クチナシの芳る海岸で
その日僕は、クチナシのようなその少女に出逢ったんだ。
麦わら帽に白いワンピースのその少女は、黒い髪をなびかせながらこう言った。
「あなた、神様って信じる?」
突然のその言葉、僕は彼女が何を言っているのか分からなかったけれど、何とか答えを絞り出した。
「信じない。科学的に存在が証明できないじゃないか」
「……月並みな答えね」
彼女は退屈そうに淡いくちびるを尖らせる。
「はあ?」
「近頃は本当、そんな面白くない人間ばっかり。やれ理屈がどうの、科学がどうの、ご都合がどうのってさ。もっとロマンを求めなよ、人なら」
「しかし、現実問題そうじゃないか。理屈で証明出来ることが認められるのが人の社会だ」
「ええ、確かにそうね。だけど神様だの妖怪だのにも理屈はあるの。それは、あなたたちがまだ『理解できない』理屈なのよ。観測しえないものを『ありえない』としているだけ」
「……」
だったら君には分かるのか、と聞きたかったが、何となくそれは辞めておいた。
しかし彼女はつまさき立ちになり、僕の顔を覗き込んでこう言った。
「だったら君には分かるのか、って顔ね?」
「……なぜそれを」
「分かるよ。だってあたし、神様だから」
そう言って彼女はにかっ、と口の端を上げる。
突然、彼女の翼に真っ白な羽が生えた。彼女はその大きな翼を羽ばたかせ、「うふふ、うふふふ」と笑いながら、遠い空に飛び立って行った。
「……いるとこには、いるもんだな」
腰を抜かした僕は、雲の先に見えなくなった彼女の影をいつまでも眺めていた。