筆記の時間です蝿の王
入学試験の為にまたここにやって来た。
周りの視線が刺さるようだ、気まずすぎる。
足早に会場へ向かい席を確認して座る。
試験開始まで寝たふりでもしてやり過ごすかと考えていた時、
「隣、失礼するわね」と一人の女性が座った。
「あぁ、気にしないでくれ.....アッ!!!!」
座った女の顔を見て思わず大きな声を出す
「ビックリしたぁ、急にどうしたのよ大きな声だして」
「貴様は確か昨日、賢者の孫と呼ばれていた女!」
見間違えるはずもない、過去に出会った賢者と性別は違えど瓜二つだ
「なにその喋り方」彼女はそう言って笑った
「そう、私は賢者の孫[ガーベラ・フォン・テトラネオン]。長いだろうし好きに読んでもらって良いわ」
確かに長い名前だ、あの賢者ももしかしたらこれほど長い名前だったのかもしれない
「我...いや私はベールゼだ」
何はともあれ賢者の孫と知り合いになれたのはデカい、彼女から我が破れた後の話を聞けるかもしれない。
「そっか、よろしくベールゼさん。後喋り方も好きにして良いわよ、それとも笑ってしまったのを気にしているのかしら?」
「む?そうか、なら遠慮なく。こちらこそよろしく頼むぞ賢者の孫よ」
「流石にその呼び方はやめてほしいかなって...」
しまった!完全に距離感を見誤った。
そんな雑談に花を咲かせていると先日の試験官が部屋に入ってくる。
「諸君!静粛に、ここにいるのは先日の試験を合格した者だろう。だがそれで満足している者は我が学園の敷居を跨ぐことは出来ないだろう!」
相変わらずわざとらしいな、ワクワクする
「ではテスト用紙を配る、試験時間は3時間だ」
中々の紙束が配られてきた、これを3時間とは中々の難易度ではないか
「それでは、始め!」
一斉に筆を走らせる音がする、一瞬にして空気が張り積める。
だがこの程度魔王である我の障害にすらなり得ない、っと思っていた。
[一般的に魔法を使用する際の魔術式はどの様に組まれているかを答えよ]
マズイ、分からない、人間の魔術式など非効率だと思っていたせいでチェックなどしていない。
他の空欄を埋めながら現実逃避を続けた、だがやはりこの問いだけは埋まらない。
残り時間は1時間20分、他の問いは全て答えた、考える時間はある。
頭を捻らせる、流石に効率の悪い人間でも100年も経てば進歩しているだろう、でも未だに初級魔法ですら詠唱している種族だぞ、いやしかし...
頭をうねらせていると試験官から驚きの言葉が発せられる
「残り10分だ」
ん?今10分と言ったか?
待て、マズイ10分だと!先程まであった膨大な時間は何処に行った!それよりもこの問いを埋めねば!魔術式すら知らぬ大馬鹿と思われてしまう!
慌てて空欄を埋める、そして後悔する
マズイ!今書いたのは我が普段使いしている術式だ!他にあの術式を使っている者などドール以外おらんぞ!
「ペンを置け!答案を回収する!」
終わった、確実に終わった、多分周りから見た我は生気が抜けて真っ白に見えるだろう、今の醜態はそのレベルの絶望だった。
「どうしたのよベールゼ、顔色がわるいわよ」
ガーベラが心配してくれている、だが今の我にはその優しい声すら痛みになる
「すまんが我は帰る、用は後日聞かせてくれ」
我に話しかけてくれる声を聞き取る気力すら削がれた我はフラフラと帰路へつくのであった。