虚忘
「ねぇ」
さっき何と言ったっけ
どんなことを言ったっけ
覚えてない
覚えられない
「ちょっと待ってくれ」
嘘じゃないんだ
覚えてないだけ
あったかもしれないし
なかったかもしれない
「そんな顔で見ないで」
咄嗟に出てしまっただけなんだ
楽しそうだったじゃないか
尊敬してくれてたじゃないか
興味を持ってくれてたじゃないか
だれが?
「いかないで」
嘘にならないようにがんばるから
言われたこともちゃんとおぼえるから
だからおねがい
おいてかないで
「」
「あれ、」
どこだここ
何をしなくちゃいけないんだっけ
誰かに言わなくちゃいけなくて
でも覚えてなくて
「なにを、」
あの人のこと
あの日の出来事
今までのこと
忘れかけていることを
「してたっけ。」
わすれた
なにもない
自分じゃない
「ねぇそこの人。」
私は何を言って、
わたしはいったいなにをしたの?