昔話
4人はそれぞれにキツネ月見うどんを堪能する。
「ふぅ、何だか体がポカポカしてきました」
「体を温める効果があるショウガを少しスープに入れました。今夜は冷えそうだったんで。エマさん少し冷え性ですしね」
「ああ、シェナの心遣いが一番暖かいわ」
「そんな大袈裟な」
シェナの心遣いに感動するエマ。
「しみしみの油揚げ最高!!」
油揚げに齧り付きながら上機嫌のアーシア。
「『ブシ』の味がよく出ていますね」
器を持ち上げ、スープを飲むロベルト。
「『ブシ』かぁ、懐かしい。ルリコがよくコレで美味しい物作ってくれたっけ。煮物とか汁物とか」
「ええ、やはり、シェナの料理の腕はルリコ譲りのようですね」
優しくシェナに微笑むロベルト。
シェナは照れくさそうに少し顔を赤らめる。
「そうそう、それに初めてこの『ブシ』を見た時のルリコは印象的だったな」
「ええ、東の商人がただの木に棒を法外な値段で売りつけていたいると思って見に行ったらルリコがいきなり叫んで、発狂したかと思いました」
「その後すぐその東の商人の所へ行って木の棒を有り金叩いて買っていたのには驚きましたわ」
アーシアさんとロベルトさんとエマさんとが母さんの思い出話しをし始める。
「その後、その木の棒が魚を煙で燻して加工した東の大陸の保存食品だって初めで知ったものね」
「他にも家畜の餌でしか無かった豆や穀物から沢山の食べ物を作り出しましたし」
「他にも街に通り掛かった商人や職人にいきなり話しかけては口八丁手八丁で色んな物を仕入れたり作らせたり」
「ルリコの食に対して物凄い執念を感じたわ」
「ええ、しかし、彼女は美味なだけではなく、保存が利く食品の発明、発見でこの街に大きく貢献しました。王都から大分離れているこの街が繁栄し、このギルド『龍の宿り木』をここまで発展してきたのは一重にルリコのお陰です」
「でも、ルリコ、美味しい物を食べたいだけ、って言って殆どギルドの貢献って事にしちゃったのよね」
「今考えると勿体無かったと思いますが、ルリコらしいとも言えますね」
「あと、何気に腕っ節も強かったですから荒くれ者とかも更生させたり、酒に酔って悪さをした強面の男に説教したり。小柄だったのに本気で怒ると恐かったわね」
「明らかに体格が違い過ぎる程の大男に掴みかかって説教したのには、その場に居たギルドメンバー全員ど肝を抜かれましたね。流石に」
「あったわね、そんな事」
笑いながら母の話題で盛り上がる3人。
私は、会話には参加しないで3人の母さんの思い出話を少しこしょばゆい気持ちでうどんを食べながら聞き耳をたてる。
「さて、もうそろそろお開きにしましょうか」
うどんを食べ終えエマさんが淹れてくれた食後のお茶を飲んでまったりしていると、ロベルトさんが時計を見ながら空になった器と小皿を片付ける。
「あ、手伝います」
「いいえ、大丈夫ですよシェナ。ご馳走になったんです。片付けわ」
「私たちが」
そう言ってエマさんも食器を片付けを始める。
「エマさん」
「美味しいキツネ月見うどんご馳走さま」
「えへへ、お粗末さま」
エマさんのご馳走さまに照れくさそうに笑うシェナ。
「シェナ。手配した貸し部屋は『梟屋』ですよ。今日から入れますよ」
「はい。ロベルトさん。今日は本当にありがとうございます」
「いえいえ。シェナもこれから頑張ってください。こちらも何か分かったらすぐに連絡を入れますね」
「はい。お願いします」
「アーシア、貴方もそろそろ帰った方がいいわ。頼まれた物は後日届けさせるから」
「ありがとう。エマ。じゃあお言葉に甘えて。お先に」
「お疲れ様です」
アーシアは右手をヒラヒラ振りシェナは軽く頭を下げて部屋を出た。
「もう、4年になるんですよね・・・ルリコが亡くなって」
シェナとアーシアが部屋を出てからしばらくしてエマがポツリと呟く。
「そうですね。早いですね」
「でも、彼女は強かったです。身も心も」
「ええ。彼女曰く「母親は強い者」らしいですから」
エマもロベルトもアーシアも『龍の宿り木』結成時からのギルドメンバー。
12年前にギルドの扉を叩いた女性、ルリコ・ミツキ。
彼女は色んな意味で非凡だった。
彼女はこの世界で誰もが持っているはずの魔力を持たない人間だった。
詳しい事は誰も聞かなかったが生まれつき魔力を持たず、今まで過ごして来たと聞いた。そして、エルフの青年との間に生まれた子供が愛娘のシェナだった。
彼女は魔力が無いから体一つで闘った。
笑顔と口八丁と自慢の料理の腕で人望を築いた。
どこまでも明るく、どんなに辛い目にあっても折れない精神を持っていた。
そんなルリコの不思議な魅力に、徐々に惹かれる者も出て来た。
だが、魔力が無い母親と魔力が弱いハーフエルフの娘。結成間もない頃のギルドは荒くれ者の集まり。標的になるには時間の問題だった。
女だと言われナメられ、魔力が無いと蔑まれ、時に暴力を振るわれそうになった事もあった。
だが、ルリコはそんな輩を、特にシェナに被害を受けた時は笑顔で完膚無きまでに相手を叩きのめした。
そしていつからか、『鬼子母神』とあだ名されるようになった。
だが、ルリコは死んだ。
4年前。とあるクエスト中。
SSS級の混合魔獣キメラを討伐の際、キメラに致命傷を負わされ、その怪我が元で亡くなってしまった。
母ルリコを亡くし孤児となったシェナは『龍の宿り木』のギルドマスターの好意でギルドで下働きをしていた。
そこに、パーティーを結成して間もないガストが珍しいハーフエルフのシェナを半ば強引に引き抜いたのだった。
「あれから、パーティー『ソロモンの槍』で拳闘士として所属はしていたみたいですけど実際はほとんど雑用係をやらされていたみたいです」
「ギルド脱退の件はともかく、あのパーティーを抜けた事は正解ですね。彼らには色々と問題が多いですから」
眉間に皺を寄せるロベルト。
あらかた食器を片付けテーブルを拭くエマ。
「ロベルトさん、今回のギルド脱退件は」
「ええ。私の方でも調べてみます、今回の件は腑に落ちない点が多すぎますから。それに」
ロベルトは眉間の皺を緩める。
「シェナに何かあったら、あの世に居るルリコにドヤされます」
「ふふ、確かに」
ロベルトとエマは娘大好きな『鬼子母神』を思い出し、可笑しそうに笑った。
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