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とりあえず死んでみたら?と死神君が言うもので。

作者: 昼月キオリ


一日目。日曜日の昼。


20歳の誕生日。

両親は共働きで家にいることはほとんどない。

二人とも僕と休日が違うから顔を合わせることもない。

たまに会っても会話はない。

出来損ないな僕に両親は期待などしていない。

ちなみに僕もしてない。

仕事は毎日ミスして怒られてばかり。

親しい友人もいない。

好きな子に告白したらキモイって言われた。

僕、今日誕生日なのに・・・。




春火(はるひ)「はぁ、死にたい・・・」

 

「なぁなぁ」

 

なんか遠くから幻聴が聞こえる。

ストレスでついに幽霊の声まで聞こえるようになったのかな。はーあ・・・。


春火は俯いたまま机に座り、背後から聞こえる声をただ聞いていた。


死神「死神のご登場〜!じゃじゃじゃ〜ん!」


春火「死神だって、馬鹿みたい」

ぼそりと春火が呟く。


死神「何だとー!?バカに馬鹿って言われたくねー!」

春火「僕は死にたいんだからそっとしといてよ」

死神「じゃあ、とりあえず今死んでみたら?」

春火「うん」


THE無気力。


死神「お前さ、死神が来たんだぞ」

春火「うん」

死神「もっとこう、驚くとか泣くとかないわけ?」

春火「別に、死神なんでしょ?だったらさっさと殺しなよ」


死神「お前って・・・」


"春火ってつまらない奴だよな"

"春火君ってつまらないね"


春火「・・・」


死神「お前って・・・"面白い奴"だな!!」


春火「うるさいな、そんなこと、僕が一番よく知ってるよ・・・え?今なんて?」

春火はついに振り返る。



そこには20代後半くらいの男性が立っていた。

黒いローブを着ている。

ウェーブがかった癖のある髪は漆黒で、吸い込まれそうな色をしている。

瞳はブラウン。尖った耳と突き出た牙。

どこぞの仮装パーティーかよ。



死神「え、だから面白いって」

春火「あ、死神・・・」

死神「だから死神だってさっきから言ってんだろーが、人の話聞けよ」

春火「はぁ・・・」

死神「おい、俺の顔見てため息吐くんじゃねーよ」

春火「はぁ・・・」




その日の夜。


死神「明日が怖くて眠れない?」

春火「うん」

死神「じゃあ、これ貸してやるよ」

春火「な、ナイフ?だいぶ歪な形してるけど」

死神「安心しろ、サヤ付きだ」

春火「そういう問題じゃない・・・」


死神「いいか春火、俺は刀を持ってる、ちなみにそいつがないと寝れない」

春火「は・・・?てゆーか何で僕の名前知ってるの」

死神「だって俺、死神だもーん」

春火「だもーんて・・・」


死神「いいか、これ持って寝りゃ、朝起きて死にたくなっててももう安心!死神特製ナイフだから切れ味は抜群、グサッと首を一突きであの世だ!

これでお前は安心して寝れるだろ!」

 

春火「はぁ・・・分かったよ、分かったから静かにして」

(この人(?)うるさ過ぎ・・・)


死神「何だよ、人、じゃなかった、死神が親切にしてやってるってのに」

春火「もう、何でもいいからとりあえずそれ貸して」

死神「ん」


春火は死神からナイフを受け取るとベッドに横になる。


少しの間、ナイフを見つめた。

なんかこう・・・昔読んだ漫画に出てきそうな妖怪が持ってそうなナイフだな。


春火「こんなんで眠れるわけな・・・ぐぅ・・・」

死神「あっさり寝てんじゃねーか」









二日目の朝。


僕はナイフで首を刺せるはずもなく、嫌々起きて仕事に向かう準備をしていた。


死神「なななんと!この薬は死神特製!飲めばあの世、すぐにあの世な優れものだ!」


死神の手には紫色の巾着。

解いた巾着の上に薬がいくつか載っている。


 

