわかる声。
「王が死んだんだから俺が国王だ。国王と呼べ」
「も、もうしわけありません、国王様」
こんなにも温度がない声を今まで聞いたことがない。怖いし動けない。まるでヘビに睨まれたカエルだ。思わず下を向く。
ゼインは何も言わず立ち上がり、カツ、カツ、と足音を立てゆっくり階段を下りてきている。
足音だけが広い部屋に響いている。
この空間に自分とゼインしかいないのではないかと思った。
恐怖で冷や汗が止まらない。手も震えている。
目の前で足音が止まり、自分の視界にゼインの靴が映る。
怖くて上を向くことが出来ない。
きっとゼインには全て伝わっているのだろう。
恐怖に怯えていること、動けないこと、一刻も早くこの場を去りた……
突然顎を掴まれ無理矢理上を向かせられる。
ゼインの顔が目の前にあり、燃えるような赤い瞳と視線が合う。
ゴクリと唾を飲み込んだ。
「好きだ」
え?今なんて言った?聞き間違い?
雑に髪を掴まれる。少し痛みが走った。
ゼインは視線を外さず話し出す。
「この金の髪、深い緑の瞳が好きだ」
さらに顔を近づけ耳元で囁く。
「この美しい髪をむしり取り、瞳はえぐり取ってグラスに入れて飾りたいのだがどうだろう」
と不敵に微笑む。
全身にゾワッと鳥肌が立つ。
だがまだ終わらない。
舌を出し、頬をべろっと舐められる。
「無礼者!!」
フランの声が背後から響いた。剣を抜こうとする音が聞こえたので素早く手で動くなと合図を送る。
剣の音はあと二つ聞こえたのでトニーとアーシュも同じ動きをしたのだろう。
「我が王族の血筋は、自分自身で毒や病を治す力がある。毒を盛られても死なん。」
私の手を自分の胸に触れさせ、
「狙うならここだ。ここを貫かないと死なん。
やりたきゃやってみろ」
と、冷たい目で笑う。
そこまで言うとバサッとマントを翻し背を向け扉の方へ歩き出した。
が、すぐに立ち止まり顔だけ振り向いた。
「で、飯はどうする」
そうだ食事会だった。でもこんな状態で食べれるわけない。早くこの場から逃げたい。
「国王様もお忙しいでしょうし、本日はここでおいとまさせていただきたいです……」
大丈夫か?機嫌を損ねてないだろうか。
「……そうだな、賢明な判断だ」
また不敵に笑う。
「俺がお前に毒を盛らんとも限らんしな」
「申し訳ありません。ご準備いただいたのに……」
ゼインはまた背を向け歩き出した。
「案ずるな。そんなもん最初から用意しとらん。」
ゼインが出た扉が閉まった瞬間に力が抜ける。
その場にへたりこんでしまった。
その帰り道、
フランは怒り心頭で何度も何度もメアリーの頬を痛いほど拭きながら「殺す殺す」とつぶやいていた。
ミアはハラハラしながらその様子を見ており、
トニーとアーシュは無言でそれぞれ窓から外を眺めているが、心の中で「次会ったら絶対殺す」と誓ったのである。
この出会いがメアリーの人生にとってかけがえのないものになるとは、この時はまだ誰も予想だにしていなかったのである。




