第二章 辿り着いた異地
そこは何も無くただ空間がどこまでも続いているように見える真っ白な空間だった。そこに一人の少年が倒れている。
神城 真一である。真一はゆっくりと目を擦りながら体を起こす。
「……なにがあったんだ?なんだったんだあの光は?」
「なっ!? どこだここは?俺は親父の書斎にいたはず……」
目を開きこの真っ白な空間を目の当たりにした真一はまるで信じられないものを見たかのような顔をして言った。 そしてその後何か考え込むように俯き何かぶつぶつと呟き始めた。
◇
「だぁーー! もうわっかんねぇよ!ここはどこなんだーーーーーー!!」
真一は叫びその場から立ち上がるともう一度天を仰ぐように顔を上に向け叫んだ。
真一の声が空間に吸い込まれ消える頃、空間にかすれた声が響く。
「………ち…… ……いち… …んいち… しんいち」
「…!? なんだこの声は?」
その声はどんどんはっきりとした声に変わっていきやがて真一の耳に届いた。
「真一聞こえるか?今は時間が無い、用件だけ言っておく。お前を今から異世界に飛ばす!選択の余地は無い!」
「おい!! お前はだれ…」
「ではいくぞ!」
その声の主は淡々と告げ、ギャンギャンとわけがわからず喚いている真一の言葉を遮るように声をあげる。
「まて!まだ何も聞いていない!お前はだれだ?なぜ俺の名前を知っている?異世界って何だ?ここはどこだ?」
真一は自分の疑問をその声にぶつけるがその疑問を跳ね除けるように声の主が叫ぶ。
「悪いが時間が無い!いずれ会うことになるだろう、そのとき全て話す!」
その刹那空間が眩い光に包まれた。
「まてーーーーーー!」
光が空間を包み込んでいく中、真一の声が木霊した。
◆
ここは『地球』と平衡して存在している異世界『地界』である。この地界の中に存在している5つの大陸の中のひとつ『アルセウス大陸』である。
アルセウス大陸はこの世界の南東に位置している大陸で、人間、亜人間、獣人とさまざまな種族が互いに理解しながら生きている。
この大陸では個人での小競り合いや犯罪は発生しているが国同士の戦争など大規模な争いは起きていない比較的平和な大陸といっていいだろう。
そんな大陸のこれまた南東に位置する広大な草原に真一は倒れていた。
「ん……。」
草原の心地よい風で目が覚めたのか、真一は小さな声で呻き目を擦りながら体を起こす。
草原に照りつける太陽が眩しいのか目を細め画なら辺りを見回した。
「ここは?…」
真一はもう一度辺りを見回すとガシガシと頭を掻きながらイラついた声色で呟く。
「なんなんだよ……。 異世界か…。あの声が言うことが本当ならもうここは異世界ってことになるが信じれるわけねぇ。」
そういう真一は俯き何かぶつぶつと呟き始めた。おそらく今までの経緯を整理しているのだろう。
「考えられる原因はあれしか考えられねぇ。だが、何でこうなっちまったのか理解できねぇ。」
真一の言っている『あれ』とはおそらくあの大学ノートのことだろう。
まったくその通りであるいきなり異世界に飛ばすといわれてはいそうですかと受け入れられる人間がいるだろうか? いるならば見てみたいものだ。
「……。」
また真一は目を瞑りぶつぶつと呟き始めた。
◇
「だぁ~~~~! わっかんねぇ!」
しばらく考え込んでいた真一だったが突然立ち上がり転移向かって叫び声をあげた。そしてその場にどさっと座り込むと今度は落ち着いた声で呟く。
「ふぅ~~。もう考えるのは止めだ。こうしていたって状況が変わるわけでもない。……歩くか。」
そういうと真一は立ち上がりもう一度辺りを見回してから広大な草原を歩き出した。
◇
真一が歩き出してから2時間は経過しているだろうかそれでもまだ真一は歩き続けていた。休憩なしで歩き続けただからだ廊下その足取りは心なしか重い。その顔はなんとも不機嫌な顔だ。広すぎる草原にイラついているのが一目でわかる。
「なんにもねぇ。どんだけ広いんだこの草原は?だいたいだな………ん?」
不意に不満が口からこぼれるがその愚痴は真一が何か発見したことで途切れる。真一は何かを発見するとその『なにか』に向かって駆けていく。
徐々に近づいていくことでその何かの正体が明らかになっていく。明らかになった招待を見て真一の顔は、見る見る青ざめていき自然とそれに歩んでいた足が止まる。
「なんだよ……これ。」
真一の目線の先にあったのは、剣に貫かれ息絶えている偉業の姿をした生物だった。恐怖からか真一は不気味な笑い声を上げる。
「はは……まじかよ。嘘だと信じたがったがもう信じるしかないじゃねぇか………異世界ってやつを。こんなのがいるのかよ出合ったら即アウトじゃねぇか。」
真一の心境は今どん底に落ちているだろうその証拠に薄っすらと目に涙が見える。だがそれも一瞬、何か決めたような顔になると真一は刺さっていた剣をぐっと握り締めると一気に引き抜く。
「気休めかもしれないが持っていないよりはいいか。こいつで戦うしかないな。」
そういうと再び真一は歩きだしていく。
◇
あれからまた2時間はたっただろうかいまだ真一は歩き続けている。相当疲れているのだろうその足取りは重く顔は険しい。一刻も早く人がいる場所に辿り着きたいのだろう。
「……ん?」
不意に足が止まる、真一が目を凝らしてみている咲には微かだが黒い影のようなものが見える。
真一はその黒い影に少しずつ歩んでいく。それの正体がわかった瞬間一気に真一の顔が明るくなる。人影だ。
「人だ。……よかった。」
人が見つかったことで安心したのだろう糸が切れたように座り込む。
気を取り直すと真一はその人物に向かって駆けていった。