また死神特製・・・。


死神「いいからこれ持って一日仕事行って来いって、そんで一日の間で死んで来いよ、お前が死なないと死神である俺の任務が遂行できないんだからな」

春火「わ、分かったよ・・・」




会社に着き、仕事をスタートしてから2時間。

僕はまたミスをしてしまった。

パソコンの入力ミスだ。

直そうとすればまた他のミス、他のことを忘れる。

そんなことの繰り返し。

今日も怒鳴れてるんだな僕。



お昼休憩の時間。

僕はいつものように一人で隅っこの席に座る。

ああ、最悪、でも・・・この薬があればいつでもこの世とサヨナラできるんだよね。

弁当箱と一緒に春火は薬が入った巾着を取り出して見つめた。

案外、心強い味方かも。








三日目の夜。


死神「なーなー、そろそろ死ぬ覚悟決まったか?」


死神は僕の右から左から前から後ろからあらゆる角度から話しかけてくる。

そろそろ死なないか、と。


春火「うるさい・・・・」


これ、いつまで続くんだろ。

いや、僕が死ぬまでか。この人(?)は死神なんだから。

任務遂行がどうたらって言ってたし。


死神は紐をつけた五円玉を取り出し、左右に揺らした。


死神「ほーらほーら、あなたは段々死にたくなーる、死にたくなーる・・・ぐぅ・・・」

春火「何であんたが催眠にかかってんだよ!」


しまった。思わずツッコミを入れてしまった。

いつの間にかこの死神のペースにハマってしまっている!


死神「バチッ・・・おっといけねー、俺は眠気には勝てないんだ」

春火「あそう・・・」




その日の夜。


死神「とりあえず死ぬ日を決めようぜ、春火は二か月後の五日(仮)だ!」

(わっくわく)


楽しそーだね・・・。


春火「何で僕が死ぬ日を君に決められなきゃいけないんだよ」

死神「カッコ仮だって言ってんだろ、お前が決めりゃいい話だよ」

春火「もう、その日でいいよ」


死神「お前はさ、死が身近にある方が安心して生きれるタイプなんだよ」


春火「何だよそれ・・・意味分かんな・・・」

(思い当たる節があるので何も言えない)


死神「ほらな?それでだ、お前は二か月後の五日に死のうとする、

だが、実行して万が一死に切れなかったら自由に生きりゃいいよ、どうせ一回死んでるんだから他に怖いもんなんかないだろ、

お前の場合、ごちゃごちゃ考えたって上手くいかないんだから楽に考えてみろよ」


春火「無理だよ、簡単に言わないで」

死神「ずっとやれなんて言ってないだろ、一回でいいんだって、一回だけやってみ」

春火「一回だけ・・・」


死神「そ!まー、お前が生きてたらの話だがな」

死神がビシッと自分より一回り小さい春火を人差し指で指す。

春火「そう、だね・・・」

あまりに偉そうな態度の死神に僕は半分呆れたように返事をするのだった。








土曜日。休日。


僕は昼頃に起きてベッドから立ち上がった。

死神「どした?トイレか?」

春火「ご飯食べるんだよ」



春火はキッと死神を睨む。

あれから毎日、死神君はこの部屋にいる間はずっといる。

起きた時も寝る時も、ゲームしてる時も漫画読んでる時も。

こっそり後ろから覗き込んでいる。

バレバレなんだけど。



死神「死にたいくせに飯は食べんのか、変わった奴だな」

春火「僕の勝手でしょ」

死神「まぁ、勝手だな」



後ろからペタペタと足音が聞こえる。

僕は靴下を履いているけど死神君は素足なのだ。

春火「何で付いてくるの」

死神「俺の勝手でしょ」

春火「むすっ・・・」



キッチンに行き、フライパンで肉と玉ねぎを炒める。

ジュージュー。


死神「え、何、お前って飯作れんの?」

春火「まぁ」


死神がじっとこちらを見ている。

非常に作りづらい!!


