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いつもお読みいただきありがとうございます!

 金髪騎士は、アリスター殿下の護衛を務めているようだ。

 名前はライムント・デッカー。デッカー公爵家の次男である。

 通称ライライ。

 え、何で通称を知っているかって? 殿下が彼をそう呼ぶ口の形で分かっただけ。


 もう一人の若い騎士、まぁ金髪騎士だって若いのだけれど、腰の低い方の感じが悪くはない騎士はおそらく「るっくん」と呼ばれている。これも殿下の口の形から推測した。


 あの騎士たちは「ライライ」と「るっくん」である。


 走って出て行った殿下を金髪騎士が追いかけ、慣れた様子で抱き上げて戻って来た。

 殿下は泣いた痕跡があるものの、金髪騎士の長い金髪をいじりながら大人しく抱かれていた。気のせいでなければ、金髪騎士の髪で殿下は三つ編みをしようとしていた。

 もしかして、殿下に長髪を気に入られているから切らないのかもしれない。


 騎士が戻ってくるまでの間、私はメアリーさんに「殿下は突然の病で声を失ったのに、あなたは厳しすぎるのではないか。殿下の話し相手ならばまずは殿下が落ち着くまでは寄り添うのがうんぬんかんぬん」というお小言をもらっている最中だった。


 殿下が戻って来ると、メアリーさんは殿下につきっきりになる。

 殿下は私の態度が気に入らなかったのか、私の存在はチラチラ見るものの寄ってこない。


 初日は殿下の部屋に一緒にいて、本を読むだけで私は過ごした。

 それにしても、メアリーさんは殿下に対して過保護だ。彼女以外の侍女たちは、最年長でベテランの彼女の言うことに口出しもできない雰囲気だった。


 もし、殿下が私の息子だったら。もちろん仮定の話ね。

 メアリーさんみたいに過保護に接してしまうかもしれない。可愛い末っ子王子が急に病気で声が出なくなったのだから。


 でも、殿下は私の子供でも弟でも何でもない。

 その距離で見ると、メアリーさんの態度もどうかと思うのだ。


 メアリーさんが殿下の婚約者ならいいかもしれないけれど、殿下は五歳でメアリーさんはどう見ても四十過ぎ。

 順当にいけば、メアリーさんの方が絶対に先に死ぬ。そうしたら残された殿下はどうなるのだろうか。

 何でも察して動いてくれたメアリーさんがいなくなって。


 エヴァンを亡くした私みたいに落ち込んで一年引きこもるのかな? あ、今も大して変わらない引きこもりか。



「私もずっとアリスターと一緒にいられるわけではないのよ」


 翌日美貌の王妃様に呼ばれ、一緒に香りのやたらといいお茶を飲みながら、そう悲し気に呟かれた。そして、流されるままに城について来たが、今後のことを説明された。


 どうやら、私の身が危ないのは本当の本当のことらしい。

 騎士団が別件で捕まえた犯罪者の持つリストの中に、お金持ちの名前と一緒に私の名前があったのだそうだ。

 伯爵家ではなく、私個人の名前だ。

 私についての情報が書かれていたらしく、誘拐や襲撃の線が濃厚だったため慌てて城で保護してくれたそうだ。


 私が殿下のために開発した魔道具はまだ公に出回っておらず、特許や製品化の申請も書類を提出したばかりで認可はおりていない。

 それらが下りるまでは、誘拐や襲撃の危険性があると判断されたとのことだ。


「アリスターは突然声が出なくなったことがなかなか受け入れられなくて。でも、あなたの作ってくれた魔道具を最初は気に入っていたの。でも、周囲が魔道具を介さずにどんどん会話をしているのを見ると辛いのかしらね……私もあの魔道具を使って一日中会話しようとしたのだけれど、なかなか扱いきれていなくて」


 城の魔道具係も忙しい中であの手この手で頑張ってくれているらしいが、やはり五歳の男の子の気持ちも汲まなければいけない。

 ちなみに城の魔道具係は城中にある魔道具の点検・修理・改善・改良が主な仕事だ。明かりや水回りの魔道具だけでも膨大な数があるので、非常に忙しい高給取りの役職である。


 私はお城でアリスター殿下のお話係として、衣食住そして護衛までついた生活が始まった。

 しかも、メインでの護衛というのがあの金髪騎士ライライと腰の低いるっくんである。

 第三王子のついでに、私が別行動をとるなら護衛につくらしい。他にも第三王子の護衛騎士は何人かいるが、メインはこの二人なんだという。


 ちなみに、るっくんの本名はルーク・バーナードだという。バーナード伯爵家のご令息だ。

 ルークがアリスター殿下に自己紹介したところ、まずは「るっく」と呼ばれ、やがて「るっくん」に進化した(本人談)そうだ。ルークよりるっくんの方が長いのだが、本人が嬉しそうで誇らしげなのでツッコミは入れないでおいた。


