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作者は自分が体験したことしか書けない

作者: 唐揚げ

「作家は自分が体験したことしか書けないらしいね」


 突然、友人の中本が部屋にやってきて言った。大学で同じサークルに所属していた彼は、細々とした生活の傍ら、作家活動のような事をしていた。だが、一向に売れる気配はなく、本人は気にしてはいないと言うが、本当のところは気にしているのが言動の端々から伝わってくるのだった。

 きっと今日やってきたのも、その証左だろう。インターネットで発表した作品の評価が気に食わなかったのかもしれない。しかし、それにしては大きいリュックサックを背負ってやってきていた。

 リュックサックをずしりと重そうに畳の上に置き、テーブルを挟んで私と向かい合う。


「つまり、何が言いたいんだ。ミステリー作家は本当の殺人犯だし、ファンタジー作品の作者は魔法使いかエルフだと?」

「真にリアルな作品を描くならその方が良いだろう。結局のところ、人は経験した事しか書けず、経験したことの方がより印象深く書けるんだよ」


 中本は言った。

 私は少しでも落ち着くのであればと、ホットミルクを渡す。

 冷房が効く中において、ホットミルクを出すのは如何なものかとも思ったが、暖房の中でアイスクリームを食べる背徳感というのもあるのであって、逆に冷房の利く中で鍋をするというのもあるので、であれば、そういうのも問題ない気がする。


「それで何が言いたいかと言うとだな。私は今、狂気に苛まれたキャラクターを主人公とした話を書こうと思っているんだ」

「それで」

「シーンを書くのに、四条大橋で爆発をしようとするシーンがあるんだ。つまり、先ほどの話ならば実際に、爆弾を持って四条大橋に向かった方がいいと思うんだ」


 突拍子もない計画を口にしてきた。さらりと中本が口にするものであるから、私は初め、何を言っているのか飲み込めなかった。しかし、頭でその言葉が理解できると、何という事を口にしているのかという驚きが湧きあがってきた。

 それから中本は矢継ぎ早に爆弾の材料を手に入れている方法を調べた事や、具体的な爆発の機構を口にしてきた。なんてことない、中学生程度でも理解できるような知識で、それほど難しくはなかった。私自身、理系ではないが、それでも、十分に理解できる内容だった。

 そう。

 中本には実行するだけの知識と、資金があった。

 さらに言ってしまうと、祇園祭の歩行者天国があった。


「なんでわざわざ私にそれを言うんだ?」

「捕まった時、テレビとかの取材に答える友人が必要だろ?」


 それだけを言うと、重そうにリュックサックを背負って中本は出て行った。

 私は一人、部屋に残されてしまった。ぐるぐると頭の中で、思考が回る中、中本の言っていたことを繰り返す。

 確かに創作者が体験したことではないと、その作品は書けない事はあるだろう。しかし、かと言って、わざわざ危険な事を他人に巻き込む必要はない。いや、冷静に考えると、今先ほどの計画は、無差別な大量殺人だ。京都の四条大橋は結構な混雑をする道であり、そこで爆発を炸裂させたらどうなるか。

 とてつもない被害がでる。


 私は、革のジャケットにさっと袖を通すと、部屋を出た。

 すっかりと土曜日の夕方である。夕方のひんやりとした空気が辺りに漂い始めていた。私は駐輪場へと向かってから、四条大橋へと向かって自転車を漕ぎ始めた。夕闇がどんどん色濃くなっていく中、四条大橋へと向かって、長い道を下っていく。

 三条通を超えて、有名なチョコレート屋の前を過ぎたあたりで、ぱっと道端に見知ったシルエットを見つけた。

 中本である。

 中本は、四条大橋の手前、レストランの辺りで立っていた。その視線の先には人だかりがあり、もしも爆発すればただ事ではない。私は自転車を乗り捨てる形で、降りると走り出した。そして、歩行者天国へと向かう中本に向かって走りだす。


「やめなさーい!」


 そして、歩行者天国に入ろうとする中本に抱き着き形で押し倒した。


「ちょ、何をするんだ」

「それはこちらのセリフだよ。馬鹿な考えをするんじゃあないよ!」


 私は、そういうと、中本の背負っている黒いリュックをはぎ取る。

 返せよ、という中本の顔をビンタして黙らせると、リュックを開いて、中に入っていた物を取り出した。

 それは、巨大な芋羊羹だった。

 何かしら奇妙奇天烈な機械と、時計が張り付いてはいるが、芋羊羹だ。


「こ、これは」

「芋羊羹だよ。なんだ、君はいきなり」


 中本が立ちあがりながら、呆気に取られている私の手から芋羊羹をひったくる。


「君が爆発テロを起こすのではないかと不安になって、止めに来たんだ」

「馬鹿な事を考えるな。私だってそんな事をしませんよ。何だ? 君は心配してきてくれたのか?」

「それは、まぁ、友達だからな」


 私はそう言うと、中本は恥ずかしそうに頭をかいた。


「まぁ、ともかく、せっかく来たのだから、酒でも飲んでいこうじゃないか」


 地面へと倒れたままの私へと手を差し伸べながら、中本は言った。その手を、しっかりと握りながら起こしてもらう。

 そこでふと思い至った事を聞いてみる。


「この一連の流れを、君は小説にしないだろうね?」


 中本はリュックサックを背負い直して、肩を竦める。


「さぁ、どうだろうね」


 そう含んで笑う中本と共に祇園祭で賑わう四条通の奥へと進んだ。

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