楽園に吹く風
人ではない生命が会話を交わしたら、新たな世界が生まれました
生物体がまだ生まれる前の平野にて、小さな小さな生命が息吹き始めていた。紅くそして甘酸っぱいその生命にはまだ呼び名は無く、ただただ大地に根を付けているのみ。五等星ほど小さい粒の生命は幾つか大地を感じていて、時に眠りそして、時に目覚める行為を繰り返していた。生命は時折考えを過らせる。(ワタシ達は何故ここに存在しているのか……この先どんな使命がワタシ達を待つのか)自問を胸に繰り返すだけの日々を過ごして、また意識を遠ざける。幾度となく時間を費やし、どのくらい経過しただろうか。(変化が欲しい……ワタシ達に生まれた意味を伝えてくれる、そんな変化が!)生命は新たな展開を求める。退屈過ぎる日常を、染めてくれる展開が欲しい。「こんにちは……心地好い場所だね」上空から声がした。生命の意識が上へ向けられる。そこに居たのは、半透明な体の別の生命だった。(こんにちは。アナタに似た生命、ワタシ達知ってる)何度も見てきた。飛来する半透明のそれらを。「わたしの名はカゼ……ニンゲンという別の世界にいる生命から、名付けられたの。アナタ達の名はイチゴ」何を言っているかさっぱりだが、なんとなく『イチゴ』というのが自身達の事だと理解した。「わたしは温かい場所を求めて旅をしているの。今、その途中」(温かい?旅?)言葉の種類を知らない生命達には、カゼが口にしている事が分からない。(ニンゲンって何?アナタは何故何も無い空間に立っていられるの?)「わたしは飛べるから立てるの」(?)キョトンとする生命達に半透明な生命は興味を示す。「決めた!ここをわたしの拠点地にするわ」(え?キョ……何?)「ここに住む、って事。これから宜しく」生命達の心に、これまでに無い気持ちが芽生えた。(分からないけど、この感じが続いて欲しい。ずっと変わらず……これからこの場所で生きていくのね)「ずっと、生きていくわよ」小さな世界に生まれた小さな友情。