散歩に行こう
持病を幾つも抱えている私は医者に勧められて、天気の良い日は毎日散歩に出かけている。
玄関から出て両手を上に力一杯伸ばす。
なんか今日は調子が良い。
アパートの2階に住んでる為、階段を登り降りする時は手すりにしがみつくようにして登り降りしているのに、今日は手すりに掴まる事も無く降りられた。
何時もの散歩コースに向かう。
何時もの散歩コースとは、アパートの裏に見える川沿いの土手の上の遊歩道。
土手の上の遊歩道に登る為の階段を3弾飛ばしして上がる。
ウォー! 今日は身体が軽いな。
何時もだと、遊歩道に上がる階段の前で息切れして暫く休まなくてはならないのに。
身体が軽く感じて私は持っていた杖を振り回し歓声を上げながら、全速力で遊歩道を走る走る走る。
時たまジャンプするように飛び上がりながら遊歩道を走った。
こんなに全速力で走ったり飛び上がったりしたのって何時以来だろう?
多分、50年前の大学生の頃以来だろうな。
老人の幽体が遊歩道を歓声を上げて走っていた頃、老人の肉体はアパートの部屋の布団の中で孤独死し冷たくなっていた。