 王妃様と会った後の私はといえば、メアリーさんが休みなのをいいことにアリスター殿下に接触を試みていた。

 メアリーさんはアリスター殿下のことがよほど心配なのか全然休みを取っていなかったそうなので、王妃様の命令で強制的に休んでもらったのだ。彼女がいると殿下に近づきにくいしね。

 他の殿下付き侍女たちは心細そうにしていたものの、やがて伸び伸びと働き始めた、と思いたい。


 嫌がる金髪騎士ライライに大きなクマのぬいぐるみを持たせて、私は魔道具を準備する。


 現在、アリスター殿下はイスに座って足をぷらぷらさせながら本を読んでいる。いや、本を読みながらクッキーを頬張っている。明らかに本よりもメインはクッキーだ。

 どうして、本を読みながら食べるクッキーってあんなに美味しいのかしら。私は本が汚れるからやらないけど、たまにやりたくなる。


 ライライにクマのぬいぐるみを持たせて、壁際からのぞいているような体勢にさせる。私とライライはもちろん、殿下から見えないように隠れている。


「なぜ、俺がこんなことを……」


 屈辱なのか、超有名ブランドの大きなクマのぬいぐるみが気に入らないのか、白い肌を真っ赤にしつつもライライは大真面目にクマのぬいぐるみを持ってくれている。殿下のためということは、理解してくれているらしい。


「王妃様に私と殿下のことをよろしくと頼まれているんですから、頑張ってください。クマの着ぐるみを着ろと言っているわけじゃないんですから」

「むしろお前が着ろ」

「まぁ、その時はその時で。私、魔道具いじらなきゃいけないんで、いい感じの動作をお願いします。クマのダンスとか見たいかもしれません」

「ぬいぐるみに埋め込めばいいだろうが」

「そうなんですけどね……さすがにこの超有名ブランドであるシュタインのぬいぐるみの背中を切って綿を出して魔道具入れてってやるのは……怖くて」


 シュタインのクマのぬいぐるみは可愛いのだが、お値段は全く可愛くない。

 魔道具はまだ軽量化できていないので、埋め込むにはある程度大きなぬいぐるみでなければいけない。ということで、すぐにできるものではないので苦肉の策だ。


「あ、そうそう。私、これからずっとこの魔道具を介して皆様と会話するので。遅くても怒らないでくださいね。操作に慣れているのでそこまで時間はかからないかと思いますけど」

「なぜ、そんな面倒なことを」

「だって、自分は声がでないのに周りが楽しそうに会話してたら嫌じゃないですか。殿下、まだ五歳ですよ。仕方がないなんて思えるわけないし、嫌でしょう。私がこの魔道具を使ってずっと過ごしているところを見せたら使ってくれるかもしれませんし、なんなら筆談とか違うコミュニケーション方法を取ってくれるかもしれません」


 ライライが黙ったところで、私は早速指を滑らせた。


『あーあ、アリスター殿下と遊びたいなぁ』


 急に響いたちょっと幼い声に殿下はクッキーを食べる手を止めてキョロキョロ見回し、壁際から覗く大きなクマのぬいぐるみを見つけて固まった。


『でも昨日泣いてたもんなぁ。あ、ご本読んでる。あれはヤギさんの本? クマについての本じゃないの?』


 魔道具を操作しながらライライの足を小突くと、彼は仕方がなさそうにクマが落ち込んでいるかのように体を折り曲げさせる。


『本に忙しくて、ぼくとルリアーネちゃんと遊んでくれないのかなぁ』

「お前、自分で自分にちゃんづけするの恥ずかしくないのか」

「世界観に文句つけないでください。このクマはルリアーネちゃんと私を呼ぶんですよ。ライライちゃんって呼ばせますよ? るっくんちゃんは変ですからね」


 ライライの小声でのツッコミが入るが、黙らせる。

 クマはもじもじしたり、アリスター殿下の方をちらちら見たり、という動作を始める。

 うん、なかなかうまいじゃないの、ライライ。


 るっくんが「あれは何でしょう?」とか言ってアリスター殿下の興味を引いてくれて、殿下は恐る恐る近づいてくる。


『カブトムシのお話とかしたいなぁ』


 やはり、男の子にはカブトムシである。エヴァンの言った通りだ。カブトムシが嫌いな男の子はいないのだ。


 殿下の目が分かりやすくその単語で輝いた。


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