くちばしの黄色いひよっこ
500文字未満制限企画に参加する為に書きました。
お題は「立夏×カナリーイエロー」です。
「かっ、金を出せ」
五月の深夜、コンビニ。
カウンター内に店長の敦、カウンター越しに老人。他に誰もいない。
薄汚く、ホームレスの様な老人。
背が低く、自分の父親と同世代に見える老人。
敦は恐怖など感じない。
恐怖を感じない理由はもう一つ。
老人が敦に向けている物。
鮮やかな黄色。
最初、敦にはバナナに見えた。しかし、バナナで強盗する者などいない。
カッターナイフ。
鮮やかな黄色。
刃が出ていない。だからバナナに見えた。
「あんた、金奪る気ないだろ?」
敦はある話を思い出していた。
もうじき夏が来る。
ホームレスは冬の寒さより夏の暑さでくたばる。
刑務所に逃げ込む為にわざと逮捕される。
そんな話を。
「とにかく金はやれない。非常ボタンも押さない。……本当はダメだが、廃棄予定の弁当やるから帰ってくれ」
「うっ……」
「綺麗事かも知れないが、人生やりなおすのに遅いも早いもないんじゃないか?」
「……すまん」
老人は弁当を二つ受け取り、出ていく。
自動ドアが閉まり、老人が見えなくなる。
敦はやるせない表情で自動ドアを見ている。
★
翌朝、近所の公園で老人の死体が発見された。
地元の不良少年達に絡まれ、リンチを受けていた。
敦はまだ布団で眠っている。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
ご感想、評価(★)頂けると励みになります。
よろしくお願い致します。