先輩何やってるんですか!
ガチャリと部屋の扉が開く音がした。
「ちょ、先輩、勝手に話進めないでくださいよ!」
30代前半のノリが軽そうな男が入ってきて、その小太りな男の隣に座った。
「すみません、遅れて申し訳ございませんでした。山田幸太郎と申します。」
名刺を丁寧に渡してきた。
「山田さん。ご連絡ありがとうございました。」
私もすかさず名刺を山田に渡す。
そういえば、メールのやりとりをしていたのは山田だった。
「遅れてすみません。何か上司の上山がご無礼を働いてないでしょうか。」
「あ、大丈夫です。」
拍子抜けして、少し頭が上ったのが落ち着いた。
「良かったです。それでは、始めさせていただいてよろしいですかね。」
「はい。」
「うちでは、企画として男装をするんですよね。最近はBLも流行っているので、メンバー内でBLドラマを作ったりですとか、男装して歌ってみたりですとか。」
「はいはい。」
「如何せん、男装のクオリティが高くはないんですよね。それでも別に視聴率に影響はないし、企画として成り立つんですが、メンバーや一部のファンから、うまく男装できてないから、素材殺しだといった声も上がっていて。ですから、今のメンバーの良さを引き立てるためにも、メンバーの橋本から名前が上がった末芳さんにお願いをしているわけです。今回は番組内における3月の卒業シーズンの学園の恋愛ドラマと男装5人組でのパフォーマンスを2曲やりたいなと思っておりまして。末芳さん、男装して活動されている歴も長いですし、舞台経験もあるようですから、ドラマ内での立ち振る舞いの指導もしていただきたくて。」
山田は私の経歴を思っていたよりも調べてきていたようだった。
山田はかなり情熱的だった。この仕事が大好きで、今よりもっと良いものを作りたいという熱意が溢れていた。
「ドラマの方は、撮影の時に手伝うことになりますよね?」
「そうですね〜。撮影時に演技指導もしていただきたいと考えてます。そんなにしっかりとしたドラマではないので、1日撮り終わると思います。ドラマの撮影はちょうど1ヶ月後の14日あたりを考えているんですがご都合どうでしょうかね?」
「わかりました。考えておきますね。」
「アイドルの方は、事前に2、3回レッスンをしていただきたくて。振りとかは基本的には覚えておくようにするので、立ち振る舞いですとか表情の作り方を指導していただきたいですね。」
「日程の方はまた追って連絡させていただいてよろしいですかね。」
山田は真面目な男のようです。