回想の刻渡し
いきなり隣に座ったシェナにユージーンは戸惑う。
夜に密室で男女が2人きりで、女性が異性のベッドに座る。
それが、どう言う意味を指すのか分からない程、ユージーンは鈍感では無かった。
だから、咄嗟に隣に座ったシェナの肩を掴み、シェナの行動を止めようと焦る。
「ちょっと待て、き、君は、何を、」
だが、当のシェナは、恥じらう様子も自身から誘う様子も無く、
「あ、別にエロい事をするつもりで隣に座った訳では無いから。変な期待したなら、先に謝る。ごめん」
右手を縦に立て、真顔で謝った。
「・・・・・」
その謝罪にユージーンは、思わずガクっと俯き右手で目を覆い脱力する。
「だから、恥じらいを持て・・・・」
「だから、ごめんって」
自慢では無いが、騎士団の副隊長として体は常に鍛えていたし、騎士団副隊長の立場からか、女性に誘われた事も過去に何度か有る。
仕事を優先し過ぎて、女っ気が無いと同僚や部下によく言われていた。
だが、一瞬でも、年下の女性に好意に思われて誘われたと思った自分に思いっきり羞恥心を感じたユージーン。
「・・・・君は、もう少し恥じらいと危機感を持つべきだぞ」
俯きながら、シェナを睨む。
だが、耳が少し赤くなっている事に多分、ユージーンは気が付いていない。
「と言うか、こんな小娘が隣に座ったくらいで動揺しないでよ」
「・・・・・・」
そんな、ユージーンを見て呆れるシェナに何も言い返せなかった。
「まあ、冗談はこのくらいにして」
「・・・笑えない冗談だったぞ」
「少しは肩の力が抜けたでしょ?」
「ッ、」
悪びれる事も無く、真顔で自分を見上げているシェナ。
「ああ・・・・」
不本意だが、確かに先程の憂鬱な自己嫌悪が少しだけ緩和された気がする。
今の彼女を例えるなら、警戒心が強いはずの野生動物が無遠慮にすぐ近くに寄ってきて、真横に居座る様な感覚だった。
「そう、それなら・・・よかった」
そう言いながら、シェナは小さく目尻を下げ、小さく口角を口角を上げ、微かに微笑む。
まただ・・・・・。
傷を負い、不安と状況の把握が出来ずに困惑し、ほぼ無意識の防衛本能で目の前の彼女を押し倒した。
なのに、シェナは、怖がりも、怯えもせずにジッと俺の目を見て来る。
今回の件について事情聴取をした時も、自分は疑われるべき容疑者だと言うのに、疑うそぶりも無く、普通に接し、気まぐれの様に手を貸してくる。
不思議な人、いや、
「君は、不思議なハーフエルフだ」
「そう?」
キョトンとした表情で首を傾げるシェナは少々幼く見える。
なるほど。龍の宿り木のギルドメンバーがシェナに対して過保護になるのがなんだか、わかる気がする。
「それで、君は、俺に何を伝えたかったんだ?」
先程よりも、大分気分が楽になり、ユージーンは隣に座るシェナに改めて、問いた。
何故、隣に座ったかは、分からない。
だが、おそらく彼女がこの様な行動をするのは何か理由があるはずだ。
何故かそう思えた。
「エンシェント・ドラゴン」
「っ、」
「最後、知りたい?」
「教えてくれるのか?」
「ユージーンには、知る権利が有ると思うから。ユージーンが望むなら、『見せる』事が出来るよ」
「見せる?」
「私が見た景色、光景、出来事、全部魔法で観せる事が出来る。でも、ユージーンがこの事を知らなくていいと思うなら、見せるのを止める。無理して見せようとは思っていない。どうするかは、ユージーンが、自分で決めて」
縦に細い瞳孔の青い瞳がじっと俺の目を見つめる。
「見せてくれ」
俺は、即答した。
知るべきだと、そう思った。
「教えてくれ。エンシェント・ドラゴンの、・・・・ルウの親の最後を・・・・」
「・・・・分かった」
シェナは俺の答えに頷き、俺の右手を握った。
「少しでも嫌だと思ったら、右手を振り払って。魔法を中断する事が出来るから」
「、ああ」
思った以上に小さく少しだけ冷たいシェナの手にほんの少しだけ、動揺してしまう。
だが、シェナは気に留める様子も無く、握った手に力を込める。
「目を閉じて、心を落ち着かせて」
「ああ、」
「始めるよ」
「頼む」
俺はそう言うと、目を閉ざし、出来るだけ冷静に心を落ち着かせる。
「・・・・・、『時の流水、黒き夜に映すは我が瞳、遠ざかるは褪せし色彩』」
耳に届く彼女の言葉は、異国の言葉に聞こえるが、これは、古代魔法詠唱か・・・。
確かに、古代魔法詠唱は、魔法術式を強化させる事が出来る。
「『白き泉に集いし記憶の雫、回遊するは、小さき緋色の音色、翠の香、蒼き陰。三色の色を交え、像を成す、』」
「ッ、」
まるで、唄の様に紡ぎ唱えられる詠唱。
目を閉ざしている筈なのに、脳裏に白く靄がかかった景色が浮かんで来た。
「『泳ぎ、流れ、留まり、受け止めるは薄氷の鏡。音よ響け、香りを届け、陰を捉えよ』」
シェナとユージーンが繋いだ手から光が灯り、そのままシェナとユージーンを包む。
「あの時、あの景色をこの者に。
魔道術式、『回想の刻渡し』」
白く靄がかかっていた視界が鮮明になっていく。
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