第5話「令嬢、毒謀を裂く」
宮廷の朝は、静かな緊張感に包まれていた。
昨夜の晩餐会で、ファユは犯人の手口を見抜き、証拠を押さえていた。今日こそ、その策略を逆手に取り、宮廷の闇を切り裂く時だ。
リーが小声で告げる。
「お嬢様、今朝、犯人とおぼしき貴族が執務室に現れました。接触する機会です」
ファユは微笑む。表向きは無力な令嬢、だがその瞳は冷静そのものだった。
「行きましょう、リー。巧妙な毒者は、自分の策を信じ切っているもの……そこが狙い目よ」
執務室。犯人は権勢を誇る中堅貴族で、これまで高官や侍女を通して皇帝に圧力をかけていた。
「ファユ・リン・シェン……また顔を合わせるとはな」
貴族は冷たく笑った。だが、微妙に手が震えているのを、ファユは見逃さなかった。
「あなたの策略、すべて見ています」ファユは静かに告げる。
「混合毒の痕跡、手袋の使い方、晩餐会での細工……誰にも気づかれないと踏んでいたでしょう?」
貴族の顔色が変わる。
「まさか、令嬢が……」
ファユは一歩前に出る。
「私は無力令嬢ではありません。知識があれば、毒も策略も逆手に取れます」
リーが静かに後ろで警戒する。だがファユは続けた。
「解毒薬も用意しました。あなたの手口は完全に把握しています。これ以上の被害は出させません」
貴族は唇を震わせ、やがて深く頭を下げた。宮廷の陰謀は、令嬢の冷静な観察眼と薬学知識によって砕かれたのだ。
事件が解決した後、庭でリーと二人きりになった。
「お嬢様……本当に、誰も敵わないですね」
リーの瞳には尊敬と安堵が混じっていた。
ファユは微笑む。
「敵わなくてもいいの。私が守りたい人々が安全であれば、それで充分」
月明かりの下、二人の影が庭に揺れる。静かな夜の空気の中で、ファユは心の奥で小さく誓った。
「宮廷の闇は深い……でも、知識と観察眼さえあれば、どんな毒も、どんな策略も、見抜ける」
こうして、無能令嬢と侮られた少女は、宮廷の毒謀を解き明かした。
だが、この世界の闇はまだ深く、ファユの戦いは始まったばかり――。