生姜焼きが出来上がり、皿に盛り付けると椅子に座る。

ご飯はレンジでチンするだけの簡単なやつ。

余った分は明日のお弁当にしよう。



キッチンに生姜焼きのいい匂いが立ち込める。

死神「いい匂いだな・・・なぁ、俺も食っていい?」



いつの間にか目をキラキラさせた死神も椅子に座っている。


春火「え?・・・」

明日のお弁当にしようと思ってたけど、まぁいいや。


死神「食べたい食べたい!」


死神がテーブルに両腕を真っ直ぐに伸ばしたまま両手を交互にバタバタさせている。

連動して両足もバタバタしている。

 

春火「分かったよ、フライパンの残った分あげるからバタバタしないで」

死神「本当か!?やった〜!」


はしゃぎ過ぎでしょこの人、じゃなかった、死神。


春火はフライパンに残っていた生姜焼きを皿に移し、ご飯をもう一つレンジでチンすると死神に出した。

棚から割り箸を二つ取り出し、自分と死神の間に置く。


死神「いっただいまーす!もぐ・・・ん!?」


死神が割り箸を持ったままわなわなとしている。


春火「え、そんなに不味かった?・・・」

死神「う、う・・・」

春火「う?」

死神「お前天才か!?めちゃくちゃ美味いじゃねーか!」


春火「大袈裟だな、料理部だからそれなりにできるだけだよ」

(でも、ちょっと嬉しい)


死神「料理部・・・あー、部活のことか、どんな奴でも一つは取り柄があるもんだな」

春火「うるさい」

でも、こんなに美味しそうに食べてくれるのはちょっと嬉しい。

今までそんな相手いなかったし。








二か月後の五日。春火、自殺予定日(仮)。


死神「で?死ぬ気になったか?」

春火「うーん、なんかどっちでもないってゆーか」

死神「今死んだ方が色々得だぞ」

春火「何がどう得なんだよ」


死神「だってお前の場合、生きてても仕事で大成することはねーし、彼女もできねーし、この先幸せなんてないぞ」

春火「な、何で死神君にそんなこと分かるんだよ?」

死神「ばーか、死神は何でも知ってんだよ、そいつの一生がすでに見えてるんだ、だから俺はお前のところに来た、それはお前が一番よく分かってんだろ?」

春火「うん・・・そうだね、僕も人生にも自分にも期待してないよ、だから一回だけ・・・」

死神「うん?」

春火「どうせ仕事も恋愛も上手くいかないんだ、

一回だけ、楽なことだけ、楽しいことだけやって暮らして、死ぬのはそれからでも良いかなって」

死神「はー・・・ま、お前が決めたんだったら俺はもう何も言わん」


死神は後頭部をガシガシと掻いた。

 

春火「ずっと思ってたんだけど、死神君は死なせようとはするけど殺そうとはしないんだね」

死神「ばーか、死神にはそんな力はねーよ、だから、期待すんなよ」

春火「はは、そっか、それは残念」

死神「んじゃ、俺はそろそろ行くわ、じゃーな春火」

春火「うん、バイバイ」

 

なんかちょっと寂しいかも、なんて思ってる自分が悔しい。


死神「あ、また腹減ったらひょっこり顔出すかも、

そしたら生姜焼き作って」

春火「図々しい奴・・・ふっ」


そして死神君は風と共に消えた。






天空。


「また、あなたはやりたい放題やりましたね」

30代半ばくらいの見た目でスーツを着た部下が死神に話しかける。すると・・・。


「ほーっほっほ!!」

死神は笑い声と共にマントを脱ぐと神様の姿にチェンジする。

白い衣装に白い羽、長くて白い髭、頭上に黄金のリング。

70代後半くらいの男性だ。


「何故、神様のままの姿ではなくわざわざ死神の姿になったんです?」

「神様の姿だと幸せにしてくれとかなんとか期待されて面倒じゃろうが」


「まぁ、確かに」

「死神の姿の方が好都合だった、理由なんてそれだけじゃよ」


「それでわざわざ、あの青年が好きそうな漫画チックな見た目にこだわったと」

「まぁ、そんなとこじゃな」


「相変わらず、破天荒なお人だ、あの青年、これからろくな人生待ってないと分かっててわざと生かしたあなたも悪趣味な人ですね」

「いやいや、趣味じゃないよ、ろくな人生ではないが・・・これからは"それなり"に楽しいこともある、

全く持ってしょうもない!ほっほっほ」


「やれやれ、あなたに弄ばれる人間達が不憫でなりませんね」

「結果的に春火君は助かったんじゃから、良かろう?」


「まぁ、俺や他の奴らだったらとっくに理論責めにして死なせているでしょうね」

「じゃろう?」


「神様とは名ばかりですねぇ」

「ほっほっほ、そうかもしれんのう」





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