第4話「暗雲の晩餐会」
宮廷に招かれた晩餐会は、豪華絢爛な装飾と美酒に彩られていた。
だが、華やかさの裏には暗い影が差していることを、ファユだけが知っていた。昨夜の事件は未解決で、犯人はまだ宮廷の中で動いている。
「この香り……」ファユは小さく呟く。燭台の灯りの下で、微かに金属臭と混ざった薬草の香りを感じ取った。
リーがそっと肩に手を置く。
「お嬢様、警戒される方が増えています。宮廷の貴族たちも、昨夜の事件を知っている……」
「それは当然。毒を仕掛ける者がいるのだから」ファユは微笑むが、その瞳は鋭く光る。
「でも、この場で犯人を出し抜く方法があるはず」
晩餐会が始まる。貴族たちは美しい服に身を包み、優雅に談笑している。しかしファユは、彼らの指先や食器の扱い、微細な香りの違いから、誰が怪しいかを即座に見抜く。
「……あの貴族ね。手元のワイングラスに混入された痕跡があるわ」
リーの目が大きくなる。
「お嬢様、そんなことまで……」
ファユはすっと立ち上がり、グラスを取り上げると、わずかな手つきの違いを指摘した。
「この混合毒は、昨日の手法とよく似ています。犯人はまだ同じ人物、狙いは皇帝の信頼を揺るがすこと」
その瞬間、貴族は慌てて顔色を変えた。晩餐会の華やかな空気が、一瞬で凍りつく。
ファユは冷静に微笑む。
「安心してください、解毒薬も用意しています。これ以上の被害は出させません」
リーは感嘆の息をもらす。
「お嬢様……まさか、こんな場で……」
「宮廷では、表舞台だけが真実ではないの」ファユの微笑みは、無力令嬢の仮面を完全に外していた。
晩餐会が終わった後、月明かりの下でファユは独り言を漏らす。
「犯人の手口は見えたわ。次は策略を逆手に取る番……」
リーがそっと近づき、軽く笑った。
「お嬢様、その微笑みは……誰も敵わないですね」
「敵わなくていいのよ。私が守るべき人々さえいれば」
その言葉に、宮廷の闇を切り裂く決意が滲んでいた。
毒と策略が交錯する王宮で、「無能令嬢」の裏の顔は、今日も静かに、しかし確実に存在感を増していく――。